5月10日開催のらくわ健康教室は、「こんな腹痛は今すぐ病院に来て!」と題して、洛和会丸太町病院 救急・総合診療科 医員で、医師の吉川 聡司(よしかわ さとし)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
はじめに
「腹痛」には、どんなイメージをお持ちですか?
「痛みに波がある」とか、「下痢のときにおなかが痛い」「便をすればましになる」「放っておいたら大体治る」…などとお考えの方が多いと思います。
しかし、「腹痛」と聞いて医師が考える疾患は、多種多様です。具体的には以下のような疾患があります。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
なぜこれだけ多くの疾患を考えるかと言いますと、おなかには多くの臓器があり、腹痛を引き起こす原因が多いためです。腹痛は、原因がよくわからないまま自然に治るケースも多いのですが、なかには放置すると危ない腹痛もあり、それを見分けることが大切です。
救急外来の患者さまの腹痛の原因
腹痛を訴えて救急外来に来られる患者さまの症状の原因は、以下のように分類できます。
↑非特異性腹痛とは、原因がよくわからない腹痛です。急な措置を必要とする場合は、まれです。
どんな症状なら病院に?
腹痛は、放っておくと自然に治るものも珍しくありません。しかし、なかには放置できない腹痛があると述べました。では、どうしたら良いのでしょうか?
医師の立場からは「診てみないとわかりません」としか言えないのですが、一般の方がご自身で判断される場合、どんな腹痛なら病院に行くべきなのでしょうか?
次のような症状が一つでもあれば、救急外来の受診をお勧めします。
- 激痛
- 持続痛(6時間以上続く腹痛は、手術が必要な疾患である場合が多いです。痛みが3時間以上続く場合は、病院へ)
- 響く(歩いたり、振動させるとお腹に痛みが響く)
- 突然発症(お腹の病気ではないことが多いです)
- いつもと違う(いつもの腹痛とは明らかに違う痛み)
事例紹介
<70歳代の女性>
5年前に大腸がんの手術を受けたことがある。その後、ときどきおなかが痛くなることがあったが、2・3日すれば直っていた。
5日前から波のある腹痛を感じていたが、吐き気を感じ、本日おう吐したため、「いつもと違う」と思い、来院された。
⇒腸閉塞が疑われたため、腹部CTを撮ったところ腸閉塞と診断され、絶食のうえ入院となった。経過は順調で、2週間後、退院となった。
腸閉塞とは
腸閉塞は、腸が何らかの原因で詰まる病気です。手術後の癒着や、腫瘍(大腸がんなど)が原因であることがあります。単なる便秘の場合もありますが、便秘から腸に穴があくこともあります。
<60歳代の男性>
前日の夜からおなかの真ん中あたりに腹痛を感じていたが、徐々に右下腹部に痛みが移動してきた。最初は波があった痛みが持続的に痛くなり、歩いても響くようになってきたため、来院された。
⇒急性腹症が疑われたため腹部CTを撮影したところ、虫垂炎と診断され、緊急手術となりました。術後経過は順調で、1週間後に退院となりました。
急性腹症とは
急性腹症とは、ざっくりと言えば「危ない腹痛」です。医師が「何かありそう」「なんだか危なそう」と思う状態で、きっちりとした診断名ではありません。早期診断・早期治療が必要で、入院や手術が必要となることが多いです。急性腹症と考えたら、緊急の治療の必要性を判断します。診察だけで確定するのは困難なので、血液検査や腹部エコー検査、腹部CTなどの検査を行います。
<80歳代の男性>
昔からタバコをたくさん吸っていた。散歩に行こうと外に出て10歩程度歩いたところで、突然上腹部痛を感じた。冷や汗も出てきたため、救急車で搬送された。
⇒急性心筋梗塞が疑われたため心電図や血液検査を施行した結果、急性心筋梗塞と診断され、緊急カテーテル治療が行われました。
心臓の病気は、胃痛を伴う場合があります
心臓と胃は近い位置にあるため、心臓の痛みを胃痛と勘違いしてしまうことがあります。
感染性胃腸炎は放っておいても大丈夫?
感染性胃腸炎は、ウイルスや細菌による腸炎です。症状は、重症感のない腹痛や水様性の下痢(ウイルスが原因)、渋り腹(細菌が原因。すぐトイレに行きたくなるが少しの便しか出ない)、発熱、食欲低下、吐き気、おう吐などです。ほとんどの場合、抗生剤がなくても治りますが、菌によって違います。
たとえば、O-157では死者が出たこともありました。O-157は腸管出血性大腸菌の一種で、感染すると血便が出たりしますが、発熱はあまりないケースも多く、ほかの細菌性腸炎と区別がつきにくいです。また、O-157にかかっても、ほとんど症状のない人もいます。
ご高齢の方は、症状を呈さないことが多い
先に、救急外来にすぐ行っていただきたい「危ない腹痛」について、「激痛」「持続痛」「響く」「突然発症」「いつもと違う」の5点を挙げましたが、これらの症状を感じなくても「危ない」場合があります。高齢者の場合で、なかには腸捻転を起こしていても痛くない患者さまもおられます。
では、結局どうすればいいの?
これまで述べましたように、「危ない腹痛」の5点が、まず受診する判断材料となります。
若い方の場合は、この5点に該当しなければ、しばらく様子を見ても良いでしょう。高齢の方の場合は、これらに該当しなくても、気になる腹痛があれば、かかりつけの医師を通じて病院を受診されることをお勧めします。
質疑応答から
Q:梅干を食べると腹痛にならないと聞きましたが…。
A :注意していただきたいのは、「種」を飲み込まないことです。梅干しの種で腸が詰まることがあります。また、柿の成分であるタンニンは胃石をつくりやすく、これで腸が詰まることもあります。シイタケやミニトマトで詰まる方もおられますので、よくかむことや、最初から小さく切っておくことも予防になります。
Q:夜中に胃が痛くなることがあります。しばらくすると治りますが、これは「危ない腹痛」ですか?
A:危ない腹痛であれば、1・2日で痛みがひどくなります。そうでなければ、あまり心配しなくても良いでしょう。ただ、ほかにも病気が潜んでいて、それが原因の腹痛である可能性もゼロではありませんので、定期的な健康診断や、かかりつけ医への相談などをされると良いと思います。診察の場合は、「おなかのどこの部分が痛いか」を一番重視していますので、それを医師に伝えるようにしてください。