2014年12月12日

第181回らくわ健康教室「胃がんの手術とそのあとの注意点」

2月14日開催のらくわ健康教室では、「胃がんの手術とそのあとの注意点」と題して、洛和会音羽病院 外科 部長 兼 手術センター 所長の高橋 滋(たかはし しげる)が講演しました。


概要は以下のとおりです。

ブログIMG_5894.jpgはじめに

がんの原因については、昔は、遺伝説やたばこなどの外因説、精神心理的な影響のせいなどではと言われ、その後、糖尿病、肥満、睡眠障害など、諸説が登場しました。WHOは、ほぼ全てのがんが環境に起因し、その30〜40%は食べ物の影響であるとしています。こうなると、まるで「普通に生きているだけでがんになる」と言われているみたいですね。「これだ」と言い切れる決定的な原因はまだ見つかっていないようです。今回は、胃がんをテーマに、手術とその後の注意点についてお話しします。

年齢と胃がんになる率

胃がんと大腸がんになる率は、50歳代から、加齢とともに増加します。中でも男性は急増します。ただ、さらに詳しく調べると、がんで亡くなる人のうち、胃がんで亡くなる人の割合は減り続けており、男性の場合、1975(昭和50)年当時と比較すれば、胃がんによる死亡率は半分以下に減っています。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

スライド4.jpg

胃がんの原因はピロリ菌?

日本人の胃がんの原因には、Talc説とピロリ菌説があります。特徴的なのは、年齢が若くなるほどピロリ菌感染率が減っていることです。健康な人でも60歳代以上は60%を超える人がピロリ菌に感染しているのに対し、10歳代の感染率は10%以下です。「胃がんはピロリ菌による感染症である」と断言する研究者もいます。2030年ごろには、胃がん患者は激減すると言われています。

胃の中を見てみると

胃カメラで胃の各部を見ると以下のように見えます。

スライド9.jpg
中央は、お腹の中の胃の位置を模型的に示したものです。胃カメラを入れると、右上
(噴門=食道から見た胃の入り口)から、右回りに胃の中を映して、左下が十二指腸の入り口(=幽門)、さらに左上の十二指腸へと続きます。胃袋と言われるだけあって、胃の中は大きく開いています。
胃は、ガストリンというホルモンによる胃液を分泌し、ばい菌を殺したり、食べ物の消化を行います。食道から送り込まれた食べ物をためて、少しずつ腸に送ります。

消化器にできる腫瘍

代表的な消化器がんには、食道がん、胃がん、大腸がんがあります。このうち食道がんの場合は、食道が直径3cmほどしかないため、がんができると食べ物がつかえることで気付きます。大腸がんでは、便秘や下痢などが起きます。一方、胃がんは、胃袋が大きいため、食物が詰まって苦しいなどの症状が出にくく、発見が遅れる可能性があります。早期発見には、定期的な検診が有効です。

スライド11.jpg

胃がんの進行度とガイドライン

胃がんは、主に深さ(浸潤の程度)とリンパ節転移の度合いで、進行の程度(ステージ)を判断します。進行度に応じて、どう治せばいいか、学会で共通の指針がつくられており、これを「ガイドライン」と言います。胃がんの進行度に応じた治療方法は、

 内視鏡的切除 → 腹腔鏡手術 → 開腹切除 → 化学療法

となります。
早期発見のために、日頃の注意を心掛けましょう。検診も定期的に受けましょう。診断がつき、早めに手術できれば、胃がんは怖くありません。

何を基準にどのような治療を選ぶか

治療(手術)方針を決定するための試みとしては 

  1. 深達度診断(T(内視鏡、超音波内視鏡など
  2. CT(T、N、P、H)および術中肉眼的リンパ節の転移診断(N)
  3. PETやそのほか
で、判断します。
しかし、診断の正しさはどうでしょうか? 国立がんセンターの実績でも、全ての判断が正しかったとは言えないのが実情です。治療方針は、現状ではおよそ70%の正診率に基づいて決められています。

もしも自分ががんになったとき、どうしたいですか?

