2015年01月13日

第188回らくわ健康教室「変わりつつある医学の常識 〜もしがん手術を受けることになったら〜」

2014年4月8日開催のらくわ健康教室は、「変わりつつある医学の常識 〜もしがん手術を受けることになったら〜」と題して、洛和会音羽病院 脈管外科 部長の武田 亮二(たけだ りょうじ)が講演しました。


概要は以下のとおりです。

ブログ用IMG_9200.jpgはじめに

本日は、医療と外科治療の進歩を振り返りながら、医学の常識が変わりつつあることをご説明するとともに、大腸がんの予防と治療についてお話しします。

医学の進歩

医学は歴史とともに進歩してきましたが、本当に進歩したのは、ここ20〜30年です。従来の経験重視の医療に加えて、1990(平成2)年ごろから正しい事実(エビデンス)に基づいた医療(EBM)を重視するようになってきたからです。
医療機器の分野では、手術器械の進歩が顕著です。外科では、腹腔鏡手術が広まりました。近年はロボット手術も開発されています。基礎医学の分野では再生医療も一部、治験段階に入っています。
薬の開発も目覚ましく、抗がん剤治療では2000年代に入ってから、分子標的薬でとても良い薬がたくさん出てきました。例えば、慢性骨髄性白血病(CML)の治療は、2000年ごろまでは、骨髄移植できないケースは全て10年以内に死亡する、とされていましたが、2000年ごろからは分子標的薬(グリベック)の導入で、ほぼ死なない病気となりました。

腹腔鏡下手術

1987年にフランスの婦人科医が世界で初めて、腹腔鏡を使った胆嚢摘出術を成功させました。日本では1990年に初めて行われ、以後、爆発的に普及しました。現在、国内で胆嚢摘出術の85〜90%が腹腔鏡下手術で行われ、胆嚢摘出術の標準術式(全体の80〜90%が行う治療)となっています。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

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腹腔鏡手術のメリットは、

  1. 傷が小さく、術後の痛みが少ない
  2. 術後の回復が早い(ほとんどの手術で、1週間で退院できる)
  3. 社会復帰が早いこと
です。
映像で確認しながら、より繊細な手術が可能であることが最大の利点といえます。

一方、腹腔鏡手術のデメリットは、以下が挙げられます。

  1. 手術時間がかかる
  2. 難易度が上がる
  3. コストが高い(再使用ができない医療器具が多い) 

腹腔鏡手術が難しいケースとしては、

  1. 開腹手術の既往がある
  2. 呼吸機能が悪い
  3. 出血傾向がある
  4. 腸閉塞がひどい
  5. 腫瘍が巨大
が挙げられます。全てのケースで腹腔鏡手術が可能というわけではありません。

日本人のがん死亡

統計によれば、日本人の男性は2人に1人、女性は3人に1人が、がんになります。主要部位別のがん死亡では、肺がんや胃がん、肝臓がんが男性の約半数、女性の約36%を占めます。傾向的には、胃がんの減少が目立つ一方、大腸がんが増えています。食事の欧米化などの影響が考えられます。

糖尿病の人は、がんになりやすい

糖尿病の患者さまがなりやすいがんのリスクは、以下のとおりです。
(糖尿病と癌に関する日本糖尿病学会と日本癌学会による医師・医療者への提言より)
  • 肝臓がん…1.97倍
  • すい臓がん…1.85倍
  • 大腸がん…1.4倍
  • 全てのがん…1.2倍

糖尿病には、加齢、肥満、不適切な食事や運動不足などの共通する危険因子が存在します。また、糖尿病によりがん罹患リスクが高まる機序として、高インスリン血症、高血糖、炎症などの関与が示唆されています。がんになりにくくするには、健康的な食事、運動、体重コントロール、禁煙、節酒が求められています。また、性別、年齢に応じて、適切に科学的根拠のあるがんのスクリーニングを受診することが国の指針として推奨されています。

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がんには予防可能ながん、予防困難ながんがあります。

  • 予防が可能ながん…肝臓がん、子宮頸がん、大腸がん、食道がん
  • 早期発見しやすいがん…胃がん、大腸がん、乳がん
  • 早期発見しにくく治療しにくいがん…膵がん、胆管がん

大腸がん

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大腸がんの80〜90%は、ポリープ由来です。ポリープの全てががんに変わるわけではありませんが、大腸ポリープを切除すれば、大腸がんは予防可能です。がんが早期のうちほど治りやすくなります。

<内視鏡的治療って?>

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粘膜上に盛り上がっている大腸がんを内視鏡器具でリング状にはさみこみ、ニクロム線を使って焼き切ります。

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がんが粘膜に薄く広がっている場合は、内視鏡で薄皮を剥ぐようにして大腸がんを切除します。早期の大腸がんだけに行える方法で、進行がんになると外科医による腹腔鏡や開腹手術が行われます

<大腸がんは比較的治療しやすいがんです>
手術を受けた後に再発することもありますが、大腸がんはほかのがん(胃がん、すい臓がん、食道がん)とは異なり、早い時期に再発が見つかれば、再発巣の切除により完治も期待できます。再発の8割以上は術後3年目以内に発見されます。手術後、5年以上再発しないことが、完治の目安です。

<腹腔鏡手術>
大腸がんは、進行がんでも腹腔鏡手術がよく行われます。胃がんの場合は、比較的進行していない場合は腹腔鏡手術の対象となりますが、進行している胃がんは従来どおり開腹手術で行われます。

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<がんには標準治療があります>
がんの標準治療は、手術、放射線治療、抗がん剤治療です。新規の治療(免疫療法など)は、まだ十分なエビデンスがなく、標準治療以上の効果は証明されていません。代替治療や民間医療が本当に効果があるかは、今後の課題です。

胃がんや大腸がんなどの治療では

  • 頻度の多いがんの治療はガイドラインによって標準化されてきており、施設間で治療法はそれほど差がありません。
  • その施設・医師の得意な領域はあります。
  • 外科医の腕(=治療)だけでなく、消化器内科医の腕(=正しい診断)、麻酔科医の腕など、チーム力が大切です。
  • 患者さまの健康状態(併存症の有無)が治療に影響します。

手術を受ける前に

  • 禁煙できていますか?
  • 肥満ではありませんか?
  • 歩いて息が切れませんか?
  • 糖尿病はありませんか?
  • 心臓が悪くないですか?(血圧が高くないですか?)
  • 腎臓が悪くないですか?
  • 肝臓が悪くないですか?

このような患者さまは、外科手術時の合併症が高いです。

手術が必要な病気になったら

  • かかりつけ医の先生からよくお話を聞きましょう。
  • 病院に受診するときは、誰かについてきてもらったほうがいいかもしれません。
  • 自分が飲んでいるお薬手帳は持っていきましょう。
  • インターネットで病気を調べる際、がんであれば、国立がんセンターの患者さま用ホームページなどがあります。日本の標準医療が載っています。
  • 医学的常識の範囲で、治療法を選択する自由が患者さまにあります。
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