12月4日に開かれたらくわ健康教室は、洛和会丸太町病院 洛和会京都血管内治療センター・心臓内科の南 丈也(みなみ たけや)が、心臓病では? と思われる症状について講演しました。
具体的な患者さまの症状を紹介し、その診断と治療について説明しました。
よくご相談を受ける症状やお悩みで、注意すべき点を中心にお話しいたします。
症例
60歳男性。1日約40本のタバコを吸う。最近はウォーキング中に胸が苦しくなる。朝から痛みがとれない。
〔診断〕自然気胸
肺と胸郭に囲まれる胸膜腔に空気が溜まり、肺が虚脱した状態です。喫煙者、若年者のやせ形の人に多く、放っておくと、命にかかわります。
〔治療〕胸腔ドレナージ。手術が必要な場合もあります。
症例
45歳男性。仕事一筋に頑張ってきた。最近、ストレスが多く、食欲がない。食事をすると、食後におへその上が痛くなる。
- 胃カメラ : 異常なし
- 腹部エコー : 異常なし
- 安静心電図 : 異常なし
- 胸部X線 : 異常なし
- 採血 : 異常なし
- 運動負荷心電図 : 陽性
- 心臓カテーテル検査 : 陽性
〔診断〕労作性狭心症
心筋に栄養を運ぶ冠動脈が狭くなり、胸痛が生じる病気です。運動労作で悪化することが知られていますが、食後や早朝、寒いときにも症状が出ることがあります。
〔治療〕心臓カテーテル治療。
●血管が一部詰まる狭心症 ●血管が完全に詰まる心筋梗塞 |
症例
50歳女性。韓流ドラマを見ながら、おせんべいや甘いものを食べるのが大好き。最近、歯が痛くて歯医者さんで治療中。特に左の歯が痛くて、神経まで抜いたが良くならない。
〔診断〕狭心症+心筋梗塞
狭心症および心筋梗塞の胸痛は、歯の痛み、肩の痛み(肩こり)、のどの痛みの場合があります。驚くことに、胸痛が全くない方もおられます。
高齢者や糖尿病がある方、女性に多いといわれています。脳梗塞を起こしたことがある方も要注意です。
〔治療〕心臓カテーテル治療。
◆一言に狭心症といっても、さまざまな症状があります。
人の心臓、血管は思いがけない働きをしていることがあります。心臓や冠動脈をかばおうと体が必死に働いているのです。たとえば、完全に閉塞した冠動脈にカテーテル治療をした後、患者さまから、「治療したとたん、足がすっと軽くなった」「夜のいびきがなくなった」「息が大きく吸えるようになった」など、予想もしなかった症状の改善をお聞きしたこともあります。
症例
40歳女性。以前から体を動かすと、左の胸が痛くなる。触ると痛い気もする。「乳がんかもしれない」と心配。
〔診断〕モンドール病
胸壁の皮下に硬い索状の固まりがある病気で、増殖性の脈管炎があります。寄生虫による感染や、乳腺腫瘍と区別するために、超音波検査などが必要になりますが、良性の疾患です。
〔治療〕痛み止めで、数カ月のうちに治ります。心配はいりません。
◆胸痛の原因は、さまざまあります。
1位(36%) : 筋肉痛、肋軟骨炎、肋間神経痛、肋骨骨折
2位(19%) : 逆流性食道炎、胃潰瘍、胃炎、胆のう炎
3位(16%) : 心臓病・・・安定型狭心症、不安定型狭心症、心筋梗塞、急性冠症候群、心膜炎、心筋炎、急性大動脈解離、肺塞栓、大動脈弁狭窄症
4位(16%) : 不明
5位(8%) : 心臓神経痛、不安神経症
6位(5%) : 胸膜炎、肺炎、自然気胸
その他 : 帯状疱疹、モンドール病
※超音波、採血、CTなどの画像検査で、多くが診断可能です。
症例
55歳女性。みのもんた氏のファン。『午後は○○おもいっきりテレビ』で、「水を飲むと体にいい」と放送していたので、1日に2リットルの水を飲むようにした。数日たつと、夜に咳が止まらなくなって、寝つきが悪くなった。
〔診断〕心不全
心不全は、酸素需要量に見合う心拍出量が維持できず、肺または循環器系に「うっ血」ができ、生活の質が低下したり生命予後が悪化する状態です。
日本では約200万人の患者がいると推定されており、心不全の急性の悪化により入院を繰り返すことから、再入院予防が必要です。
〔治療〕循環器専門医による、集中的な治療が必要です。
◆慢性心不全患者の原因疾患
虚血性心疾患36%、心臓弁膜症20%、高血圧症11%、拡張型心筋症10%、透析5%、心筋炎1%、肥大型心筋症1%
症例
70歳男性。最近、犬の散歩をしていると、右足が痛くなって歩けなくなる。少し休むと大丈夫。自転車をこいでいても痛くなることがある。もともと、腰痛がある。
〔診断〕下肢閉塞性動脈硬化症
足の血管に動脈硬化が起こり、血流が低下することによる足の痛みで、歩けなくなります。重症になれば、足が潰瘍によって切断に至る、恐い病気です。
〔治療〕カテーテル治療。
◆日本における末梢性閉塞動脈疾患
近年、末梢性閉塞動脈疾患の患者数は増加しています。患者数は約1,000万人といわれており、そのうち約半分は自覚症状がないといわれています。その一方で、予後は悪く、早期の治療が望まれています。
◆下肢閉塞性動脈疾患(PAD)患者の予後
(Norgren L,et al. Eur J Vasc Endovasc Surg 2007;33.)
重症虚血肢(CLI;Critical limb ischemia)とは、安静時には疼痛、皮膚は潰瘍や壊死を呈した、最終段階の病態です。予後は特に悪く、その治療法は大きな課題となっています。
◆重症虚血肢(CLI)の治療
洛和会ヘルスケアシステムでは、従来、各病院で治療を行っていましたが、2012年から「創傷ケアセンター」を組織し、CLIに対して連携して集学的治療を行っています。
これまで、さまざまな重症度の患者さまを拝見し、循環器内科、救命救急科、集中治療分野の臨床に携わる一方で、動脈硬化・血管障害に関係する研究も行ってきました。
私の医師としての信条は、次の3点です。
- 健康に興味をもっていただく<予防>
- どのような症状でも早い段階で気軽に相談していただく →医療への信頼
- 適切な診断治療
皆さまの質の高い生活を守るために、間違った情報も多く錯乱する情報社会で、いかに正しい知識を得ていただくか、いかに信頼を得ることができるか、悩める症状を適切に治療できるかを心に留め、いつでも相談していただける医師でいたいと思っています。