2012年11月19日

第118回らくわ健康教室「加齢と腰痛」

10月5日に開かれたらくわ健康教室では、洛和会丸太町病院 整形外科 脊椎センター センター長で、医師の原田 智久(はらだ ともひさ)が、加齢と腰痛について講演しました。
加齢とともに増える腰痛について、その原因となる主な病気を紹介し、「腰磨き」による予防を呼びかけました。


3293年々、高齢化率(65歳以上の割合)が高くなるわが国の平均寿命は、男性79.59歳、女性86.44歳です。(厚生労働省2009年)
元気で活動的に暮らすことのできる期間=健康寿命は、男性72.0年、女性78.0年といわれているので、平均寿命との差を考えると、病気やけがなどで支援や介護が必要な不健康な期間は、男女それぞれ、7.0年、7.8年となります。(The World Health Report 2007 WHO、統計年の違いで差数は多少異なります)
理想は、健康寿命 ≒ 寿命です。
健康寿命を延ばすために、骨関節疾患の治療(運動器の治療)はとても重要です!

<参考データ>
わが国の主要死亡原因(2007年人口動態調査)

  1. 悪性新生物(がん)・・・30.3%
  2. 心疾患・・・15.8%
  3. 脳血管疾患・・・11.5%

要介護の原因疾患(65歳以上、2007年国民生活基礎調査)

  1. 骨関節疾患・・・24.0%
  2. 脳血管疾患・・・23.0%
  3. 老衰・・・14.0%
  4. 認知症・・・13.6%
  5. パーキンソン病・・・4.3%

運動器と整形外科
運動器とは、筋肉、神経、脊髄・脊椎、骨、関節などのこと。整形外科医は、運動器のけがや病気を扱う専門家のことです。
加齢とともに、運動器の健康は徐々に衰えていきます。

運動器症候群(ロコモティブシンドローム)
骨、関節、筋肉などの運動器機能が低下することで、生活の自立度が低下します。転倒や骨折、要介護、寝たきりにつながりかねません。
ロコモティブシンドロームとその予備群といわれる人たちは、全国で4,700万人、70歳以上では95%といわれています。
運動器障害は徐々に進行するため、気づかないケースが多くあります。ロコモティブシンドローム(ロコモ)にならないために、下記の項目をチェックしましょう!

ロコチェック

 口 片脚立ちで、靴下がはけない。
 口 家の中でつまずいたり、滑ったりする。
 口 階段を上るのに、手すりが必要である。
 口 横断歩道を青信号で渡りきれない。
 口 15分くらい続けて歩けない。
 口 2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である。
 口 家の中のやや重い仕事が困難である。

上記の項目の1つでも当てはまれば、ロコモです。再度、確認してみましょう。
ロコモの主な原因としては、次のようなものが考えられます。

  1. バランス能力の低下
  2. 筋力の低下
  3. 変形性関節症
  4. 骨粗鬆(しょう)症による骨折
  5. 脊柱管狭窄(きょうさく)症

腰のしくみ
脊椎、いわゆる“背骨”は、体を支える中心軸で、運動器官であるだけでなく、神経を保護し、カルシウムの貯蔵庫としての役割を担っています。
脊椎を構成する骨と骨の間には、水分が豊富に含まれている椎間板があり、運動などによる衝撃を和らげるクッションの役目を果たしています。脊椎のうち、腰の部分にある5つの骨を腰椎と呼びます。
脊椎は椎間板や関節突起同士の関節、靱帯によってもつながっていて、周りの筋肉も腰椎を支えています。骨や靱帯、筋肉、関節、椎間板が腰を支え、体の動きのなめらかさを保ち、衝撃の吸収を行っています。

腰痛について
自覚症状のある人を調べたところ、男性の1位、女性の2位が「腰痛」という結果が出ています。また、通院している人の原因を調べたところ、男性の4位、女性の2位が腰痛でした。(2007年国民生活基礎調査)

