7月1日に開かれたらくわ健康教室は、洛和会丸太町病院 心臓内科 医員で、医師の富士榮 博昭(ふじえ ひろあき)が、心臓や血管の病気の治療にやさしいとされる「ステント」について、開発・進化の歴史や、治療の実態について講演。「性能が著しく向上し、冠動脈だけでなく、さまざまな疾患に適応が拡大しているので、疾患の早期発見を行って、早期に治療を受けてほしい」と述べました。
富士榮講師の講演要旨は次のとおりです。
血管は“人体最大の臓器”
成人1人の全身の血管を全部つなげると、長さはざっと10万キロで、地球を2周半もするほどもあり、血管を形成する内皮細胞の表面積はテニスコート27面分もあります。まさに血管は「全身をめぐる“人体最大の臓器”」です。
狭心症・心筋梗塞や脳卒中は、心臓や脳といった臓器そのものに原因があるのではなく、血管に原因があります。この原因となる動脈硬化性疾患の治療に使われているのが「ステント」です。
ステントの治療目的
バルーン(風船)を用いて血管の狭窄部分を拡張する治療法が、1977年、ドイツ人医師グルンツィッヒ博士によって始められましたが、広げた血管がもとに戻る力によって起こる再狭窄や血管解離を解消するために、ステントが開発されました。
ステントとは、金属でできた網目の細い筒で、血管などの狭くなった部分に挿入し、広げるための医療機器です。このステントで血管壁を恒久的に支持・拡張することで、血管内腔を確保できるようになりました。
ステント内再狭窄とステント血栓症
ステントの内側に新しい組織が増殖して、再狭窄が起こる可能性が高いのが、ステント治療のアキレス腱でした。そこで、内側に再狭窄を防ぐ薬が塗ってある薬剤溶出性ステントが開発され、再狭窄率はぐっと改善されました。現在では、さらに性能の高い、第2世代の薬剤溶出性ステントの時代となっています。
また、ステント治療のもう1つの問題点として、ステントに血の塊ができて血管が詰まってしまうステント血栓症があります。それを予防するために、2種類の抗血小板薬(血液をさらさらにする薬)の内服が必要となっています。
ステント性能の向上で、冠動脈だけでなく、全身血管の動脈硬化性疾患に対しても適応できるようになり、より体に負担の少ない治療で、患者さまにより長くQOL(生活の質)の高い人生を送っていただけるようめざしています。