5月22日に開かれたらくわ健康教室は、洛和会音羽病院 京都口腔健康センター 総合歯科 部長の後藤 方通(ごとう まさみち)が、歯を失わないための予防と、失った歯を補う方法について説明しました。
講演内容は以下のとおりです。
どうして歯はなくなるの?
歯は何本残っていますか?
厚生労働省によると、20本以上歯がある人の割合は、40〜44歳で98.0%、60〜64歳で70.3%、80〜84歳で21.1%と報告されています。80歳の方でも、5人に1人が、20本以上の歯をお持ちだという状況です。
(2005年歯科疾患実態調査)
歯医者さんに聞きました 「歯を抜いた理由は?」
全国の歯科医師を対象に、抜歯処置とその主な原因などについての調査が、2005(平成17)年に行われました。(「永久歯の抜歯原因調査」財団法人8020推進財団)
結果は次のとおりでした。
- 歯周病: 41.7%
- 虫歯: 32.3%
- 虫歯治療後の歯の根もとのひび割れ(歯根破折): 11.4%
- 矯正: 1.2%
- そのほか: 12.5%
歯を失う原因の大半は、1.歯周病、2.虫歯、3.虫歯治療後の歯の根もとのひび割れ にあります。
歯周病はどうしてなるの?
歯を失う原因として最も多いのが歯周病です。歯周病は、歯を支えている骨が溶けてしまう病気です。以前は「歯槽膿漏」と呼ばれることが多かったのですが、現在は「歯周病」という呼び方が一般的になっています。痛みなどの自覚症状がほとんどないため、気が付いたときにはすでに手遅れになっていることもあります。
歯周病の主な原因は、プラークと呼ばれるさまざまな細菌の塊です。歯石や口呼吸、歯ぎしり、かみ合わせ、歯並び、全身疾患、遺伝などの影響によって、歯周病が進行することもあります。ほとんどの歯周病は、歯磨きで予防できるので、正しい歯磨きが重要です。
歯石って何?
プラークにカルシウムやリン酸が沈着して、歯に石のように硬くこびりついたものです。プラークと違って、歯ブラシでは取り除くことができません。
「歯石かな?」と思われる場合は、歯医者に行って取り除いてください。
どうして虫歯になるの?
虫歯になる理由として、
- 虫歯菌が多い
- 1日に何度も食べたり飲んだりする
- 唾液が少ない、唾液の質が良くない
- 歯磨き粉(フッ素を含むもの)を使っていない
などが挙げられます。
▶ 1.虫歯菌が多い
▶ 2.1日に何度も食べたり飲んだりする
食事をすると、口の中は酸性になり、時間がたつと中性に戻ります。酸性の状態にあると歯が溶け(脱灰)、中性になると通常に戻ります(再石灰化)。
何度も食べたり飲んだりを繰り返すと、酸性の状態が長くなることになります。つまり歯が溶け出す状態が長くなることで、虫歯になってしまうのです。
▶ 3.唾液が少ない、唾液の質が良くない
唾液には、
- 口の中を清潔に保つ 〔洗浄作用〕
- 口の中を中性に保つ 〔緩衝作用〕
- 酸によって溶けた歯を修復する 〔再石灰化作用〕
- 口の粘膜を潤し、口を滑らかにする 〔潤滑作用・湿潤作用〕
- 消化を助ける 〔消化作用〕
- 飲み込みを助ける 〔咀嚼・嚥下作用〕
- 細菌から生体を守る 〔生体防御作用〕
などの作用があります。
ストレスや全身疾患(糖尿病、シェーグレン症候群など)、薬物の副作用、放射線治療、更年期障害、加齢などによって唾液が減少することがあります。
▶ 4.歯磨き粉(フッ素を含むもの)を使っていない
フッ素には、歯から溶け出したカルシウムやリンの再沈着を促す作用があり、再石灰化を助けてくれます。
歯の質を強くして、酸に溶けにくい歯にするだけではなく、虫歯の原因となる菌の働きを弱め、酸がつくられるのを抑えます。
歯をなくさないためには
虫歯と歯周病を予防する正しい歯みがき
以前は、1日3回、食後3分以内、3分間歯を磨く、「理想の歯磨きは3・3・3」といわれていました。しかし現在では、さまざまなデータから状況が変わっています。
歯磨きは何回?
子どもが対象ですが、「1日2回以上歯みがきをする子どもたちは、1回以下の子どもたちよりも20〜30%程度虫歯が少なかった」という調査結果があります。したがって、歯磨きの回数は「2回以上」、1日に最低2回は磨くようにしましょう。
食前、それとも食後?
食前に磨くのか、食後に磨くのか、どちらが良いという科学的根拠はありません。さわやかになってから食事するのか、食後にさわやかにするのか、好みに合わせて選びましょう。
ちなみに、世界的に見ると、アジア圏では食後に歯磨きをすることが多く、西欧諸国では食後は歯磨きしない傾向があるようです。
いつすればいいの?
睡眠中には唾液の分泌がほとんどなく、寝ている間に細菌が増えています。細菌の増殖を防ぐためにも、寝る前に歯を磨くようにしましょう。
睡眠前に歯磨きをしても、完全に菌を取り除くことは困難です。朝起きたあと、あるいは朝食後にも歯磨きをしましょう。
歯ブラシの選び方と歯磨きの際の注意点
歯ブラシは、毛先の硬さが普通か柔らかいものを選んで、歯磨きをする際には、次のような点に注意しましょう。
- 歯磨き(フッ素を含む)を使用する
- 1日2回以上、適切な力で磨く
※軽すぎず、強すぎず、大体150〜200gほどの力です。ご家庭の計りなどを使って、どれくらいの力か確認してみてください。 - 1回はじっくりと時間をかける(10分〜15分)
- 歯間ブラシかデンタルフロスも併用する
- 歯と歯肉の境目に歯ブラシを当てる
歯を失ったら・・・
歯磨きなどでしっかり予防をしていても、実際には歯を失ってしまうこともあります。そのときの対応として、
何もしない
ブリッジ
入れ歯
インプラント
が考えられます。
何もしない場合
歯が抜けた状態をそのままにしておくと、抜けた場所によっては、前歯が出っ歯になったり、奥歯が伸びたり、負担過重で歯が折れたり、差し歯や詰め物が取れたり、歯を支えている骨が溶けたり・・・と、良いことはありません。〜
の方法を検討してください。
ブリッジ
<利点>
- 固定式なので違和感があまりない
- 保険診療可
<欠点>
- 前後のきれいな歯を大きく削る
- 支えとなる歯に負担がかかる
- 食べ物が詰まる
- 部位によっては空気がもれて発音しにくいことがある
- 使用材料によっては高額。
入れ歯
<利点>
- 多くの歯がない場合も可能
- 健全な歯を少ししか削らない
- 保険診療可
<欠点>
- バネを掛ける必要があり、その歯の負担が大きい
- ガタつく
- 違和感を感じやすい
- 食べ物が詰まる
- 噛む力は30〜40%程度に弱まる
- 使用材料によっては高額
インプラント
<利点>
- 違和感がほとんどない
- 健全な歯を削らない
- ほかの歯に負担を掛けない
<欠点>
- 手術が必要
- 全身疾患のある人はできない場合がある
- 十分な口腔ケアが必要
- 保険診療外のため高額
歯のないところは、ブリッジ、入れ歯、インプラントで補いましょう。個人差がありますが、基本的には、
インプラント > ブリッジ > 入れ歯
の順位で検討されることをお勧めします。