8月31日開催のらくわ健康教室は、「肺炎球菌ワクチンをご存じですか」と題して、洛和会丸太町病院 救急・総合診療科 医員で医師の米本 仁史(よねもと ひとし)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
はじめに
ワクチンは、無毒化した菌・ウイルスの成分から作られ、ワクチンをあらかじめ接種することで抵抗力を身に付け、同じ菌・ウイルスによる重い病気にかかるのを防ぎます。
世界最初のワクチンは、18世紀のイギリスでジェンナーが開発しました。当時、死亡率が30%を超える「天然痘」という恐ろしい感染症が猛威を振るっていましたが、ジェンナー医師は、牛痘(牛の天然痘)に感染した牛乳搾りの女性の皮膚から膿を取り、8歳の少年に接種したところ、少年は天然痘を発症しませんでした。
ワクチンは大きく二つに分かれます
ワクチンは、国が積極的な接種を勧めている定期接種ワクチンと、希望者のみ接種する任意接種ワクチンの二つに分かれます。本日お話しする肺炎球菌ワクチンは、小児用のワクチンが定期接種、成人用のワクチンが任意接種となっています。
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肺炎と日本人の死因
日本人の死因といえば、長い間
- 悪性新生物(がん)
- 心疾患(心臓病)
- 脳血管疾患(脳卒中)
でしたが、2011(平成23)年に、肺炎が第3位になりました。日本人の10人に1人が肺炎で亡くなっています。また、高齢になるほど肺炎で命を落としやすいこともわかっています。
肺炎球菌とは
肺炎球菌は、ヒトに感染して、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎などの病気を起こす細菌で、ヒトの鼻やのどに住み、せきや痰を介してうつります。肺炎の約3割は、肺炎球菌が原因です。特に、侵襲性肺炎球菌感染症とよばれる重い病気は、死亡率が高いです。
コワいコワい侵襲性肺炎球菌感染症
血液や脳脊髄液に肺炎球菌が入り込んだ状態を、侵襲性肺炎球菌感染症と言います。重い肺炎もこれにあたります。死亡したり重い後遺症が残ることが多く、70歳代ではその割合は30%近くに上ります。(日本化学療法学会雑誌より)
肺炎球菌は93種類も
肺炎球菌の表面は分厚い莢膜(きょうまく)で覆われていて、その型によって93種類に分けられています。肺炎球菌ワクチンは、より病気を起こしやすい、いくつかの種類を組み合わせてつくられています。それでも93種類全ての肺炎球菌による病気を予防することはできません。
肺炎球菌ワクチンの効果
接種を受けた人だけでなく、周りの人々が侵襲性肺炎球菌感染症や肺炎にかかることを防ぐこともできます。
インフルエンザワクチンとの同時接種
インフルエンザにかかった人は、インフルエンザウイルスによる肺炎だけでなく、肺炎球菌による肺炎にもかかりやすいことが知られています。インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを両方接種することが勧められています。
肺炎球菌ワクチンの接種をすることが望ましい人
肺炎球菌ワクチンの接種対象者については、米国疾病予防管理センター(CDC)が推奨を出していますが、主に、65歳以上の人、心臓や肺などに持病のある人、治療薬の副作用で抵抗力が落ちている人、老人ホームなどの施設入所者が対象となります。
肺炎球菌ワクチンの接種者数
2002年ごろに自治体の公費助成が始まってから、日本でも接種者数は増え始めました。65歳以上の人口の17.8%が肺炎球菌ワクチンを接種しています。(2012年7月1日現在)
何回打てば良いのか
65 歳以上で初めて接種する人は1回のみで良いとされていますが、再接種する場合には、5年以上空けるように注意してください。忘れないようにご自身のワクチン接種日をメモしておくことをお勧めします。
肺炎球菌ワクチンの副作用
これまでに重い副作用の報告はありません。
再接種者は、接種した部分が特に腫れやすいようです。
妊婦に対する接種
ワクチンによる妊婦や胎児への明らかな影響は知られていませんが、妊娠中の接種は避けたほうが良いとされています。なるべく妊娠前に接種しておくようにしましょう。
ワクチンの接種が可能な医療機関
接種にかかる費用
保険給付を受けられるのは、おなかの病気や交通事故による脾臓損傷などで脾臓(ひぞう)を摘出した人のみです。
おわりに
肺炎球菌ワクチンに関して、日本では国・行政からのサポートがまだ十分ではありません。医療者側からの提案もまだまだ不十分です。皆さんの周りにいる、ワクチンを必要としている人に、ぜひ肺炎球菌ワクチンの接種を勧めてください。
質疑応答から
Q:肺炎球菌ワクチンは誤嚥性肺炎の予防にもなりますか?
A:のど元に肺炎球菌が住んでいる人の場合、誤嚥すると肺炎球菌も肺に入ってしまうので、ワクチン接種は誤嚥性肺炎の予防にも役立つ可能性があります。
Q:インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを一緒に接種してもいいのですか?
A:一般的には、1週間以上空けて接種したほうが良いとされています。ただ、患者さんご本人の事情により、一緒に接種する場合もあり得ると思いますので、医師にご相談ください。肺炎球菌ワクチンは、いつでも接種できますので、インフルエンザがはやっていない時期に打っておくのも良いと思います。