2013年12月28日

第147回らくわ健康教室「病理医の目 Part2 〜木を見て、森も見て〜」

5月23日開催の第147回らくわ健康教室は、「病理医の目 Part2 〜木を見て、森も見て〜」と題して、洛和会音羽病院 病理診断科 部長の安井 寛(やすい ひろし)が講演しました。


概要は以下のとおりです。

P_lecture はじめに

本日は、「病理医からみた生老病死」をテーマに、今、死に至る病とは何かについてお話しします。
病理医は、“病理診断”を専門に行う医師のことです。
“病理診断”については後でご説明するとして、病院に病理医がいる利点としては、手術中に組織診断(術中迅速診断)ができることがあります。手術中に切り取った組織から、その場で組織標本を作製して顕微鏡で観察し、手術室に報告することで、がんの有無や位置が正確に分かり、悪い部分のみをなるべく小さく切り取ったり、手術中に治療方針を変更したりできます。
また、病理診断科を含めた各科の医師が話し合う機会が多くあり、病理医がいると、個々の患者さまに応じた、きめ細かい治療が行えます。

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上の写真は、早期肺がんの一例です。写真の白くなっている部分が、がんであると疑われます。組織の一部を外科医が切り取り、病理医がスライスしたり染色して、組織診断や細胞診断を行います。

 

病理診断の3分野

組織診断
生検(メスや針で患部の一部を取る検査)や内視鏡、手術で採取された病変部位の組織の一部を、顕微鏡で詳しく調べます。その結果が確定診断または最終診断となります。

細胞診断
たん・尿や、子宮・気管支などの粘膜からこすり取ったものなどに含まれる細胞を顕微鏡で調べるもので、細胞検査士の資格をもった臨床検査技師(スクリーナー)と協力して行います。

病理解剖
不幸にして亡くなられた方の全身を詳しく調べることにより、生前の診断・治療の検証、死因推定を行います。

病理医から見た生老病死

日本人の死亡原因は、2010(平成22)年の統計によれば、がん(29.5%)、心臓病(15.8%)、脳血管病(10.3%)、肺炎(9.9%)…と続きます。がんと血管の病気がワースト2で、どちらも約3割を占めています。
がんの発症は、特に中高年の方に多く、高齢者は比較的少ないです。肺がんが急増している(特に男性)のも特徴です。
血管の病気は、中年期から増加し、超高齢期(85歳以上)までほぼ一定の発症率です。
また、高齢者にとって、肺炎はあなどれない病気です。

 

 

 

がんはどのような病気なのか

 

 

人間の体には60兆個もの細胞があり、細胞分裂によって数を増やしながら(増殖)、さまざまな機能をもった細胞に分かれていきます(分化)。細胞分化には限度があり、細胞の数は、増殖と細胞死のバランスによって調整されています。

 

 

ところが、がん細胞は、「周囲を気にせず増殖する」「分化していない」「死なない」「周囲や遠くの組織へ勝手に広がって増える(浸潤・転移)」といった特徴があります。

 

 

がんの形を病理医の目で見ると…

  1. 細胞の姿形が正常と異なる(細胞異型)
  2. 正常ではあり得ない構造をとる(構造異型)
  3. 周囲組織や血管・リンパ管への浸潤が見られる

<早期胃がんの例>

 

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左の正常な細胞は、細胞組織が整然と並んでいるのに対し、右側のがん細胞は細胞組織の形もばらばらで並び方が不規則です。

<早期大腸がんの例>

 

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左側の正常な細胞は細胞核がきれいに並んでいますが、がん細胞は不規則で、がん組織が下のほうに広がっています。

 

動脈硬化を病理医の目で見ると…

血管壁が線維の沈着により厚くなり、コレステロールが沈着します。その結果、血液の流れが悪くなり、臓器に傷害が生じます。

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動脈の内側の部分の顕微鏡写真です。染色して組織標本にすると、コレステロールがたまっている(右下写真、白い部分)のが分かります。

 

肺炎を病理医の目で見ると…

 

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左側の正常な細胞に対し、右の肺炎になった細胞は、肺胞の中に白血球が詰まり、空気が取り込めなくなっているのが分かります。

 

以上のように、“死に至る病”を病理の目で見ると、多くの病気の原因は、細胞の異常に帰することができます。

病理解剖

亡くなられた患者さまのご家族に対し、受け持ち医から病理解剖の意義をお話しして承諾をいただき、病理医が解剖を行い、最終的な病理診断を行います。

<病理解剖で分かること>
最終診断(直接死因と、諸臓器の病変、それらの因果関係の診断)をします。
解剖の結果から、適切な治療が行われたかどうか、予防する方法はあったのかなどについて検討します。

あらためて、生老病死とは 〜死に至る病とは?〜

人間は昔から“死に至る病”を恐れ、それを防ぐ方法や治療する方法を研究してきました。
病理医は、死に至る経過を病理解剖で詳細に調べます。
がんや動脈硬化でありながら、元気な人も大勢おられます。

人間は必ず死に至ります。
人間の寿命は最長で約120年と言われていますが、全く健康に120年の人生を全うする人はごくまれです。

可能な限り健康に、与えられた寿命を全うしたいものです。
そのためにわれわれ医療スタッフは全力を尽くします。

 

 

質疑応答から

Q:がんが他人にうつる可能性はありますか?
A:ありません。個人個人には免疫力があり、正常、異常に関わらず、他人の細胞がうつることは考えられません。

Q:病理医として、人間はどう生きたらいいと思いますか?
A:個人的な見解ですが、元気な子どものころを思い出し、子どものような気持ちで生きたい、また、死にたいと考えています。


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