10月30日開催の第168回らくわ健康教室では、「RI検査でわかること 〜シンチグラフィーについて〜」と題して、洛和会丸太町病院 放射線部 主席課長で診療放射線技師の前田 通博(まえだ みちひろ)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
◆はじめに
「RI検査」や「シンチグラフィー」という言葉をご存じですか? 放射線を使って体の中を調べる検査ですが、聞かれたことのない方も多いことでしょう。本日は、あまりなじみのない「RI検査」についてお話しします。
◆そもそも「RI」とは
RIは「radioisotope」(ラジオアイソトープ)の略で、放射性同位元素(放射線を出す性質をもつ元素)のことです。RI検査とは、ごく微量の放射性同位元素を含む検査薬(放射性医薬品)を体内に投与して、ガンマカメラで撮像を行う検査です。核医学検査、シンチグラフィーとも言います。RI検査ができる施設は日本中に約1,200あります。洛和会ヘルスケアシステムでは、洛和会音羽病院で検査を行っています。
◆RI検査とX線検査との違い
X線検査(レントゲン撮影)は、体の外からX線を照射し、体内を通り抜けたX線吸収の差を反映した形(形態)を画像化したものです。CT検査は、同様に、体の外からX線を照射し、体内を通り抜けたX線吸収の差をデータとして集め、コンピューターで処理を行い、身体の内部の形(形態)を画像化したものです。
これに対し、RI検査は、体内からの放射線(γ線)をガンマカメラで検出して、病気の有無や組織・臓器の血流や代謝など、機能を画像化したものです。
◆放射性医薬品とは
放射性同位元素を含む医薬品で、RI検査では主に静脈注射で体内に投与します。
検査の目的に応じて、特有の臓器に集まる性質をもった薬剤に、ごく微量のRIを標識(混ぜて結合)した検査薬剤を使用します。
放射性医薬品は、使用期限が短く、1日以内のものもあります。
投与されたRIは、体内で代謝され、尿や糞便となり排泄されます。
放射性医薬品の特徴は、投与量が微量で、副作用が極めて少ない点です。最近5年間の調査では、RI検査10万件あたり2.1〜2.5件とごくまれに発生していますが、内容は発疹や嘔気、悪心、皮膚発赤、そう痒(よう)感(かゆみ)などですが、放射線による影響でないことが確認されています。
また、半減期(放射線の強さが半減する時間)が短い放射性同位元素を用いています。放射線医薬品の種類により、半減期は、6時間、13.2時間、3.0日など異なります。
◆RI検査の種類と被ばく量
RI検査には、「脳血流シンチ」「甲状腺シンチ」「肺血流シンチ」「心筋シンチ」「骨シンチ」「腎シンチ」など約30種類があります。
被ばく量は以下のとおりです。
RI検査での線量では、急性の放射線障害が発生した事例はありません。自然界からの年間放射線量は2.4mSv(ミリシーベルト)といわれていますが、RI検査の被ばく量は約1〜15mSvです。将来のがんの発生なども、この程度の線量では心配ないといえます。
◆RI検査
RIの検査は、ガンマカメラの下で寝ているだけです。動いてはいけませんが、息をとめる必要はありません。MRのような、ガンガンする音も全くありません。静かな音楽が流れている中で行う、約30分の検査です。検査の流れは以下のとおりです。
◆骨シンチ
骨シンチは、悪性腫瘍の骨転移、骨腫瘍、骨髄炎の診断・範囲などを確認するために行います。前処置としての食事制限はありません。注射をして3時間後に検査を始め、検査は約30分で終わります。
◆脳血流シンチ
脳血流シンチは、脳梗塞や、脳血管狭さくなど血流低下領域の診断のために行います。物忘れ外来での認知症の診断補助にも使います。前処置は特になく、食事制限もありません。目を閉じた状態で検査薬を静脈注射し、注射直後から検査を始めます。頭を動かさずに安静に寝ているだけで、約30分で検査終了です。
◆認知症の画像診断
