2014年8月21日開催のらくわ健康教室では、「胃の病気とピロリ菌 〜胃カメラ検査を受けましょう〜」と題して、洛和会丸太町病院 副院長 消化器内科 医師の趙 栄済(ちょう えいさい)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
◆はじめに
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、2013(平成25)年2月から慢性胃炎にも除菌治療が保険適用になり、世間での関心がにわかに高まりました。本日は、ピロリ菌について説明するとともに、胃カメラ検査の大切さをお話しします。
◆ピロリ菌とは
ピロリ菌は、1983(昭和58)年にオーストラリアの医師によって発見され、慢性胃炎の原因菌であることが証明されました。その後の研究で、ピロリ菌は、胃炎を引き起こしてさらに萎縮性変化が進行すると、胃がんを発症しやすい環境をつくり出すことも明らかになりました。◆ピロリ菌にはどのように感染するのか?
ピロリ菌は、口から感染します。ピロリ菌に汚染された水や食品を介した感染(水系感染)や、親子や子ども間の感染(家族感染)、幼稚園や保育園での感染(施設内感染)、内視鏡や歯科治療などで消毒が不十分な医療行為を受けた場合の感染(医原性感染)などがあります。幼少時に感染し、生涯にわたって感染が持続します。成人後に感染することはまれです。
一般に、途上国で感染率が高く、欧米先進国では低いようです。日本での感染者は少なくとも3,000万人以上とされ、特に50歳以上の人の感染率が高いと言われています。胃や歯垢、唾液などから検出されますが、親から口移しで食べ物を与えたことによる感染が一番多かったと考えられます。親世代の感染率が低くなり、衛生状態も良くなっているため、子どもの感染率は非常に低くなっています。今後、感染者は減っていくと予想されています。関係する病気は以下のとおりです。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
◆ピロリ菌の内視鏡所見
ピロリ菌感染が内視鏡で判明するかどうかについては、正確にはわからないと言わざるを得ませんが、萎縮性胃炎や鳥肌胃炎、腸上皮化生が起きている場合はピロリ菌に感染している場合が多いことがわかっています。
◆ピロリ菌と関係する病気
【慢性胃炎・萎縮性胃炎・胃がん】
ピロリ菌に感染し炎症が持続すると、慢性胃炎が生じます。慢性胃炎が持続すると、萎縮性胃炎の状態となります。萎縮性胃炎の状態が続くと、胃がんが発生しやすい環境になります。
除菌により、内視鏡治療後の異時性胃がんの発症を約3分の1に抑制できます。しかし、除菌による胃がんの抑制は完全なものではないので、内視鏡による定期的な経過観察は重要です。
【胃潰瘍・十二指腸潰瘍】
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の80〜90%に、ピロリ菌の感染が認められます。ピロリ菌感染のある胃・十二指腸潰瘍に除菌治療を行うと、潰瘍の再発がほとんどなくなり、出血などの合併症も少なくなります。
【胃過形成性ポリープ】
胃過形成性ポリープは、出血したり、大きくなってがん化することがあります。除菌により、ポリープの約70%が縮小または消失します。
【胃MALT(マルト)リンパ腫】
年単位でゆっくり発育する悪性度の低いリンパ腫の一つです。リンパ腫の約90%はピロリ菌感染による慢性胃炎から発生します。ピロリ菌感染のある胃MALTリンパ腫の約60〜80%は除菌によって縮小または治ります。
◆ピロリ菌を除菌すると胃がんの予防になるのか?
早期胃がんに対して内視鏡治療を受けた人にピロリ菌除菌を行うと、別の部位にできる新しい胃がんの発生率が約3分の1に減少します。
◆ピロリ菌の検査・治療が保険診療でできるのは?
内視鏡検査で「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」と診断された人は、保険を使ってピロリ菌の検査・治療を受けることができます。
◆ピロリ菌の検査はどのように行うのか?
