2013年7月26日開催の第156回らくわ健康教室は、「心臓と血管の病気 〜検査のあれこれお教えします〜」と題して、洛和会丸太町病院 心臓内科 医師の杉本 達哉(すぎもと たつや)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
◆はじめに
本日は、私が専門としている心臓内科分野で、心臓と血管の検査にはどんなものがあり、検査で何が分かるのかを中心にお話しします。
◆心臓内科が診察する疾患
◆動脈硬化と血管の病気は関連があります
動脈硬化は、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症(ASO)、大動脈瘤など、さまざまな疾患を引き起こします。
加齢によって徐々に動脈硬化は進行しますが、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などによってさらに進展します。
◆心臓と血管の検査 〜心電図検査〜
心電図の正式な名称は、「12誘導心電図」といいます。心臓の中を流れている電気の12の波形を記録します。電気は基本的に心房→心室と流れますが、心房では小さな波、心室では大きな波が起きるのが特徴です。大きな波と小さな波が規則正しく流れていれば正常です。心臓を流れる電流に異常があれば、心電図の波形が乱れます。
◆12誘導心電図の欠点
“心臓で異変が起こっているとき”にしか、心電図変化は起こりません。例えば、運動した時にだけ胸が痛くなったり(狭心症)、一日のうちどこかの時点だけでドキドキしたり、立ちくらみやめまいがする場合でも、そのときに測っていないと心電図の波形には現れません。そこで有効なのが、「運動負荷心電図」や、「24時間心電図(ホルター心電図)」です。
24時間心電図(ホルター心電図)は、体に貼り付ける形で、24時間連続で心電図を記録することで不整脈があるかどうかが確認できます。時には狭心症を検出できることもあります。
◆心臓と血管の検査 〜心臓超音波検査(心臓エコー検査)〜
心臓の動きや血液の流れを調べる検査です。原理は、魚群探知機と同様で、体の表面から内部に超音波を発射して、心臓の各組織に当たって跳ね返ってくる超音波で内部の状態を観察します。心臓の各部位が活発に動いているかどうかや、弁に異常はないかなどが分かります。
◆心臓と血管の検査 〜胸部X線撮影〜
肺の評価や、心不全の状態を調べることができます。心臓が大きくなっているかどうか、肺に水がたまっているかどうかなどが分かります。
◆心臓と血管の検査 〜血液検査〜
状況によって調べる項目は異なりますが、例えば以下のような項目を調べます。
- 貧血:ヘモグロビン(Hb)
- 肝機能:AST、ALT、GTP
- 腎機能:尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cre)
- 甲状腺機能:TSH、T3、T4
- 血のサラサラ度合:PT、APTT
- コレステロール:中性脂肪(TG)、善玉(HDL)、悪玉(LDL)
- 糖尿病:血糖値、HbA1c
- 心不全:BNP
このうち、BNPとは、脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain Natriuretic Peptide)のことで、心臓に負担がかかると心臓から分泌されます。これが高値ということは、心不全の可能性があることを示します。自覚症状がない場合でも、血液検査で心不全であることを予測できます。
この患者さまは、心不全と診断されて入院治療し、良くなって退院しました。その後、体調が良いことを理由に薬を飲むのを勝手にやめてしまったことで、再び呼吸苦に見舞われ、受診されました。一連の経過がBNP検査の結果で分かります。
◆心臓と血管の検査 〜心臓カテーテル検査〜
◆心臓と血管の検査 〜心臓CT検査〜
近年の画像診断学の進歩によって、より低侵襲な検査が開発されました。それが心臓CT検査です。
事前に脈をゆっくりにするお薬を飲んでいただきます。その後、造影剤を注射してCT装置で撮影するだけです。画像は以下のように写ります。
◆心臓CT検査と心臓カテーテル検査の利点と欠点
心臓CT検査:
利点は、入院しなくても検査ができること、体への負担が少ないことです。
欠点は、血管の石灰化が進んでいると血管の状態が分からないこと、不整脈などがあると鮮明な画像が得られない場合があること、検査結果を過大評価しがちなことです。
心臓カテーテル検査:
利点は、確実に血管の状態が分かること、検査しているカテーテルでそのまま治療することも可能なことです。
欠点は、2・3日の入院が必要なこと、体に負担がかかることです。
心臓CT検査の結果が正常なら一安心ですが、腎機能障害がある患者さまは注意が必要です。
◆心臓と血管の検査 〜下肢血管の検査〜
下肢動脈の検査には、API(Ankle Pressure Index:下肢動脈の狭窄や閉塞の程度を表す指標)を調べる検査と、下肢動脈超音波検査があります。
<API検査>
上肢と下肢の血圧を同時に測り、その比率(下肢の血圧を、上肢の血圧で割る)で判定します。下肢の動脈硬化が進むと、下肢の血圧が低下し、APIが低下します。
APIが1.0〜1.3なら正常範囲です。
0.8〜1.0は、狭窄や閉塞の疑いがあります。
0.7〜0.8は、狭窄や閉塞の疑いが強いです。
<下肢動脈超音波検査>
API検査では、下肢の血管が狭いかもしれないということは分かりますが、どこがどれだけ狭いかは分かりません。超音波検査をすることで、狭まった血管の場所が分かります。
<下肢動脈造影検査>
狭くなった部位を治療するためには、最終的にカテーテルを用いた造影検査を行います。
◆おわりに
同じような症状でも、原因はさまざまです。受診された患者さまには、診察を受けていただき、診断の後に治療となりますが、正しい診断には検査が不可欠です。正しい診断が正しい治療につながります。
洛和会ヘルスケアシステムの病院では、臨床検査技師をはじめ、優秀なスタッフがそろっており、当日の検査も可能です。ほとんどの検査は半日程度で結果がそろいます。気になる症状がおありの方は、一度、心臓内科を受診していただき、検査を受けられることをお勧めします。