洛和会ヘルスケアシステムは毎月第3金曜日、幅広い地域の皆さまを対象に、京都の市街地・四条烏丸で健康教室を開催しています。
8月15日は、洛和会音羽病院 居宅療養部(総合診療科兼務)の副部長 谷口 洋貴(たにぐち ひろたか)が「高齢者の在宅診療〜その現実と問題点〜」をテーマに講演しました。
★在宅診療とは
簡単に言えば、在宅診療とは家が、お部屋が“病室”の医療です。
在宅診療では、患者さま・ご家族・医師などの医療スタッフ・介護者という4人の関係者が存在します。在宅診療はそれぞれが信頼し合っていなくては成り立ちません。
在宅診療の最大の強みは、自宅で患者さま個々に合った医療・看護が受けられることです。また、介護者・ご家族のケアができることも大きなメリットです。患者さまにとって、精密検査がすぐにできる外来診療や入院診療の方がいい環境とは限りません。
★在宅診療のあらまし
〜在宅診療を行う医療者の心得
在宅診療は単に在宅で過ごすための医療ではなく、患者さまが少しでも動けるように、外に出られるようにするため、少なくとも現在の生活レベルを維持できるようにするために行う医療です。
そのためには、診療の前に患者さまやご家族がどのような方で、どのような背景を持っておられるかを知ることから始めます。それを基に長期的な診療方針を立てたり、お住まいの設備を整えたり、ケアの対応方法を決めたりします。
病院では“チーム医療”といい、医師や看護師、コメディカルと呼ばれる医療技術者たちが協力して患者さまの治療にあたります。在宅の“チーム”は、医師や訪問看護師などに加えて、ご家族と患者さまもメンバーです。このチームはそれぞれが対等で、医師はこのチームのコンダクター(指揮者)と言われます。私たち医師は、患者さまとご家族の希望を実現するために、患者さまの持っている力とご家族の介護能力を最大限に伸ばし、“チーム”としての能力を引き出す努力をしなくてはなりません。
★高齢者の在宅診療
〜高齢者医療全体の現状と問題
高齢者が“寝たきり”になる原因で特に多いのは「3大老年病」と呼ばれる「脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)」「認知症」「整形外科疾患(骨粗しょう症、大腿骨頭頚部骨折、脊椎圧迫骨折)」で、これらの予防が重要です。
〜高齢者在宅医療特有の問題
在宅医療を受けている患者さまに多い問題として次のようなものがあります。
・ 栄養状態が悪いまたは良すぎたり、栄養のバランスが偏ったりしている
・ 肺炎・尿路感染症などの感染症にかかりやすい
・ 嚥下障害(食べ物・飲み物をうまく飲み込めない)がある場合、栄養を取れなかったり、窒息や誤嚥性肺炎(肺の中に飲食物などが入り込んで起こる肺炎)になる恐れがある
・ 口の中が不潔になりやすく、誤嚥性肺炎を引き起こしやすい
・ 褥瘡(床ずれ)ができやすい ※(1)寝返りができない(2)痩せすぎている(3)むくみがある(4)関節が硬くなっている、などのことがあると特にできやすくなります。
・ 常に横になっていることや歩かないこと、また薬の副作用や栄養状態などの影響で、排尿・排便障害が起こりやすい
・ 転倒による骨折などが発生しやすく、生活の質がさらに低下する可能性がある
・ 廃用症候群になる(関節が固まったり、手足が持ち上がらないほど筋肉が落ちるなどの症状がある)
その他にも、在宅医療を続ける高齢者を取り巻く問題があります。
・ 介護者がいない、もしくは1人で介護をしている(1人暮らしや2人暮らし)
・ 老々介護
・ 介護保険制度
・ 財産・年金などの財力
★高齢者の在宅診療の展望
日本の人口は減少しており、将来的には若い介護者が減り、老々介護が増えていくと予想されます。今後は、先端技術を利用し、人間が感じることのできない微妙な体調の変化も見逃さないような、24時間見守りなどができる周辺技術(ICT)の需要が高まるでしょう。
最近、幸いなことに在宅診療を志す若い医師が増えています。国外から看護師や介護職員を受け入れることで、介護・看護力の増加も見込めます。しかし、現時点では訪問介護や介護をしている人は減少しているのも事実です。さて、在宅診療の未来は明るいのでしょうか、暗いのでしょうか。
★考えておきましょう
将来自分が介護される立場になったときに、どのような介護・医療を希望するか、さらに“自分の希望する亡くなり方”を考えておいてください。また、気管切開・胃ろう・膀胱バルーンなどの処置をして在宅診療を行うことは可能ですが、これらを希望するかどうかも考えておいてください。現実には難しいと思いますが、診療している医師としての希望です。