ピロリ菌の検査は、内視鏡を使う方法と、使わない方法があります。
<内視鏡を使う方法>
- 迅速ウレアーゼ法
- 鏡検法
- 培養法
の3つがありますが、血が止まりにくくなる病気や血液をさらさらにする薬を服用している場合には、これらの検査ができない場合があります。いずれも胃の粘膜を採取した後、試薬と反応させたり、顕微鏡で見たり、培養したりしますが、どの方法でも長所と欠点があり、判定が確実とは言えません。
<内視鏡を使わない方法>
- 尿素呼気試験
- 血液抗体検査
- 便中抗原試験
の3つがあります。尿素呼気試験は、診断薬服用前後の呼気を集めて診断する方法です。血液抗体検査は、ピロリ菌感染でできる抗体の有無を血液で調べます。便中抗原検査は便中のピロリ菌を調べる方法です。
- どんな検査も100%正しいとは限りません。
- 1種類の検査だけで判定すると間違える可能性があります。
- 尿素呼気試験と便中抗原検査が特に判定の方法として推奨されています。
◆ABC検診とは?
ABC検診とは、「ピロリ菌に感染しているかどうか」と、「胃粘膜萎縮程度」から、胃がんのなりやすさをA〜D群の4段階に分けて評価する方法です。ピロリ菌感染の有無は血中抗体値で、胃粘膜萎縮程度はペプシノーゲンの血中濃度(PGI、PGI/PGII)を用います。胃粘膜の萎縮が進むにつれて、PGIの量やPGI/PGIIの比率が減少します。
◆除菌治療はどのように行うのか?
初回の除菌は、胃酸の分泌をおさえる胃薬(プロトンポンプ阻害剤)と、2種類の抗生物質(アモキシリンとクラリスロマイシン)の、計3種類の薬を朝・夕の1日2回、7日間服用します。70〜80%の人は除菌に成功します。薬の飲み間違いや飲み忘れをしたり、自己判断などで薬を減らすと、除菌に失敗する率が増え、しかも抗生物質が効かない耐性菌をつくってしまう可能性があります。
◆除菌治療を行うにあたっての注意点
除菌治療にはペニシリン剤が含まれているため、ペニシリンアレルギーのある人は、この治療は受けられません。現在服用中の薬があれば、お薬手帳やお薬情報、あるいはかかりつけ医からの情報提供書を必ず担当医に見せてください。
◆初回の除菌に失敗したら?
2次除菌をします。初回除菌治療で使用するクラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更します。これを初回と同じほかの薬とともに、計3種類の薬を朝・夕2回、7日間服用します。2次除菌で、約80〜90%が成功します。なお、メトロニダゾールの服用中は、お酒を飲むと悪酔いのような症状が出現しますので、禁酒が必要です。
◆除菌治療の副作用はどのようなものがある?
- 下痢・軟便:
約30%の方に起こります。症状が軽ければ、最後まで薬を飲みきります。ひどい下痢や血便が出た場合は、服薬を中止して、すぐに担当医に相談してください。 - 味覚障害:
約5〜15%の方に起こります。食べ物の味が、苦味や金属のような味に感じます。 - 皮膚の異常:
発疹やかゆみがあります。
◆除菌治療の後に生じる問題は?
胃の酸が食道に逆流して、胸やけなどの症状が起こる逆流性食道炎を発生することがありますが、一時的で、重症になることはまれです。
◆「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」と診断するのに、感染診断と内視鏡診断の順番は決まっているか?
日本消化器病学会により、「内視鏡検査が先」と決められています。感染診断および除菌治療の対象は「内視鏡検査によって胃炎の確定診断がなされた患者」となっているので、感染診断を先に行うことはできません。
◆内視鏡検査の結果はいつまで有効か?
6カ月以内に内視鏡検査で胃炎の確定診断がなされている人が、除菌治療の対象です。ほかの施設で行われた検査でも、明確な記録あるいは写し(診療録などに胃炎と記載がある)があれば有効です。
◆ピロリ菌感染胃炎の除菌成功後に注意しなければならないことは?
除菌が成功した後でも、胃がんが発見されることがあります。定期的に胃の内視鏡検査や胃がん検診を受けることを日本消化器病学会も勧めています。◆胃カメラ検査はどのように行うのか?
胃カメラ検査は、前もって既往症や薬の服用の有無について伺ってから行います。朝は絶食のうえ、食道から胃、十二指腸をカメラで観察します。バリウムによる胃X線検査と比べ、より正確な診断ができます。
◆おわりに
ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌に成功しても、がんにならないわけではありません。あなたの健康を守るために、定期的に胃カメラ検査を受けましょう。