2013年5月16日開催のらくわ健康教室は、「わたしのゼンソクは良くなりますか? 〜ゼンソク治療の最新情報〜」と題して、洛和会音羽病院 呼吸器内科 部長で医師の土谷 美知子(つちや みちこ)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
◆はじめに
患者さまからよく聞かれる質問と、それに対する返答です。
「私のぜんそくは、良くなりますか?」
→ 「はい、良くなりますよ」
しかし、以下の質問にはこう答えなければなりません。
「私のぜんそくは治りますか?」
→ 「残念ながら、治りません」
ぜんそくは、「良くする」ことはできますが、根本的に「治らない」病気です。
◆ぜんそくは「体質」です
ぜんそくは、以下のような症状が特徴の「体質」です。
- 夜中や朝方に咳が出たり、ゼーゼーしたりする
- 信号を急いで渡ったとき、冷たい空気を吸ったとき、掃除をするときなどに咳が出る
- 熱もなく風邪が治ったはずなのにいつまでも咳が続く、痰が出る
また、ぜんそくになる人は、
- 花粉症がある
- 動物アレルギーがある
- 食物アレルギーがある
など、本人や家族が「アレルギー体質」であることが多いのも特徴です。
◆ぜんそく発作を繰り返すと
ぜんそく体質の人は、発作のない時でも気道の粘膜が慢性的に炎症を起こしており、刺激に対して過敏になっています。ぜんそくは、普段からぜんそくの治療をきちんとしていないと、気道粘膜の炎症はどんどんひどくなり、ぜんそくは重症化します。ちょっとした風邪やストレスで大きなぜんそく発作を起こし、治りにくくなります。最悪の場合は処置が間に合わず死に至ります。
毎年2000人近くがぜんそく発作による窒息で亡くなっており、年齢別では65歳以上が大半です。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
◆ぜんそくの治療
発作を起こしたときにすぐに治療をすることももちろん大事ですが、発作を起こさないように日ごろから「予防する」ことが重要です。
<ぜんそく治療の基本は「吸入薬」>
- ぜんそく発作が起こったときには、発作用の吸入薬を吸う
- ぜんそくの予防に、症状のないときでも専用の吸入薬を吸う
これらが欠かせません。
◆「ステロイド」について
ぜんそくを予防する薬には、内服薬もありますが、吸入薬が一般的です。「吸入ステロイド薬」で気道の粘膜の炎症を抑えて、発作を起こしにくくします。しかし、ステロイドには不安を覚える人が多くおられます。確かにステロイドは強い坑炎症作用があり、長期、大量に服用すると、糖尿病や骨粗しょう症、免疫力の低下などの副作用が起こるため、「副作用の多い薬」というイメージをもたれます。しかし、吸入ステロイド薬の場合は安全なのです。
◆吸入ステロイド薬の長所と短所
吸入ステロイド薬の長所
気道にだけ薬を効かせるので、ステロイドといえども全身的な副作用が出にくいため、
- 何年間使っても副作用が蓄積しない
- 小さなお子さまや、妊婦さんも安心して使用できる
- 糖尿病や骨粗しょう症の人でも副作用の心配がない
吸入ステロイド薬の短所と対処法
- うまく吸えないと、効果が出にくい
→吸入薬の種類を変えるとうまく吸えることもあります。 - 吸入をした後、うがいが必要(口腔内カンジダ病を予防するため)
→歯磨きとセットで行えば、うがいを忘れにくくなります。 - 発作が起こっているときに使用しても、即効性はない。吸入ステロイド薬だけではぜんそく発作が抑えきれない人もいる。
→吸入ステロイド薬に別の薬(気管支拡張薬や坑アレルギー薬)を追加して治療効果を高めます。
◆気管支拡張薬の種類と作用
気管支粘膜の「β2受容体」に作用して気管支を広げる「β2刺激薬」が主流です。β2刺激薬は目的により、発作の時に緊急的に使用する即効性の「短時間作用型」と吸入ステロイド薬の効果を高めるために定期的に使用する「長時間作用型」の2種類に分けられます。
