2014年1月9日開催のらくわ健康教室では、「くすりのはなし 〜くすりから倍返しされないために〜」と題して、洛和会丸太町病院 薬剤部 課長で、薬剤師の黄前 尚樹(おおまえ なおき)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
はじめに
薬はごく身近な存在です。でも、正しく用いられないと、思わぬ副作用などによる有害作用という“倍返し”の危険があります。今回は、Q&Aの形で、薬から“倍返し”されないための注意点についてお話しします。
そもそも薬は何のためにあるのでしょうか?
体には、病気やけがを自分で治す力=自然治癒力が備わっています。心身が健康なときは、その力が強く働きます。薬は、主に自然治癒力を助ける働きをし、病気やけがを治し、早くもとの健康な状態に戻します。また、病原菌を殺したり(抗生物質)、病気にならないように予防する薬(ワクチン)もあります。
薬の「血中濃度」とは何でしょうか?
薬が安全で最大の効果を発揮するのは、「血中濃度」が至適な範囲のときです。決められた用法(1日に服用する回数)と容量(1日に服用する量)を守ることで、至適な状態が保たれます。
1日に3回服用する場合の血中濃度を以下に示します。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
薬を決められた量の2倍服用したり、服用回数を多くしたら早く治りますか?
服用した薬が決められた量や回数より多いと、血中濃度が高くなり、副作用を起こす場合があります。また、少ないと、血中濃度が低くて効果が発揮されないことがあります。服用時間は守りましょう。薬の説明書に書いてある時間か、薬剤師に指定された時間に服用しましょう。飲み忘れたときにどうするべきかは、薬剤師に聞くのが基本です。
薬を服用して、副作用が疑われるときは?
一般に、病気を治す作用を「主作用」(目的の作用)といい、それ以外の作用を「副作用」といいます。人によっては、薬の影響で副作用が起こってしまう場合があります。副作用が出たら、すぐに医師・薬剤師に相談しましょう。対応方法としては、服薬を中止したり、減量したり、ほかの同効品に変更するなどの方法が考えられます。
薬が入っていた箱や袋、説明書は捨てても良いのですか?
説明書には、薬の名前、成分、用法・用量や効能・効果、副作用など、大事な記載があります。使い終わるまで薬と一緒に保管しておきましょう。なお、薬を受け取った日付と薬局の名前を書いておくと、副作用の発生時に役立ちます。
「お薬手帳」は必要ですか?
お薬手帳を上手に使うことは、病院や薬局だけでなく、自分のために役立ちます。
ただし、お薬手帳を何冊も持っている方がおられますが、重複投薬などを避けるためにも、1冊にまとめてください。
自分の薬のことをよく知らない…
薬の名前、いつ服用するか、効果、飲み忘れたときどうするか、副作用…などについて、ご存じですか? 最近は、薬代が安価なジェネリック医薬品が使われ始めましたが、これは、先発品と同等の効果が国によって確認された薬です。ただし、効き方には先発品医薬品同様に、若干の個人差もあります。薬の説明書を見ると、商品名と一般名が書かれています。商品名は製薬会社がつけた名前(例えば「ロキソニン」)で、一般名は成分名(たとえば「ロキソプロフェンナトリウム」)です。参考にしてください。
病院薬剤師の責務は?
病院薬剤師は、患者さまが入院され退院されるまでの薬物治療に関わる全てのことについて責任をもつ必要があります。入院時持参薬鑑別業務から始まる一連の薬剤管理指導業務は、患者さまの退院をもって終了となりますが、患者さま側の視点から考えた場合、「退院をもって終了でいいの?」という疑問がわきます。保険薬局やほかの医療機関の視点からは「入院中はどんな薬物治療が行われたの?」という疑問がわきますし、病院薬剤師側の視点では「この薬物治療は退院後も継続されるのか」といった疑問があります。このため、洛和会丸太町病院の薬剤部では、患者さまが退院される際、入院中に服用されていた薬などを明記した「退院時服薬指導書」をお薬手帳に添付してお渡しします。退院後は、日常の健康管理にお薬手帳をご活用ください。
日常生活と薬の関係は?
国は、「地域のチーム医療」を掛け声に、病院内だけでなく地域においても、薬剤師が積極的に正しい薬の扱い、薬物療法に参加するよう促しています。お薬手帳の活用は、その要です。お薬手帳を常に携帯されていると、万一の場合に役に立ちます。東日本大震災のときも、お薬手帳が役立ちました。
薬局は、毎回どこに行ってもいいの?
