7月20日開催のらくわ健康教室は、「CKDって何? 〜あなたの腎臓は元気ですか?〜」と題して、洛和会音羽病院 腎臓内科 部長で医師の原田 幸児(はらだ こうじ)が講演しました。概要は以下のとおりです。
はじめに
本日は、腎臓の仕組みや働き、異常症状などをご説明した後で、CKDとは何かについてお話しします。
腎臓とは
腎臓は、腰の上あたりの背中側に2つある、にぎりこぶしよりやや大きい臓器です。主に血液をろ過しておしっこをつくる仕事をしています。
※以下の画像は全て、クリックすると大きいサイズで見られます。
- 体内老廃物の排泄:
尿毒症物質や不要になった薬剤などを排泄する。 - 体液量の維持:
尿の濃さや量を調節し、体の中の水分量を調節する。 - 体液組成の調節:
不要になったナトリウム、カリウムなどの電解質の調整を行う。 - 酸塩基平衡の調節:
アルカリ性物質(重炭酸)を産生し、血液をアルカリ性に保つ。 - 内分泌作用:
エリスロポエチンというホルモンの産生やビタミンDの活性化などを行う。
慢性腎不全の症状(尿毒症症状)
- 尿毒素の蓄積
消化器症状:食欲不振、嘔気、嘔吐
精神・神経症状:思考力の低下、意識障害、けいれん
皮膚症状:色素沈着、掻痒感 など - 水分の蓄積
浮腫、高血圧、心不全 など - 電解質の異常
高カリウム血症、高リン血症 など - 血液が酸性に傾く
代謝性アシドーシス(嘔吐、過呼吸など) など - ホルモンの産生低下
エリスロポエチン減少による貧血、活性型ビタミンD減少による骨代謝障害 など
CKDとは
Chronic(慢性の) Kidney(腎臓) Disease(病気)の略で、「慢性腎臓病」のことです。
尿にタンパクが出ている、尿に血が混じる、腎臓の機能が半分ぐらいと言われた、多発嚢胞腎の家系である、腎不全(慢性腎不全)である、腎機能障害や腎機能低下が認められる、ネフローゼ症候群であるなど、これら全ての概念が「CKD」です。
CKDの定義
以下ののいずれか、または両方が、3カ月以上持続する。
尿検査、画像診断、血液、病理診断により、腎障害の存在が明らかである(特に尿タンパクの存在が重要)
推定GFR(※)が60(ml/min/1.73m2)より低い
※腎臓の機能を表す値
CKDの重症度
CKDの重症度は、CKDの原因(Cause)と、腎機能(GFR)、タンパク尿(アルブミン尿:Albuminuria)のCGA分類で評価します。
このうち腎機能は、腎臓の機能を100点満点で表し、その点数により重症度を決定します。
タンパク尿の判定は、 尿アルブミンや尿タンパクの量やクレアチン比を用いて判定します。
なぜCKDが重要か
- 世界中で透析患者が増加している。
- 日本人の成人人口の約13%、1,330万人がCKD患者である。
- 糖尿病などの生活習慣病が原因となるCKDが増加している。
- CKDでは、末期腎不全、心臓病、および死亡者が増加する。
透析患者は、年々高齢化しています。透析が必要にになると、生活の質(QOL)が低下し、ご家族の負担も増し、医療費の増大が家計や国の医療費全体を圧迫します。
透析予防はCKD管理の目的?
CKD管理の目的は、透析予防だけではありません。CKDの患者さまに、卵を食べ過ぎないように指導したり、禁煙を勧めたり、高血圧治療をするのはなぜでしょう? それは、「心血管病を予防するため」です。CKDになると、入院したり、心臓血管疾患になったりし、さらには死亡しやすくなります。高血圧、糖尿病、脂質異常症などの予防(禁煙など)と同様に、心血管疾患の予防のためにCKDの管理が必要です。
少し怖い話
このような「いきなり透析患者さま」の問題点は、腎臓病に関する知識がないうえ、受け入れ態勢が全くないまま透析をすることになり、その後の経過が悪くなりがちなことです。
CKDの特徴
- 末期まで自覚症状がない
- 検尿・血液検査などによってのみ診断可能
- ある時点を越えると回復が難しくなる場合が多い
- 早期に発見すれば進展抑制が可能
- 進展が一様である
CKDは、健診で発見しやすい病気
早期発見のポイントは、検尿と血液検査(推定GFR)です。
<検尿でわかること>
尿タンパク:
- (+)と判定される基準は、1dl(デシリットル)あたり30mg(ミリグラム)
- (++)と判定される基準は、1dlあたり100mg
1日の尿量が1L(リットル)であるとすると、タンパク尿(+)では300mg、タンパク尿(++)では1gの尿タンパクが1日に出ていることになります。
尿タンパクが検出された場合は、必ず再検査を受けてください。
※ただし、尿タンパクは、激しい運動の後や、発熱の後、徹夜明けなどのストレスがある場合には、一過性に検出されることがあります。
血尿:
血尿には、見た目にはわかりませんが尿試験紙で異常が見つかる「顕微鏡的血尿」と、目で見て明らかに赤い尿や、コーラ色の尿が出る「肉眼的血尿」があります。
- 顕微鏡的血尿は、加齢とともに増加し、特に女性に多く見られます。日本では約500万人に認められますが、そのなかで実際に腎・尿路疾患のある人は2.3%、実際に尿路悪性腫瘍がある人は0.5%です。多くの人は治療を要しませんが、尿路系の悪性腫瘍でないことの確認は必要です。
⇒泌尿器科の受診をお勧めします。 - 肉眼的血尿は、尿路上皮がん、腎がん、前立腺がん、尿路結石症、ぼうこう炎などが原因で発生することがあります。悪性腫瘍の有無を調べる必要があります。
⇒泌尿器科の受診をお勧めします。 - タンパク尿と血尿の両方が陽性なら、慢性糸球体腎炎の可能性があります。放置すると腎機能が悪化し、透析が必要となる疾患の可能性があります。(Iga腎症など)
⇒腎臓内科の受診をお勧めします。
<血液検査でわかること>
Cre(血清クレアチ二ン):
筋肉の老廃物で、腎臓の機能が悪くなってくると、体内に蓄積して高くなります。正常値は1dl当たり0.4〜1.0mgです。
eGFR(推定糸球体濾過量):Creの値、年齢、性別から推定した値で、腎臓の機能が100点満点中の何点なのかを、大まかに表します。正常値は60ml/分/1.73 m2以上です。
いつ腎臓内科を受診すればいいのか
- 尿タンパクが「なし」の人
⇒GFRが50を下回れば受診してください。 - 尿タンパクが「+」の人
⇒GFRが60を下回れば受診してください。 - 尿タンパクが「++」以上の人
⇒GFR値に関係なく受診してください。
同じような症状でも、精密検査をしなければわからないこともあります。
精密検査をして、組織や糸球体の様子を調べることで正確な診断ができ、経過観察で済んだり、透析をせずに治療を続けられているケースもあります。すでに慢性腎不全のように見えても、治療介入が可能な場合もありますので、専門医に受診されることをお勧めします。
腎臓病とつきあうには
おわりに
CKDは、健診で見つけることができる病気です。健診を受けて早期に腎臓病を発見しましょう。あなたの腎臓は元気ですか?