注意すること
短時間作用型でも長時間作用型でも、β2刺激薬には「気道の炎症を抑える効果」はありません。にもかかわらず、短時間作用型は即効性があるので、こればかり使ってしまう方がよくおられます。そのような治療を続けると、気道炎症は時間とともに進行するため、ぜんそく自体が良くなりにくくなります。医師の指示に従って吸入薬使用を続けてください。
最近は、定期吸入薬として使用しながら、発作のときに使っても効果のある優れものの吸入薬もあります。
◆坑アレルギー薬の作用
吸入ステロイド薬と気管支拡張薬を一緒に使っても、症状が良くならない方がおられます。そのような方は、アレルギー性鼻炎も一緒に患っておられる場合が多いことがわかっています。実際、ぜんそく患者さまの8割が「鼻炎もち」です。このような方に効果があるのが「坑アレルギー薬」です。
◆これまで述べた方法でも良くならない場合は
原因を取り除くことが重要です。アレルゲンが身の回りにあるためにぜんそくが良くならないことがよくあります。以下のものがアレルゲンである場合がありますので、注意してください。
- ダニ、ハウスダスト※
- ペット(イヌ、ネコ、ハムスター、ウサギなど)
- 職業上関わりのあるもの(ゴム手袋のラテックス、小麦粉やそば粉、魚粉、塗料、金属、樹脂、酵素など)
※家中のダニ除去のために
- 床、畳の掃除機かけ…1平方メートルあたり20秒かけて、3日に1回は行う
- 寝具の掃除機かけ…シーツを外して、1平方メートルあたり20秒かけて、週に1回は行う
- 布団カバー、シーツの交換…こまめに変える。高密度繊維のものがお勧め
- 普段は手の届かない場所も、年に1回は大掃除をする
そのほか、ぜんそくを起こしにくくするためには以下にも気をつける必要があります。
- たばこ…能動喫煙、受動喫煙いずれも発作の原因となります。また、治療薬が効きにくくなります。
- 薬…アスピリンぜんそくの場合、アスピリン以外の解熱鎮痛剤でも発作を起こします。飲み薬だけでなく、シップ薬、塗り薬、点眼薬でも発作を起こす可能性があるので注意してください。
◆それでもぜんそくが治らない場合は
◆終わりに
ぜんそくは上手に付き合うことができる「体質」です。吸入ステロイド薬などの治療薬が使いこなせれば、普通の日常生活を送ることができます。ぜんそくと上手に付き合いながら活躍した世界トップクラスのアスリートもいます。(スピードスケートの清水宏保選手、サッカーのデビッド・ベッカム選手、水泳の寺川綾選手など) ぜんそくが「治らない」とお困りの方。ぜんそくは「治らなく」ても、「良くする」ことができれば、困ることはありません。ぜんそく体質と上手に付き合っていく方法を一緒に見つけていきましょう。
質疑応答から
Q:ぜんそくの起きやすい年齢と予防法はありますか?
A:50歳を過ぎて初めてぜんそくを起こす人もおり、何歳だから大丈夫ということはありません。予防法も、「これをしたら絶対大丈夫」というものは残念ながらありませんが、両親がたばこを吸う場合、子どもがぜんそくにかかりやすいとよく言われます。大気汚染も原因になり得ます。
Q:根本的に体質を変える薬や方法はありませんか?
A:今ある薬では難しいと言わざるを得ません。Ige抗体の注射にその可能性があるかもしれないと期待されています。
Q:漢方薬の効用は?
A:効果があった人もいると言われますが、漢方薬の効果には個人差があり、医学的な効果としては立証されていません。
Q:ゼーゼーいう、喘鳴(ぜいめい)のないぜんそくもありますか?
A:喘鳴がなくても、咳からぜんそくが始まる人は多いです。夜中に咳き込む日が続いたり、ぜんそくの一歩手前かもしれないと思われる症状があれば、受診して専門的に診てもらうことをお勧めします。