2012年07月27日

第107回らくわ健康教室「成人病胎児期起源仮説からみた妊娠の管理 〜子宮内環境は生涯の健康と疾病をプログラムする 〜」

7月11日に開催のらくわ健康教室は、洛和会音羽病院 総合女性医学健康センター 佐川典正が成人病胎児期起源仮説から見た妊娠の管理について講演しました。佐川講師はさまざまな研究結果を例に成人病胎児期起源仮説について詳しく語りました。


佐川講師の講演要旨は以下の通りです。

P_lecturer「成人病胎児期起源仮説」とは?
出生時の体重が小さいほど、成人期の虚血性心疾患による死亡率が高いとするものです。(Barker仮説)その後の疫学研究で、出生体重が小さいほど、また、小児期の体重増加が大きいほど、肥満・2型糖尿病・高脂血症・高血圧など成人病の発症率が高くなることが明らかとなりました。
成人病の発症要因として「遺伝素因」「生活習慣」のほかに「胎児期の低栄養」が重要であることが示され、これは「胎児プログラミングの概念」によるとされます。胎盤の供給量が胎児の栄養要求量を下回ると胎児低栄養となり、子宮内の環境に胎児が適応して倹約型となり、それが出産後も持続します。

子宮内で低栄養だと、なぜ成人病になりやすいのか?
倹約型の体質である子宮内発育遅延児の出生後の発育は、正常発育児に比べ急速であり(キャッチアップ成長)、通常のリスク群より肥満や生活習慣病発症について高いリスクを抱えることになります。そこに遺伝的素因や生活習慣(高脂肪食、運動不足など)が重なると心血管障害を招くことになります。

成人病発症予防の可能性
※胎生期低栄養マウスにおいて、食餌中たんぱく量を補充することにより、高血圧、心臓リモデリングを改善できる可能性が示唆された。
(実験による栄養と寿命に関する知見のまとめ)

  1. 成長後の高脂肪食は平均寿命と最長寿命いずれも短縮する。
  2. 胎児期に低栄養でキャッチアップすると平均寿命を短縮する。
  3. 授乳期の蛋白制限は平均寿命を延長し、最長寿命短縮を予防する。
  4. 適度のカロリー制限は寿命延長効果がある。
  5. インスリン作用の制御が寿命と関係している可能性がある。
  6. 酸化作用や炎症作用の制御が寿命と関係している可能性がある。

もしかすると、小さく生まれること自体が悪いのではなく、大きく育てる事に問題があるのかもしれません。
胎児期から新生児期にかけて(たぶん生涯にわたって)適切な時期に適切な栄養を摂取すること。すなわちその個体にとって適切な大きさで育つことが重要です。

母体高脂肪食が胎児に及ぼす影響
動物実験において母獣に高脂肪餌を負荷した場合、仔は成長後にレプチン抵抗性、食欲亢進あるいは易肥満性を示すとの報告があります。今回、高脂肪餌負荷肥満マウスにおいて、レプチンおよびTNF−αなど胎仔脂肪組織のアディポカイン遺伝子発現の亢進が見られました。また、新生仔期には普通食の母獣で哺育しても易肥満性が見られ、成長後には耐機能低下と血圧上昇が認められました。一方、母獣摂餌制限モデルにおいては、レプチンサージの早期化が成長後の視床下部レプチン抵抗性や易肥満症をきたしました。
これらの結果を考え合わせると、母獣に高脂肪餌を負荷した場合の仔の成長後のレプチン抵抗性や易肥満性にも、胎仔期脂肪組織のアディポカイン発現の変化を介して何らかのプログラミング機序が関与している可能性があります。

まとめ/胎児の将来を考えた妊娠中の栄養
生涯にわたって健康な赤ちゃんを産むために

妊娠前から注意すること
※妊娠がわかったときにはすでに胎児への影響が始まっている。

  1. 極端なダイエットをさける。
  2. 極端な肥満がある場合は糖尿病の検査を受けておく。
  3. 禁煙する。
  4. 飲酒は控える。

妊娠中に注意すること

  1. 必要十分なエネルギーを摂取する。
  2. バランスのよい食事(糖質50−70%、脂質20−30%、蛋白質60%/日)
  3. 妊娠中の体重増加は、身長から計算した非妊時の標準体重プラス10〜12kgを目安とする。
  4. 禁酒、禁煙をする。
  5. サプリメントは必要なものだけにする。
  6. 早産を予防する。

1950〜60年代に比べると、わが国のエネルギー摂取量はほとんど同じでも、エネルギー摂取量に占める脂質の割合が多くなったことや、車社会による運動不足などの影響もあって、糖尿病の患者数が増え続けています。一方、国が豊かになったというのに痩せている女性が多くいます。現代女性の朝食欠食率をみると、20歳代の実に1/3が朝食を抜いているとのこと。妊婦の食事調査でも、現代の妊婦は厚生労働省が定めた栄養摂取基準の80〜90%しかエネルギーを摂取していません。その中、脂肪の多い食生活をしているため、今後「食育」をしっかりと行っていかないと、さまざまな悪影響が表れることが危惧されます。


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