2015年01月27日

第219回らくわ健康教室「歯科医が禁煙を勧めるワケ 〜口の中のがん〜」

2014年11月27日開催のらくわ健康教室は、「歯科医が禁煙を勧めるワケ 〜口の中のがん〜」と題して、洛和会音羽病院 口腔外科 部長の歯科医師 今井 裕一郎(いまい ゆういちろう)が講演しました。


概要は以下のとおりです。

はじめにブログ用IMG_8300.jpg

本日は、たばこが引き起こす病気、たばこによる口の中への影響、口の中のがんとその予防法についてお話しします。

喫煙が引き起こす病気

たばこが原因で亡くなる日本人は、年間12万人を超えています。たばこの3大有害物質は

  1. ニコチン
  2. タール
  3. 一酸化炭素
です。ニコチンには、麻薬並みの依存形成作用や血管収縮作用があります。タールは、さまざまな発がん物質を含む総称で、悪玉酵素の活性酸素をつくり、ビタミンC・Eを破壊し、発がん作用があります。一酸化炭素は、酸素欠乏による運動能力低下や老化を促進します。
喫煙は、主に下記の疾患を引き起こします。
  • がん:
    喉頭がん、口腔・咽頭がん、食道がん、気道・気管支・肺がん、急性骨髄性白血病、胃がん、膵臓がん、腎臓・尿管がん、結腸がん、子宮頸がん、膀胱がん
  • 慢性疾患:
    脳卒中、失明、白内障、歯周炎、大動脈瘤、冠動脈疾患、肺炎、アテローム性動脈硬化、末梢(まっしょう)血管疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、ぜんそくおよびほかの呼吸器疾患、股関節骨折、女性の生殖系疾患(受胎能の低下を含む)

喫煙による社会的負荷

たばこが社会に与える収益と損失は、収益が約2兆8,000億円(たばこ産業8,500億円+たばこ税1兆9,000億円など)、損失が5兆6,000億円(医療費3兆2,000億円+国民所得損失2兆円+休業損失2,000億円+消防清掃費用2,000億円)です。つまり、差し引き2兆8,000億円で、損失の方が上回ります。(後藤公彦氏によるたばこの経済分析より)
さらに、たばこを吸わない人と喫煙者では、70歳の時点での生存率が80%と50%となり、約1.5倍もの差があります。

喫煙は皮膚のシワも増やし、歯茎を黒くする

喫煙は皮膚の老化を促進します。ニコチンは血管を収縮させて血流を悪くし、歯肉に酸素や栄養を行き渡りにくくするだけでなく、白血病など病原菌に対する抵抗力を弱め、出血や腫れなどの症状を現れにくくします。その結果、歯周病に感染しやすくなったり、歯周病の発見が遅れたりします。また、歯茎を黒くし、ニコチンとさまざまな有害物質の複合体であるタールが口臭の原因となります。舌がんや歯肉がんの危険性も高まります。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

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たばこ煙と発がん

たばこ煙の害は、副流煙のほうが大きく、受動喫煙の危険も放置できません。副流煙に含まれる有害物質の量を、喫煙者が吸い込む煙の有害物質と比べると、ニコチンが2.6〜3.3倍、窒素酸化物が4〜10倍、各種発がん物質が100倍…と多いのです。
たばこはがんの最大の原因です。以下に、非喫煙者と比べた喫煙者の死亡の危険性を示します。

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たばこのパッケージ比較

世界各国では、たばこのパッケージに危険性を訴える表示をしています。それに対し、日本の表示はとても“マイルド”です。

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口腔がんについて

口腔がんは、全てのがんの中で約1〜3%程度と、比較的まれながんです。40〜60歳代で多く発症し、患者さまの約75%が50歳以上です。男性は女性の2倍の発症率で、喫煙が発生リスクを高めます。
しかし、早期発見すれば、完治の可能が高まります。がんが粘膜内にとどまっているステージIの場合、5年生存率は90%、粘膜下層までのステージIIの場合は70%です。一方、がんが進行したステージIIIでは60%、ステージIVでは40%と5年生存率が下がるため、早期発見が非常に大切です。

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口腔がんの危険因子

危険因子には、
  1. たばこ
  2. お酒
  3. 合わない入れ歯、差し歯、傾いた歯
  4. 香辛料、高塩食品
  5. 歯槽膿漏(しそうのうろう)、ちくのう
  6. ウイルス感染(ヒトパピローマウイルス、肝炎ウイルスなど)
などがあります。中でも、たばことお酒が合わさると危険性が増します。

口腔がんの治療

口腔がんの治療方法は

  1. 外科手術
  2. 抗がん剤と放射線でがんを小さくしてから外科手術
  3. 抗がん剤治療と放射線治療
の3つがあります。それぞれの治療法の選択は、がんの進行具合や咀嚼(そしゃく:かみくだき)、嚥下(えんげ:飲み込み)、構音機能(おしゃべり)、審美(しんび:見た目)を考慮して行われます。