認知症の異常が現れやすい部分は以下のとおりです。
- アルツハイマー型認知症
・・・海馬、後帯状回(こうたいじょうかい)、楔前部(せつぜんぶ)、後頭葉 - 脳血管性認知症
・・・前頭葉を中心に全体 - レビー小体型認知症
・・・後帯状回、楔前部、頭頂葉、後頭葉 - 前頭側頭型認知症
・・・前頭葉、側頭葉
(富士フイルムRIファーマ(株) 「もの忘れ」どうやって診断するの? より)
<アルツハイマー型認知症>
日本で一番多い認知症です。脳の神経細胞と神経細胞の間にアミロイドβ(老人斑)がたまって、脳が縮んでいきます。新しいことが覚えられなくなり、時には出来事自体、忘れてしまうこともあります。場所や時間の判断がつかなくなり、徘徊したり、怒りっぽくなったり、物盗られ妄想が現れることなどがあります。「物忘れ」から始まって、ゆっくりと進行していくのが特徴です。
脳の機能が低下した部分は、血流も低下しています。赤い丸で囲った部分が血流の低下している部分です。
<レビー小体型認知症>
脳の内部に異常なたんぱく質(レビー小体)がたまって、神経細胞が障害を受けて起きる認知症です。はっきりした幻視や、被害妄想、抑うつ症状が現れます。手足が震える、体の動きが遅くなる、歩幅が小さく小刻み歩行になるなどパーキンソン病のような症状が特徴です。
<脳血管性認知症>
脳梗塞や脳出血が原因で起きる認知症です。障害が起きた場所が記憶に関係する部分だと、認知症の症状が現れます。尿失禁、言語障害、手足のまひなどが起きることもあります。
<前頭側頭型認知症>
脳の前頭葉が縮んで起きる認知症です。初期には「物忘れ」が見られないのが特徴です。ピック病が代表的で、社会的なルールを無視するような言動、極端な意欲減退、同じ言葉や行動を繰り返したりします。好みが変わり、一緒に生活している人は、まるで別人になったかのように感じるほどです。
(富士フイルムRIファーマ(株) 「認知症」どんなタイプがあるの? より)
◆心筋シンチ
心臓を取り巻く冠動脈の血流量に比例して、薬剤が心筋細胞に取り込まれます。それをSPECT撮影での断層像で見ます。
心筋血流負荷シンチは、運動などで負荷をかけることで「虚血状態」を誘発(※)して調べます。検査では、自転車をこいでいただくエルゴメーターなどで運動負荷をかけたり、運動ができない車いすの方などにはアデノシンなどの薬剤負荷をかけて、40分後に1回目の検査を行い、30分後に再び注射をし、60分後に2回目の検査を行います。
※なぜ負荷をかけると「虚血状態」が起こりやすくなるのか?
「虚血状態」とは、必要な量よりも血流が減少した状態のことです。血管に一部、血栓ができていても、血流の少ない安静時には正常に流れることがあります。しかし、運動などで負荷をかけると、倍以上の血流が必要になりますが、血栓がじゃまをして一部しか流れないため、「虚血状態」が起こりやすくなります。
<心筋負荷をかけたときのRI画像>
正常例では負荷時も安静時もRI画像は変わりませんが、虚血例では、負荷時に心筋各部(矢印の部分)に虚血が起きていることがわかります。3時間後の安静時には、かなり正常例に近い状態に戻っています。
◆まとめ
現在の医療において、診療のために放射線の使用は不可欠です。
患者さまへの放射線の使用は、患者さまの利益の大きさが、医療被ばくによる不利益より十分に大きいと考えられる場合に行います。
医療被ばくを必要以上に怖がると、適正な治療が遅れたり、できない状況になりかねません。
RI検査で受ける線量では、後になって現れる障害も含めて、心配ないと言えます。
質疑応答から
Q:CTやMRIだけでは検査として不十分なのですか?
A:疾患によってどんな検査が必要かは主治医の判断になりますが、RIも含め、多くの画像を総合的に診ることで、より正確な診断に役立ちます。
Q:RIのある病院が限られているのはなぜですか?
A:施設が大掛かりになるためです。放射性物質を扱うだけに、モニター付きの排気設備や、排水タンクが必要になります。