10月16日開催の第166回らくわ健康教室は、「腎臓病からみえる長寿の秘訣」と題して、洛和会音羽記念病院 腎臓内科 副部長で医師の西銘 圭蔵(にしめ けいぞう)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
◆はじめに
腎臓は、おなかの裏側、背骨の両側に二つある臓器です。昔は、尿を出すためだけの働きをしていると考えられていましたが、実はいろいろな役割があることが明らかになってきました。特に近年は、長寿につながる働きも見つかりました。本日はそれをお話しします。
◆腎臓の働き
腎臓は1日に140Lの水分をろ過しますが、うち99%は再吸収され、残りの1%(1.4L)がおしっこで出ます。夏場は汗として出る水分も多いので、夏より冬のほうがおしっこの回数は増えます。腎臓の働きには、水分や血圧の調節のほか、寿命に関係があるリンの排泄などの働きがあります。
◆腎臓病の患者さまは増え続けています
腎臓病の患者数は、人口の10%にも上ります。2012(平成24)年の統計では、国民411人に1人の割合で透析を受けています。透析をしている患者さまの原疾患は、糖尿病 44.1%、
慢性糸球体腎炎 19.4%、
腎硬化症 12.3%、
多発性嚢胞腎 2.6%、
RPGN 1.3%です。
◆糖尿病は血管の病気です
血管は、内膜、中膜、外膜の三層構造になっています。血管がボロボロになると、栄養や酸素を送れなくなり、体のあちこちに異常をもたらします。ちょうど、水道管が詰まって水が流れなくなると家のあちこちで困ったことが起きるのと同じようなものです。頭の血管が詰まると脳梗塞になり、心臓の血管が詰まれば心筋梗塞に、目の血管が詰まれば糖尿病性網膜症で失明の恐れがある・・・といった具合です。
血管の病気には、血管の内膜に粥状のものがたまる粥状硬化と、中膜にリンとカルシウムがたまって硬くなる
中膜の石灰症の2種類があります。
粥状硬化
心臓を覆う冠状動脈に粥状のプラークが詰まり、冠動脈が詰まって血流が流れにくくなります(左下)。ひどくなると心筋が壊死(えし)してしまいます。薬や手術で血管の詰まりを取り除くと血流が改善します(右下)。
中膜の石灰症
中央の握り拳のような形が心臓です。その中の白い部分が石灰化した冠状動脈です。周囲の骨と同様、白く映っています。
◆透析患者さまたちの治療から見えてきたこと
透析患者さまは、そうでない方に比べ、心血管合併症による死亡率が10〜20倍に高くなります。
その理由は不明でしたが、近年、腎臓病になると血管の石灰化が起こることが分かってきました。CKD-MBDと呼ばれ、慢性腎臓病(CKD)に伴う骨・ミネラル異常(MBD)のことを指します。石灰化はこぶのようになるものと、レール状になるものがあります。
腎臓病になって、リン(P)とカルシウム(Ca)が一緒になったものが骨の周りにたまり、石灰化した画像です。大腿骨(左)や上腕(右上)、肘(右下)にたまっています。
右手の骨の右側に、血管中膜が石灰化してレールのようになっている様子が分かります。
◆見えてきた長寿の秘訣
1997年に、黒尾誠博士らの研究グループが、ある遺伝子が欠損したマウスを調べたところ、寿命の短縮や血管の石灰化、骨粗しょう症など、人間の老化現象と同じことが早期に起こることを突き止めました。黒尾氏らはその遺伝子を、ギリシャ神話の女神の1人で、生命の糸を紡ぐ女神・クロトーから「クロトー」(Klotho)と名付けました。
◆クロトー(Klotho)欠損で、高リンになる
クロトー遺伝子が欠損したマウスを調べると、血液中のリン(P)濃度が高いことが分かりました。クロトー遺伝子には、リンが血中に増えすぎないように調節する機能があったのです。つまり、リンが血中に増えすぎると老化が早まることが分かったのです。
◆高リン食の危険性は報告されていた
実は、アメリカでは1993年に、「高リン、低カルシウムの食事をすると、4週間で二次性副甲状腺機能亢進症を起こし、骨粗しょう症の原因になる」という警告が出ていたのです。でも当時は注目されませんでした。後に、骨細胞からリン利尿ホルモン(FGF23)が大量に放出され、ビタミンDの活性化が阻害されることが分かりました。活性型ビタミンDができないと小腸からカルシウムが吸収できなくなり、血中のカルシウムが低下して副甲状腺機能亢進症が起こります。
◆こんな例がありました
ある患者さまの血中リン濃度の推移です。リンの値(赤線)が急増したころ、右手親指に石灰化が起きました。高リン食を減らし、薬(リン吸着剤)を飲むことで、1年後には石灰化が消失しました。リンを減らすことで、石灰化したものが骨の沈着に使われました。
このように、食べ物のリン(P)を考えることは、とても大事なのです。
◆リン(P)を減らす
リンは骨の形成に欠かせないため必要ですが、取りすぎてはいけません。中でも、食品添加物に含まれている無機リンは100%吸収されますので、注意が必要です。
日本人のリン摂取量は、平均で1日1000mgです。その内訳は以下のとおりです。
食生活の欧米化で、コーラやコーヒー飲料、ファストフードなどを取りすぎると、リン摂取が過剰になる恐れがあるので要注意です。
◆透析患者さまのリン収支
腎機能が正常な人の場合、1日600mgのリンを吸収しても全部排泄できるため、余分な蓄積量は0です。しかし、維持透析者の場合、600mg吸収すると430mgしか除去できないため、170mgのリンが体内に蓄積されてしまいます(摂取量240mgに相当)。結局、摂取量を240mg減らすか、リン吸着剤で吸着するしかありません。
◆個人でできること
長寿を達成するために個人でできることは何でしょうか。それは自らが「クロトー」になって、リンが血中に増えすぎないよう体を調節することです。具体的には以下のようなことを心掛けましょう。