2012年10月30日

第114回らくわ健康教室「誤嚥性肺炎と胃ろう」

9月6日に開かれたらくわ健康教室では、洛和会丸太町病院 救急・総合診療科 医員で、医師の米山 克二郎(よねやま かつじろう)が、誤嚥性肺炎と胃ろうについて講演しました。


3929体が衰えて口から食事をとれなくなった患者さまに対して、腹部に穴を開けて栄養分を送る「胃ろう」という処置があります。誤嚥性肺炎を契機に、胃ろうを行うケースが多々あります。
しかし、胃ろうでは回復しないこともあり、また、苦痛を与えたり、穏やかな最期を妨げたりするとして、疑問視する声も多くあがっています。

日本人の死因
日本人の死因の上位は、
 第1位: 悪性新生物(がんや肉腫など)
 第2位: 心疾患
 第3位: 肺炎
 第4位: 脳血管疾患
となっています。(厚生労働省 平成23年人口動態統計より)

第3位の肺炎は、平成22年では4位でした。肺炎で亡くなっている方は年々増えています。また、ほかの死因でも、肺炎を併発して亡くなっている方もおり、肺炎で亡くなる方はデータ以上にかなり多いのが実情です。

誤嚥性肺炎とは?
誤嚥性肺炎は、通常の肺炎と違って、口腔内の病原性の弱い菌が、誤嚥(※)という形で、長期間あるいは多量に肺に入ることで起こります。
脳血管疾患や認知症、神経疾患、筋疾患などで嚥下機能が衰えている方や、薬物、脳疾患などで意識がしっかりされていない方に多く起こります。
認知症や脳梗塞後遺症で嚥下機能が落ちていると誤嚥性肺炎を起こしやすくなりますので、注意が必要です。また、高齢者の肺炎には誤嚥性肺炎の要素が少なからずあります。

※「誤嚥」とは?
口の中の唾液や痰、食べ物などが、誤って気管や肺に入る状態のことで、健康な人でも多少の誤嚥は、日々起こっています。

症状
咳や痰、発熱、食欲低下、呼吸困難など、通常の肺炎の症状と似ていますが、一般的に症状はゆっくり現れます。
高齢者は症状が出にくく、「元気がない」「歩けなくなった」という症状だけの場合も多くあります。

検査
採血、喀痰培養検査、レントゲン検査などを行い、総合的に診断を行います。

治療
水分補給、食事をいったん止めて、抗生剤を投与します。

予防
<食事、水分補給時の形態調整>

  • テレビなどは消して、食事に集中する
  • しっかり座り、食後しばらく坐位を保つ
  • ぱさぱさした食べ物を避け、とろみをつけた食事にする

<嚥下訓練>

  • アイスマッサージ
    氷水で冷やした綿棒などで口腔内をマッサージし、むせる状態を減らすよう、嚥下を刺激する。

  • 嚥下体操
    下記の1.〜7.を順に行います。
     
    1. 深呼吸
    2. 首を回す
    3. 肩を上下する
    4. 頬を膨らませる―引く
    5. 舌で左右の口角を触る
    6. 「パパパパ、ララララ、カカカカ」とゆっくり言う
    7. 舌を出す―引く

<空嚥下>
口に食べ物が入っていない状態で、唾液を飲み込みます。

<口腔ケア>
誤嚥を繰り返す方は口腔内が不衛生なことが多いので、ブラッシングや虫歯の治療で、口腔内の細菌数を減らしましょう。同時に口腔内の刺激にもなります。

それでも誤嚥性肺炎を繰り返したら・・・
それでも誤嚥性肺炎を繰り返す方は、そのたびに、体がどんどん弱っていき、口からの飲食(経口摂取)をあきらめざるを得ない状況になってしまいます。
栄養をどう摂取するか、選択肢は次の4つです。

経口摂取
「食べる」意思が非常に強い場合は選択することもあります。しかし、肺炎を繰り返すことになるため、その都度どんどん弱っていきます。食べ物や痰が詰まって、そのまま亡くなる危険性も高くなります。

経鼻経管栄養
栄養を送る管を、鼻から胃まで挿入して栄養分を送ります。

胃ろう
腹部に穴を開けて管を通し、栄養分を送ります。

点滴
点滴からはほとんどカロリーは入らず、水分だけになるため、基本は看取りとなります。(余命は3〜6カ月)

経鼻経管栄養VS胃ろう
経鼻経管栄養のための管は、鼻から通すため比較的挿入が簡単ですが、見た目に重篤感があります。一方、胃ろうは、鼻に管を通す経鼻経管栄養と比べて、顔の外見がすっきりしていて、管の交換も4〜5カ月に1度で済みます。(経鼻経管栄養は1〜2週間で交換)

QOLは改善されるのか?
高齢者や認知症の患者さまに胃ろうや経管栄養を行うことで、QOL(Quality Of Life:生活の質)の改善やその後長生きできるかを調べた研究が多数あります。そのいずれもが、胃ろうや経管栄養を行っても長生きできないという結果になっています。

※欧米では・・・
経口摂取ができなくなってしまったら、生命としては終わりとみなされ、胃ろうなどは行われません。むしろ、胃ろうなどの処置は、高齢者虐待と考えられています。

現実問題として
誤嚥性肺炎を繰り返す状況になったときには、ほとんどの患者さまの場合、自分の意思を伝えられなくなっています。
栄養摂取をどのような形で行うのか。経鼻経管栄養を選択するのか、胃ろうを選択するのか、経口摂取を選ぶのか・・・。いずれも、ご家族の意思にゆだねられることになってしまいます。
いつこのような状態になるかわかりません。そうなる前に、あらかじめ自分の意思をご家族などに伝えておきましょう。

 皆さんは胃ろうで長生きしたいですか?
 ご家族に胃ろうをして長生きしてもらいたいでしょうか?


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