2009年03月02日

第18回らくわ健康教室「高齢者の水頭症―治療可能な歩行障害・物忘れ」

洛和会ヘルスケアシステムは毎月第3金曜日、幅広い地域の皆さまを対象に、京都の市街地・四条烏丸で健康教室を開催しています。
2月20日は、洛和会音羽病院 正常圧水頭症センター 所長の石川 正恒(いしかわ まさつね)が「高齢者の水頭症―治療可能な歩行障害・物忘れ」をテーマに講演しました。


090220ishikawa_2今日のテーマである「水頭症」については、ほとんどの方が聞かれたことがないと思いますが、実は脳卒中やアルツハイマー病、パーキンソン病などとともに、高齢者に多い病気です。

では、どんな病気でしょうか。
私たちの体では脳脊髄液(髄液)がたくさん作り出され、脳と脊髄の周りを循環しているのですが、この髄液の流れや吸収が何らかの原因でさまたげられると、脳室が拡大します。これが水頭症です。
小児の場合は、圧力がかかって頭囲が拡大する「高圧性水頭症」がほとんどですが、高齢者では頭蓋内圧が正常範囲でありながら症状が現れる場合があります。これを「正常圧水頭症」といいます。

正常圧水頭症の代表的な症状は、物忘れや歩行障害、尿失禁です。これらには、くも膜下出血や髄膜炎を起こしたあとに症状が現れるという原因がはっきりしているものもあれば、原因がはっきりしないものもあります。この原因がはっきりしないものを「特発性正常圧水頭症」といいます。

世界に先駆けガイドラインを作成

正常圧水頭症は、医師の間では随分前から知られていた病気ですが、物忘れや歩行障害などの症状は高齢者なら他の病気でも起きることや、手術効果の予測が難しかったことなどから長い間治療の普及が進まなかったという経過があります。

しかし急速に進む高齢化を考えれば放置できるものではなく、装置の進歩もあって手術の効果が予測できるようになり、2002年には日本正常圧水頭症研究会で、私が委員長となって、診療のガイドライン(標準的な診療の目安)を作ることになりました。2004年に発表しましたが、これは2005年に発表された国際診療ガイドラインよりも1年以上先行したものです。

症状と検査

正常圧水頭症の症状をもう一度詳しく説明します。次の3つです。

  1. 歩行障害
    歩く際に小刻み・すり足となり、歩くのが遅くなる。起立するのも時間がかかり、不安定。
  2. 認知障害
    ボーっとする時間が長くなり、自分から積極的に動くことが少なくなる。作業に時間がかかる。家族の名前がわからなくなることや徘徊、幻覚、幻聴はない。
  3. 尿失禁
    歩行障害の影響もあってのことだと考えられるが、トイレに行くまでに出てしまう。

これらの症状の患者さまに対して、まずMRIなどの画像検査を行います。正常圧水頭症の疑いがあれば、腰のあたりから髄液を抜いて、症状が改善するかを調べるタップテストを行います。

髄液シャント術により劇的に歩行が改善

治療が有効とわかった場合は、全身状態などを考慮して髄液シャント手術をおすすめします。
髄液シャント術は皮膚の下にシリコンでできた管を通して余分な髄液を体内で吸収させるもので、脳室と腹腔を結ぶもの、脳室と心室を結ぶもの、腰椎と腹腔を結ぶものの3種類があります。最近は体外から流す髄液の量を調節できる装置ができ、昔と違って合併症(手術に関連して起こる病気)も少なくなっています。

髄液シャント手術後は多くの方に劇的な歩行の改善がみられます。認知障害や尿失禁もやや遅れて改善することが多く、1年後の結果でもかなり高い率で症状の改善が認められ、患者さま本人の自立心の向上、介護者の介護の軽減が得られています。

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ほかのらくわ健康教室の記事はこちら⇒らくわ健康教室 講演録3



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