6月7日開催の第149回らくわ健康教室は、「高齢者の食生活 〜最期のときにあなたは何が食べたいですか〜」と題して、洛和ヴィラ桃山 係長で管理栄養士の岩城 千歌(いわき ちか)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
はじめに
勤務先の洛和ヴィラ桃山(特別養護老人ホーム)で、「最期のときに何が食べたいですか」と皆さまに伺うと、いろいろな声が挙がります。一番人気はおすし、次が和菓子(おまんじゅうなど)ですが、なかには「母親の炊いてくれた大根」などの答えもあります。
本日は、高齢者の方一人ひとりの願いをかなえるためにも、高齢者の食生活で気を付けたいことや、身体の特徴などをお話ししたうえで、嚥(えん)下体操についてご説明します。
食べるということ
◎「栄養をつける」
食事は栄養を体内に取り入れ、生命を維持すること
◎「満足する」
味を楽しみ、人との交流を楽しむなど、生活の質を上げる・保つこと
いずれも、人間らしく生きていくためには、大切なことです。
6大栄養素と高齢者
- 炭水化物:
エネルギーのもととなる栄養素です。
ご飯や麺類などに含まれます。 - たんぱく質:
血液や筋肉、胃腸などの臓器や皮膚など体の大事な部分をつくります。
肉や魚、卵などに含まれます。 - 脂質:
高エネルギーで、神経組織やホルモン、免疫たんぱく質の構成部分です。取りすぎてしまうと生活習慣病の引き金となるので注意が必要です。
バターやベーコンなどに含まれます。 - ミネラル:
体の機能を維持、調整するのに欠かせない成分です。カルシウム、鉄、カリウム、亜鉛などの種類があります。
牛乳やほうれん草、小魚、貝類などに含まれます。 - ビタミン:
体の調子を整えてほかの栄養素の働きを助けます。不足してしまうと欠乏症が起こるため、食事で取る必要があります。
野菜、果物などに含まれます。 - 食物繊維:
水分を含むと膨らんで腸内容物の体積を増加させ、腸内粘膜を刺激し、便通を促進します。
レンコン、ゴボウ、キノコ、大豆、海藻類などに含まれます。 - 水:
体のおよそ半分は水分で占められています。不足すると脱水症状が起こります。
高齢者に不足しがちな栄養素
- たんぱく質の不足
→ 筋肉が衰えるなど、体全体の機能が低下します。体力や思考能力が低下します。 - カルシウムの不足
→ 骨と歯が弱くなります。神経質になったり、イライラしたりします。 - 鉄の不足
→ 貧血になります。疲れやすく、忘れっぽく、根気がなくなります。 - 亜鉛の不足
→ 味覚障害が起きます。 - 食物繊維の不足
→ 便秘になりやすくなります。
どのくらい食べたらいいの?
厚生労働省がバランスの取れた食事をこのような図で表しています。
主菜より副菜を多く取るよう勧めています。
日本人の伝統的食生活である一汁三菜は、バランスガイドに合致します。当会の施設の昼食では、一汁三菜プラス果物というメニューを基本としています。
高齢者の食事で気を付けたいこと
- 1日3食欠かさず食べましょう。
- 肉や魚、牛乳、卵、大豆製品をまんべんなく取りましょう。
- 野菜類はいろいろな種類をたっぷりと食べましょう。
- 穀物や油脂も欠かさず、適量を取りましょう。
- 塩分は控えめにしましょう。(香辛料やだし汁で味付けする)
- 楽しく食べましょう。
高齢者の身体の特徴 〜食べる機能について〜
- 味覚が低下する
→ 味の濃いものを好む - かむ力が衰える
→ 偏食、栄養バランスが偏る - 唾液の分泌量が減少する
→ 胃に負担がかかる、食欲が低下する - 飲み込む力が弱くなる
→ むせる、つかえる - 消化液の分泌が減少し、胃腸の働きが低下する
→ 消化不良・下痢・嘔吐(おうと)が起こりやすくなる、胃に負担がかかる、食欲が低下する - のどの渇きを感じにくくなる
→ 脱水になりやすくなる
嚥下(えんげ)と誤嚥(ごえん)性肺炎
嚥下とは、そしゃくした飲食物を口から喉を通じて胃へ送り込む一連の動作のことをいいます。
誤嚥性肺炎とは、飲食物を、食道ではなく、誤って気道に飲み込み、肺に入った結果起こる炎症です。
自分は本当に衰えているの? 〜ご自身のそしゃく能力をチェックしましょう〜
- どんなものでもかんで食べられる
- かみづらいものはあるが、たいていのものは食べられる
- あまりかめないので、食べ物が限られる
- ほとんどかめない
このうち、3.または4.の方は要注意。そしゃく機能の低下が生じている可能性があります。1.または2.の方も、知らず知らずのうちに軟らかいものを選んで食べていませんか?
かむ力が衰えると、摂食障害が起こる→軟らかいものばかり食べるようになる→咀嚼機能が低下する→かむ力がさらに衰える・・・という悪循環に陥ります。
嚥下機能をチェックしましょう
「ごっくんテスト」
30秒で唾をできるだけ多く飲み込んでください。何回飲み込めましたか?
→ 3回以上は○。2回以下は、嚥下機能が低下している可能性があります。
「摂食・嚥下機能チェックその2」
嚥下体操をしましょう
洛和ヴィラ桃山では音楽療法の時間に、また、洛和デイセンター桃山では昼食前に、必ず嚥下体操を行っています。
1日1回、食事の前に行うことで、嚥下機能の低下を防ぎます。
それでも食べるのが難しくなったら
◎調理法の工夫
- 食べ物をやわらかくして、そしゃくしやすくします
- 隠し包丁を入れたり、たたいたりする
- ナスやトマトの皮はあらかじめむいておく
- 煮込む時間を長くして、軟らかく仕上げる
- 飲み込みやすくします
- とろみをつける(片栗粉、コーンスターチ、小麦粉などで)
- とろみのあるものをかける(マヨネーズ、ルウ、あん、ヨーグルト、ジャムなど)
◎注意が必要な食べ物
- 水分状のもの
- 粘りの強いもの(餅、団子など)
- パサパサしたもの(ゆで卵など)
- バラバラになってまとまりにくいもの
- 粉(むせやすい)
- 酸味のあるもの
- スポンジ状のもの(カステラなど)
最期のときにあなたは何が食べたいですか?
施設の場合は、ご本人やご家族と相談のうえで、好きなものを食べていただく工夫をします。それでも、嚥下機能が衰えている方は、思い通りに食べられません。最期に思い残すことがないためにも、そしゃく機能と嚥下能力を保っておくことはとても大事です。