5月30日開催のらくわ健康教室は、「がん治療ガイドラインをご存じですか?」と題して、洛和会丸太町病院 外科・消化器センター 部長で、医師の伊藤 忠雄(いとう ただお)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
はじめに
「治療ガイドライン」とは、さまざまな疾患(がん、肺炎、膵炎など)に対し、一定の治療方針を定めたものです。欧米(主にアメリカ)では国の機関が定めたガイドラインが作成され、ガイドラインに沿って治療方針が決められています。
治療ガイドラインのメリットは、どの施設でも、ある程度までは均質な医療が受けられるということです。
一方、デメリットは、ガイドラインで推奨されていない治療方法に関しては、臨床的に有用であると思われてもエビデンスレベルが低い(臨床試験などにより科学的に証明されてはいない)とされ、使えないことが多いことです。
※米国では、ガイドラインに載っていない治療には、保険会社から治療費が出ないことが多いため
日本における治療ガイドライン
がんに対するガイドラインが他疾患に先行して作成されましたが、現在は欧米同様、さまざまな疾患に対し作成されています。
また、欧米と異なり、日本では、エビデンスレベルが低くても臨床的に有用とされている治療も多く存在し、日常診療に取り入れられています。ガイドラインは、治療法の選択肢を狭めるものではなく、あくまで現時点で妥当と思われる治療法を提示するツールとされています。
※以下の画像は全て、クリックすると大きいサイズで見ることができます。
胃がん治療ガイドラインの目的
次のように定められています。
- 治療法について適正な適応を示すこと
実臨床において、どの治療が適正かは、患者さまの状態により異なる。適正さを判断するのは難しい。 - 施設間差を少なくすること
標準治療(日常診療としての治療法)と臨床研究としての治療(標準治療としては推奨されていないが、有望として期待される研究的治療)を明確に区別することが必要。 - 安全性と成績の向上を図ること
- 無駄な治療を排し、人的・経済的負担を軽減すること
何でも投薬・点滴すれば良いというわけではなく、患者さまの体力や年齢を考慮して治療法を決めることが大切。 - 医療者と患者の相互理解に役立てること
胃がんを例に取りましたが、このガイドラインの目的はほかの疾患にも当てはまります。
胃がんの治療とガイドライン
↑進行度はT1(早期)から下にいくほど進み、T4bが最も進行した状態です。
Nはリンパ節転移の状態を示し、N0は転移なし、右にいくほど離れた部位にまで転移していることを示します。M1は、肺や肝臓にまで転移した状態を示します。
治療法の選択には、患者さまの健康状態も重要です。
治療アルゴリズム
アルゴリズムとは、“問題を解決するための方法・手順”のことです。
胃がん治療のアルゴリズムを基に、それぞれの治療法をご説明します。
<内視鏡治療の適応>
内視鏡治療が可能でも、患者さまご本人が開腹手術を望まれれば、手術します。内視鏡治療ではリンパ節再発の可能性もありますが、手術の場合はリンパ節も摘出します。
<手術術式>
<化学療法>
内視鏡治療や手術が適応外の場合は、化学療法が行われます。(一般的な胃がんの場合、放射線治療は通常行いません)
術後の補助化学療法=抗がん剤内服は、副作用がきつければ中止します。患者さまが希望されなければ行いません。術前補助化学療法は、がんが取りきれないほど大きい場合などに、まず抗がん剤でがんを小さくする目的で行います。
がん治療ガイドラインをどう使うか
個々の症例において治療法の選択肢が異なり、何が自分にとって適正な治療法であるのか判断するのが難しいため、主治医に方針を相談してから、参考としてガイドラインを眺めてみるほうがわかりやすいと思われます。説明に納得がいかない場合は、データを持参してセカンドオピニオンを求めれば良いでしょう。
洛和会丸太町病院、洛和会音羽病院のがん治療
胃がんだけでなく、大腸がん、肝がん、膵がんなど、多くのがんに対して、ガイドラインに沿いながら、また、個々の患者さまに対して適正な治療法を提示しながら、患者さまと一緒に治療を進めていきます。
がんの治療法は、患者さまによって一人ひとり違います。私たちは、治療方針を説明する際、言葉だけでなく紙に書いてお渡しし、患者さまにご自宅でじっくり読んでいただけるような配慮もしています。
質疑応答から
Q:腹腔鏡手術は時間がかかるのですか?
A:開腹手術と比べ、2〜3時間ほど時間がかかることが多いです。
Q:痛みのコントロールや緩和ケアについては?
A:痛みに関しては、麻薬性鎮痛薬を用いることなどで、多くの場合、コントロールが可能です。がん末期の呼吸困難に関しては、鎮静により、うとうと眠ってもらうことでしか、緩和できないこともあります。