腰痛が生じる病気
腰痛が生じる病気として、診療科別にみると以下のようなものが挙げられます。

<整形外科領域>
1.椎間板ヘルニア 2.変形性腰椎症 3.脊柱管狭窄症 4.すべり症 5.腰椎分離症 6.骨粗鬆症 7.脊椎カリエス 8.化膿性脊椎炎 9.脊椎腫瘍 10.脊髄腫瘍 11.姿勢性腰痛 12.椎間関節症

<精神科領域>
1.自律神経失調症 2.心身症

<内科・外科領域>
1.呼吸器:気管支炎、肋膜炎、インフルエンザ 2.消化器:内臓下垂、膵臓炎、虫垂炎 3.循環器:動脈瘤、閉塞性血管炎 4.各種悪性腫瘍

<婦人科領域>
1.子宮の位置異常 2.性器の炎症 3.子宮内膜症 4.性器の腫瘍 5.子宮の発育異常 6.妊娠

<泌尿器科領域>
1.尿路結石 2.腎孟炎 3.膀胱炎

特に<整形外科領域>については、次のような腰痛が起きる原因が挙げられます。

  • 変性: 椎間板ヘルニア、変形性腰椎症、腰部脊柱管狭窄症、すべり症、骨粗鬆症
  • 外傷性: 骨折・腰椎分離症、
  • 炎症性: 化膿性、結核性、リウマチ性
  • 腫瘍性: 脊椎腫瘍、脊髄腫瘍
  • 血管性: 脊髄動静脈奇形、硬膜外血腫
  • 先天性: 脊柱管狭窄症、頭蓋頚椎移行部奇形、脊髄空洞症

※年代によっても、腰痛の原因は変わってきます。

  • 若年: 外傷、スポーツ障害、腰椎分離症、腰椎椎間板ヘルニアなど
  • 中高年: 椎間板症、椎間板ヘルニア、すべり症など
  • 高齢者: 変形性腰椎症、腰部脊柱管狭窄症、骨粗鬆症性骨折など

中高年に多い腰痛: 変形性腰椎症
変形性腰椎症は、加齢によって椎間板がいたんできたり、骨が変形したりして、痛みがでてくる状態です。

 治療法

  1. 日常生活動作での注意
  2. リハビリテーション(体操、牽引(けんいん))
  3. コルセット
  4. 薬物療法(内服、ブロック)
  5. 手術

若年〜中高年に多い腰痛: 腰椎椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは、椎間板の中身(髄核)が後ろに飛び出し、神経を圧迫して起こる病気です。椎間板ヘルニアのなかには、自然に良くなるものもありますが、1.尿が出ない、2.尿や便をもらす、3.足が動かない などの症状がある場合には、早急に手術が必要です。

 治療法

  1. 日常生活動作での注意
  2. リハビリテーション(体操、牽引)
  3. コルセット
  4. 薬物療法(内服、ブロック)
  5. 手術

高齢者に多い腰痛: 腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症は、腰部の神経の通り道が狭くなる病気です。腰痛のほかに、下肢痛、下肢しびれ感、間欠性跛行などの症状があります。

 治療法

  1. 日常生活指導
  2. コルセットなど
  3. 薬物治療
  4. 理学療法
  5. 神経ブロック療法
  6. 手術

高齢者に多い骨粗鬆症性圧迫骨折
骨粗鬆症性圧迫骨折とは、骨がもろくなり、背骨がつぶれて起きる骨折です。ちょっとしたきっかけ(しりもち、かがむなど)でも起きてしまい、骨粗鬆症に伴う骨折では最多です。
レントゲン検査で診断しますが、見つからない“かくれ圧迫骨折”があります。早く見つけて、しっかり固定すれば、痛みが残ることは少ないのですが、発見が遅れたり、十分な治療をしないと、骨がどんどん崩れたり、神経が圧迫されて麻痺やしびれが出たり、背中が曲がったりして痛みが残ります。

 治療法 

  1. 保存療法:リハビリ、固定(ギプス・装具)、薬物療法
  2. 手術

歯磨きと同じように「腰磨き」を!
運動が腰痛の予防や治療に効果的です。歯磨きと同じように、運動で「腰磨き」をしましょう!

※高血圧や不整脈、心不全、狭心症、動悸、息切れなどがある方は、かかりつけの先生に相談したうえで、行ってください。


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