9月28日開催の第163回らくわ健康教室は、「骨・軟部腫瘍 〜手足のしこりに気付いたら〜」と題して、洛和会音羽病院 整形外科 部長で医師の仲俣 岳晴(なかまた たけはる)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
◆はじめに
- 骨・軟部組織とは
→体のなかで、皮膚でも内臓でもない部分と考えればわかりやすいです。 - 腫瘍とは
→細胞が余分に増えたもので、良性も悪性も含まれます。 - 骨腫瘍とは
→骨組織にできた腫瘍です。 - 軟部腫瘍とは
→軟部組織にできた腫瘍です。
骨・軟部腫瘍の診療は、整形外科が行います。
◆肉腫とは?
骨・軟部腫瘍のうち、悪性のものをいいます。
内臓に発生した悪性腫瘍を、一般に漢字で「癌」と表記します。これに対し、白血病など血液のがんなども含めた悪性腫瘍全体(癌+血液腫瘍+肉腫)を、ひらがなで「がん」と表記します。
日本のがん発生数と、主な悪性腫瘍の発生数は、以下のとおりです。
◆体表から触れる「しこり」
<骨にできるしこり>
- 骨軟骨腫(外骨腫)
骨が余分に出っ張ってきて、関節のまわりにできると、関節が曲げにくいなどの不便が生じる。 - オスグッド・シュラッター病
成長期の子どもの膝に多い骨軟骨炎。
<軟部にできるしこり>
- ガングリオン
手首によくできる。関節を使いすぎることで、関節液が、関節の壁の弱いところを押し上げる。 - 滑液包炎
肘や膝のように皮膚のすぐ下に骨のあるところが、ブヨブヨに膨れる。 - 脂肪腫
背中や肩などに、ポコンとしたフワフワと柔らかい盛り上がりができる。 - 表皮嚢(のう)腫(アテローム)
顔など、汗をかくところにできやすい。毛穴から出る皮脂が中にたまってしまった状態。
これらはほとんどが良性です。
◆悪性「しこり」
悪性腫瘍は、小さなしこりが非常に短期間で大きくなるなどの特徴があります。神経を圧迫せず、痛みがない場合もあるので、痛くないからと放置するのは危険です。
◆腫瘍を見つけたらどうすべきか?
初期診断の結果により、以下のような対応が良いと思われるかもしれません。
- 良性の場合 → 手術で切除する。
- 不明の場合 → 2〜3カ月経過観察。
- 悪性の場合 → 専門施設に紹介。
でも、本当にこれでいいのでしょうか。例えば、以下のような例があります。
良性と早合点して切除しても、実際は周囲に浸潤していたということもあります。この場合、皮膚と筋肉を広範に切除する追加手術が必要になります。
◆望ましい対応は
- 初期診断で良性の場合 → 2〜3カ月、経過観察する。状態が変わらなければ、主治医と相談して、そのまま経過観察を続けるか、手術で切除するかを決める。
- 初期診断で不明の場合 → 専門施設に紹介を受ける。
- 初期診断で悪性の場合 → 専門施設に紹介を受ける。
◆骨・軟部腫瘍の専門施設
専門施設は、全国に89施設あります。日本整形外科学会のホームページの「骨・軟部腫瘍診断治療相談コーナー」に掲載されています。
京都府では、京都大学医学部附属病院と、京都府立医科大学附属病院が該当します。洛和会音羽病院は、連携している京都大学医学部附属病院から紹介を受けた患者さまの治療を行うことが多いです。
◆患者さま側の心得
◆骨・軟部腫瘍の診断
骨腫瘍の多くは、X線写真で良悪性の判断が可能です。
軟部腫瘍の一部はMRIで診断が可能です。
悪性腫瘍の疑いがあれば生検を行います。生検(腫瘍の一部を切り取り、顕微鏡などで詳しく調べる検査)は、専門施設で行うことが望ましいです。
◆骨・軟部悪性腫瘍の治療
治療には、手術、放射線治療、化学療法の3種類があります。このうち、手術と放射線治療は局所に対する治療、化学療法は転移を含めた全身に対する治療です。
◆がんの骨転移
◆骨折治療の重要性
全身にがんが広がっても、化学療法で元気に過ごしている患者さまは多くおられます。その際、骨折治療はADL(日常生活動作)向上のためにも有効です。
◆洛和会音羽病院の取り組み
骨・軟部悪性腫瘍などのがんに対し、当院では患者さまの状態に応じて、さまざまな対応ができる体制を整えています。がんが根治できない場合でも、生活の質を保てるよう、できる限りの対応を行っています。
質疑応答から
Q:骨腫瘍で「良性」の診断を受け、「様子をみましょう」と言われて、もう10年になります。良性が悪性に変わる危険性はないのでしょうか?
A:10年経過をみて変化がないのであれば、悪性化する可能性は非常に低いと思います。
Q:良性の場合でも、切除した方がいいのですか?
A:たとえば手や指のように、良性腫瘍があると日常生活を送るうえで不便な場合は切除すれば良いですし、支障がないのなら経過観察を続ける選択肢もあるでしょう。患者さまの年齢にもよるでしょうから、主治医とよく相談して決めればいいと思います。