<舌がんの症例と治療>

舌がんは舌の縁の部分中央部から後方部にできることが最も多く、進展すると口腔底や舌根(ぜっこん)部に広がり、癒着や舌運動障害を引き起こします。30〜40%は、首のリンパ節が腫れます。手術は、がんが小さければ周辺10mmぐらいまで取って舌を縫い合わせます。大きければ、別の場所から組織を取って移植します。

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移植では、手首や太ももなど、取っても体に影響が出ない部分の皮膚と動脈・静脈を取り、切除した舌の代わりに縫い合わせて再建します。

<頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)>

口腔がんが頸部に転移している場合は、転移した部分と周囲の脂肪組織を一緒に切除する頸部郭清術を行います。

<下顎(かがく)歯肉がん>

下顎にがんができて顎の骨ごと外科的切除をする場合は、手首や太ももの裏側から、動脈や静脈に加えて骨まで切り取って、切除した部分に移植します。骨を金属で固定し、さらにインプラントを移植した骨に埋め込み、手術前の形に近づけます。

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口腔外科の手術は、“がん”を取り除くだけでなく、

  • 食事(かみ砕き、飲み込み)
  • 発音
  • 見た目

を考えて行います。

<そのほかの口腔がん>

上顎(じょうがく)歯肉がん、硬口蓋(こうこうがい)がん、口底がん、頬粘膜(きょうねんまく)がんなどがあります。

白板症と紅板症

口腔がんになる前の状態に、白板症や紅板症があります。舌の上に白色や紅色の斑点ができ、こすっても取れないときに疑います。がん化率は白板症で0.13〜17.5%、紅板症で40〜50%です。

口腔がんのセルフチェックのしかた

明るい光と鏡を用意し、入れ歯があれば外してください。以下の順に、お口の中を見てみましょう。
  1. 下の唇の内側や前歯の歯肉のチェック
  2. 頭を後ろにそらし、上顎のチェック
  3. 頬っぺたを指で少し外へひっぱり、上下の奥歯の歯肉と頬っぺたの内側を左右それぞれチェック
  4. 舌を前に出し、舌の表面と左右の裏側のチェック 
セルフチェックのポイントは、
  • 治りにくい傷がないか
  • 粘膜のただれや赤い斑点がないか
  • こすってもとれない白い斑点がないか
  • 周りの健全な組織との境界線がはっきりしないしこりや腫れ、できものがないか
です。口内炎と間違えやすいので注意が必要です。
口腔がんの予防法は、
  • 刺激物(特にたばこ、アルコール)を控える
  • 口の中を清潔にする
  • 口の粘膜に慢性の刺激を与えない(壊れた入れ歯、合わない入れ歯、歯のとがった角や破れたかぶせ物などによる慢性の機械的刺激)
  • 緑黄色野菜と果物類をたくさん取り、健康的な食生活習慣を意識すること
です。

たばこをやめませんか?

たばこをやめたいのにやめられない場合、以下のような工夫をしてみましょう。

 💡喫煙のきっかけとなる環境を改善する(環境改善は最も重要)

  • たばこ・ライター・たばこ自販機用カードなどを処分する 
  • たばこの煙や喫煙者に近寄らない(パチンコ店・居酒屋など)
  • たばこを買える場所に近づかない
 💡喫煙と結びつく生活パターンを変える
  • 食後早めに席を立つ(歯みがきに行く)
  • コーヒーや飲酒を控える
  • 朝の行動順序を変える
  • できるだけ休息を取り、ストレスをためないようにする
 💡喫煙の代わりにほかの行動を実行する
  • 深呼吸
  • 水・お茶を飲む、氷を口にする
  • 歯をみがく
  • 散歩や体操、掃除をするなど、体を動かす
  • 糖分の少ないガムや干し昆布などを口にする
禁煙の3原則は、
  1. 捨てる
  2. 買わない
  3. もらわない
です。

また、禁煙外来に行くのも有効です。(洛和会丸太町病院 呼吸器科音羽前田クリニック
楽で(禁断症状が確実に少ない)、確実で(3カ月通院すれば7割成功)、安い(3カ月の保険診療3割負担で必要な費用は2万円弱)方法で禁煙できます。インターネットで「禁煙外来」を検索してみてください。

口腔がん予防の5カ条

  • たばこをやめましょう。どうしてもやめられない方は、かかりつけ医・歯科医などにご相談ください。
  • 緑黄色野菜、新鮮な果物を毎日5種類以上取りましょう。
  • アルコールは1日に、男性なら2杯、女性は1杯にしましょう。(1杯:日本酒1合、ワイングラス1杯、ビール500ccに相当)
  • 2週間以上治らない口内炎はかかりつけ歯科医で診てもらいましょう。
  • 口の中を清潔にして、虫歯、歯周病はきちっと治しましょう。


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