さまざまな選択があり得ます。治療法の選択は、本人の決断が大切です。もし私ががんになって告知を受けたとしたら、以下のように考えます。

スライド20.jpg

がん告知

かつては告知しないことも多かったのですが、現在は、がん告知をすることが一般的になってきました。
世論調査でも告知を望む人が大多数になっており、また、進行した患者さまでも、きちんと説明を聞いていただき、どう治療するか考えていただく必要があるためです。何も説明しないのは、患者さまの知る権利を侵害するとも言えます。
告知をする際、医師は十分時間をかけて、患者さま本人に説明しなければいけません。当院では、患者さま向けの説明文を用意して、納得いただけるように相手の気持ちになり、1時間程度かけて説明します。ご本人への説明が第一ですが、ご家族への連絡を怠らないことも大切です。
ただし、患者さまに理解能力がない場合や、自殺する恐れが高い場合
(ご本人が告知を望まない場合)、高齢でご家族が告知を望まない場合などには、告知しない選択も考えられます。

胃がんの治療

<内視鏡的切除>

スライド23.jpg
粘膜内にできたがんを、胃カメラで一括して削り取ります。

<外科手術療法>

胃がんのできたところと進行度で、切除する場所は違います。

スライド25.jpg
がんが胃の下の方にあり、下部3分の2をとるケース。胃酸も出ますし、胃液の逆流も防げます。

スライド28.jpg
胃を全摘出するケース。摘出後、小腸をたわませて食道につなぐことが現在は一般的です。

スライド29.jpg
がんが胃の上部にあって上部3分の1を切除するケース。残した胃の前のほうに吻合(ふんごう)して、胃液が少したまるようにしてやり、逆流を防ぎます。

外科医として、治すために取らなければならない範囲があります。しかし、手術後の合併症をなくし、より有効な生活が送れるために、何かできることはないか論理的に考え、手技を極限まで磨くことがベストな対応です。

胃がんはどの程度治るのか

スライド17.jpg

スライド32.jpg

胃を切除したら

胃を切除した場合、胃から少しずつ食べ物を腸に送ることができなくなります。そのため、よくかんで時間をかけて(30分以上)少しずつ食べることや、間食を心掛けることが大切です。粉っぽいもので具合が悪くなることがありますので、注意が必要です。
胃を切除すると水分を控える方が多いようですが、夏は特に脳梗塞を防ぐため積極的に水分を取るようにしてください。また、胃を全摘出された方は3年ほどすると貧血が起こることも特徴です。

術後の後遺症

以下のような術後遠隔時後遺症が現れることがあります。

  • ダンピング症状:
    食後30分〜2時間で、冷や汗、動悸、低血糖症状が出ます。食事療法で、高タンパク、高脂肪、低炭水化物の食事を、ゆっくり少しずつ食べれば、予防できます。
  • 術後消化性潰瘍:
    私の行った手術では起きたことがありません。癒着の少ない=腸閉塞の起こりにくい手術が大事で、そのためには出血を極限まで減らすことや、腹膜閉鎖の工夫、リンパ節郭清(かくせい)方法の工夫が必要です。
  • 貧血:
    胃を全摘出すると、鉄分やビタミンB12の吸収が悪化し、貧血になります。薬で改善ができますし、やはりゆっくり食べることが大切です。
  • 栄養障害:
    吸収障害が起きます。総コレステロール・アルブミンでチェックします。全摘出の場合、タンパク質や脂肪、糖の吸収が大幅に悪化しますが、胃の上部3分の1を残した方法ではタンパク質の吸収が多少落ちる程度です。
  • 下痢:
    薬でコントロールできます。
  • 骨代謝異常
  • 逆流性食道炎
  • 輸入脚症候群
  • 残胃がん:
    (平均7〜8年で)3〜4%の方に発生するようです。
  • そのほか:
    迷走神経障害、腸蠕(ぜん)動亢進、胆汁分泌機能障害などが、胃を全摘した人の約10%に起こります。

手術後、どうすればより快適になるか

当院では、多職種から成るチームでサポートします。

スライド44.jpg

おわりに

現在、学会主導で執刀医別の成績を集積中です。胃の全摘出手術での在院死亡率は平均2.3%と言われますが、私が行った手術では0%です。近い将来、ある程度外科医の成績表は得られるはずです。良い外科医を選べる基準になると考えています。

質疑応答から

Q:ピロリ菌を除去すれば胃がんの発症を抑えられますか?
A :除菌しても85%程度しか除去できませんが、一定の効果はあると考えられています。もっとも、ピロリ菌原因説に否定的な内科医もいます。慢性胃炎で胃が萎縮してしまうことも発がん原因になりえますし、除菌さえすれば万全とは思わない方が良いです。
Q:5年生存率が示されましたが、その後の再発の可能性はありますか?
A :私の経験では、5年後に再発する人も中にはいます。ですが5年といわず、術後4年たったら、確認のために定期検査は受けてください。


ほかのらくわ健康教室の記事はこちら⇒らくわ健康教室 講演録3

カテゴリー:らくわ健康教室 | 更新情報をチェックする