7月30日は、洛和会音羽病院 正常圧水頭症センター 所長の石川正恒(いしかわまさつね)が、「治る歩行障害」「治る認知症」として関心を集め始めている正常圧水頭症について、症状や治療法を、さらには、高齢者に多い転倒事故の予防についても講演しました。
講演の要旨は以下の通りです。
日本で最初に立ち上げた診療センター
「正常圧水頭症」は聞きなれない病気だと思いますが、今注目を集めている病気です。「正常圧水頭症センター」は私たちが日本で最初に立ち上げた診療センターだと思います。
正常圧水頭症とは、大脳の中心にある脳室に髄液がたまって脳を圧迫し、歩行障害、認知障害、尿失禁などの症状がみられる病気です。
正常圧水頭症には、次の2つがあります。今日は、この内 2. の特発性正常圧水頭症を中心にお話します。
- 続発性正常圧水頭症
くも膜下出血など、明らかな原因で、脳脊髄液の循環や吸収が悪くなって起きる。 - 特発性正常圧水頭症(iNPH)
原因が特定できないが、歩行障害などの諸症状がでる。
iNPHの症状
- 歩行障害(90%)小刻みに歩く、すり足、開脚、不安定
- 認知障害(80%)物忘れ、意欲が低下など
- 尿失禁(60%)
いずれも加齢とともに現れる症状ですが、単なる年齢によるものとは、程度が異なります。
また、パーキンソン病と似た症状も多いですが、開脚して歩くという点が違います。
髄液排除試験(タップテスト)
手術の前に、手術の効果が期待できるかどうかを調べる髄液排除試験(タップテスト)を行います。
腰椎の間から、髄液を30cc抜き取るというものです。数日以内に症状(多くは歩行)の改善があれば、高い確率で、髄液シャント手術の効果が期待できます。
治療(髄液シャント術)
iNPHの治療は髄液シャント術を行います。
髄液シャント術の中でも、脳の周囲から髄液をお腹に誘導し腹膜で吸収させる「脳室―腹腔シャント」が標準的な治療ですが、最近では腰椎から髄液を誘導する「腰椎−腹腔シャント」も行われます。
また現在では、手術後の症状に応じて、誘導する髄液の量を体外から調節することができます。
高齢者の転倒について
重心が不安定、筋力の低下、視力の低下などのため、高齢者は転倒しやすくなります。
高齢者の家庭内事故の7割は転倒で、転倒場所は居室が7割、転倒した人のうち4割が骨折をおこします。
また、骨折が原因で寝たきりになった人のうち、大腿骨頚部骨折の人が7割を占めます。
「iNPH」は転倒しやすい条件が揃っているので、予防に努めることが大切です。
<まとめ>
わが国は高齢者の人口が増加の一途にあり、特発性正常圧水頭症の正確な診断と確実な治療が患者さまの自立度改善および介護者の負担軽減の観点から重要です。