薬剤師が丁寧に対応してくれる「かかりつけ薬局」を決めましょう。複数の医療機関で処方された薬を服用する場合では、かかりつけ薬局の薬剤師が、お薬手帳の記載に基づいて、薬の相互作用などをチェックしてくれます。
錠剤は噛み砕いて飲んだほうが効き方が早い?
噛み砕いてはいけません。錠剤やカプセル剤は、作る段階でさまざまな工夫がなされています。カプセルで保護して、胃への影響を少なくしてあるものや、長時間にわたり薬の効果を持続させるために、薬の成分が少しずつ溶けるように工夫されたものもあります。あるいは、薬が苦かったり、臭いがある場合にも、飲みやすいように表面を加工したものがあります。
薬はアルコールで飲んでもいいの?
アルコールと一緒に飲むことは避け、原則として水またはぬるま湯でお飲みください。風邪薬や睡眠薬、鎮静薬をアルコールと一緒に飲むと、薬の効き目が強くなることがあり、ふらつきによる転倒や急に意識を失うことによる事故などにつながり、非常に危険です。また、アルコールが分解されなくなり、少量でも酔って非常に具合が悪くなることがあります。
「食前」「食後」「食間」「寝る前」「時間毎」とは?
- 「食前」…食事の約30分前
- 「食直後」…食事のすぐ後
- 「食後」…食事の約30分後
- 「食間」…食事の約2時間後
- 「寝る前」…就寝する約30分前
- 「時間毎」…食事に関係なく一定の間隔で服用する
あらためて、薬の倍返しを防ぐには
「クスリはリスク」とお考えください。正しく使えば、心身の健康を守ってくれますが、間違って使えば「毒」にもなります。倍返しを防ぐには、薬剤師に聞いてください。
薬のインターネット販売について
国の薬事法改正で、薬のインターネット販売が大幅に緩和されそうなので、ご説明します。
薬には、医師の処方せんが必要な「医療用医薬品」(処方薬)と、薬局や薬店で自分で選んで購入できる「一般用医薬品」(大衆薬・市販薬・OTC)があります。このうち、インターネット販売が許されているのは、これまでは一般用医薬品のごく一部でした。
しかし、「改正薬事法」が2014年4月に施行される予定で、そうなると一般用医薬品の99%以上がネットで扱えるようになります(2014年1月9日現在)。インターネット販売のメリットとしては、購入する場所や時間の制約がないことや、他人の目が気になる医薬品も購入しやすいこと、添付文書などパッケージ以外の情報も購入までに提供できるといった点があります。一方、心配な点としては、ネット販売される医薬品が本物かどうか(バイアグラなどでは、まがい物が出回っているといわれます)、間違った薬を購入してしまわないか、正しい用法や用量を守れるか…などが指摘できます。
これに対し、対面販売のメリットは、薬剤師が一人ひとりにあった薬を提示できる(たとえば、来店者の症状を聞いて、別の薬のほうが良いと勧める)ことや、症状によっては病院に行くようアドバイスできること、地域医療の中核を担えること、犯罪抑止力としての役割などが考えられます。デメリットとしては、店が開いている時間しか対応できない点があげられます。ただ、かかりつけ薬局をもっておくと、夜中などで本当に困った場合は、電話でも対応してくれるはずです。
質疑応答から
薬は症状が治まってからも指示された期間、飲み続けるべきなのですか? かえって慢性化することになりませんか?
確かに、薬によっては、症状が治まれば服用をやめていいものもあります。しかし、高血圧薬のように、血圧が下がったからと薬の服用を中止すると重篤な結果を招きかねないものもあります。感染症などでは、ウイルスが死滅していないのに症状が治まったからと服用を止めてしまうと、ウイルスに耐性が付いて、薬が効かなくなる恐れを招く場合もあります。こうした危険を避けるためには、薬をもらう際に、医師や薬剤師に「症状が治まれば途中でやめていいか」とあらかじめ聞いていただくことです。自己判断でやめることは危険です。
朝晩、7〜8種類もの薬を飲んでいます。減らすことはできませんか?
医師や薬剤師に「たくさん飲んでいますが、減らせそうな薬はないですか?」と聞いてみてください。薬の種類や症状によっては、減らせる場合があると思います。