2015年01月30日

第206回らくわ健康教室「困った咳と危ない咳」

2014年8月28日開催のらくわ健康教室は、「困った咳と危ない咳」と題して、洛和会音羽病院 洛和会京都呼吸器センター 所長の医師 長坂 行雄(ながさか ゆきお)が講演しました。


概要は以下のとおりです。

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咳は誰にでもよくある症状です。しかし、なかなか止まらない場合や、放置しているうちに具合が悪くなる場合もあります。どんな咳が困った咳で、どんな咳が危ない咳かをお話しします。

咳はなぜ出るのか?

咳は体の防御反応で、無意味に出るわけではありません。異物(痰も含めて)を体から排出する大事な反応です。痰の出ない咳でも、聴診器を当てると痰の音が聴こえることがよくあります。本当は痰があるのに、出ないだけです。痰が全く出なくても、気道(のど、気管、気管支)の炎症や刺激で咳が出ることもありますが、少数です。(洛和会音羽病院の呼吸器外来を受診される方の1割程度)

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
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(信州大学 藤本教授 提供)

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(信州大学 藤本教授 提供)
気管支は最大23回分岐し、最後は肺胞という直径0.25mmほどの組織になります。気管支の壁には粘液を出す細胞があり、ちょうどハエ取り紙のように、常に動いて異物をくっつけます。それを痰として咳とともに体外に出したり、飲み込んだりします。

困った咳とは

困った咳とは、眠れないほどの咳や仕事ができないほどの咳、話ができないほどの咳です。洛和会音羽病院の呼吸器外来で一番多いのは「咳が止まらなくて困る」という訴えで、遠隔地からも「地元の病院で診てもらったが咳が止まらない」という理由で来られます。
では、「なぜ原因が分からない」「治療がうまくいかない」のでしょうか。

<困った咳の原因 -痰があるとき->

  • 1〜2週間くらい続く:
    急性気管支炎、肺炎などの急性炎症、気道異物。
  • 数週間〜2カ月くらい続く:
    ぜんそくのようになる気道感染。マイコプラズマ、百日咳、肺炎クラミジアなど。
  • 3カ月以上続く:
    ぜんそくや慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張症。

<困った咳の原因 -痰がないとき->

  • 1〜2週間くらい続く:
    急性気管支炎などの急性炎症が主な原因。
  • 数週間〜2カ月くらい続く:
    ぜんそくのようになる感染。マイコプラズマ、百日咳、肺炎クラミジアなど。
  • 3カ月以上続く:
    逆流性食道炎、副鼻腔気管支炎、肺結核、肺がん。

<止まらない咳の症状で病院を受診したら>

最初に、以下を行います。

  1. 問診:
    熱があるか、痰があるか、喫煙しているかどうかを聞きます。
  2. 聴診:
    痰の貯まっている音などを聴きます。
  3. 胸部エックス線検査:
    2週間続く咳では、感染が広がる結核ではないかを調べるため、必ず行います。
  4. 血液検査:
    炎症の程度を診たり、原因になる感染症の検査をします。尿の検査も行います。
  5. 肺機能検査:
    たばこを吸っている(いた)人では、COPDが咳の続く原因である可能性が高いため、肺機能検査で調べます。
続いて、問診をもう少し行います。
  • 咳は風邪をひいてからですか?
    →気管支炎の場合、風邪をひいてから数日後に咳の症状が出ます。
  • 熱はありますか?
    →熱がある場合、感染症にかかっている可能性が高くなります。
  • 痰はどんな色ですか?
    →黄色い痰は感染、茶色い痰は出血の可能性があります。
  • たばこは吸っていましたか?
    →COPDや肺がんの場合は、たばこが原因です。
  • 花粉症はありますか?
  • ペットは飼っていますか?

ペットが原因のぜんそくは、飼い始めてから半年〜1年後に発症することが多く、犬より猫の方が多いです。ハムスターやウサギは、非常に治りにくいぜんそくの原因になりますので、ペットを飼われる場合は、よく注意してください。

聴診器で何を聴いているのでしょう?

聴診器を当てると、肺炎のない健康な肺は「ゴー、ゴー」と呼吸の音が聴こえます。一方、肺炎のある肺は、これらの音に、雷のような「バリバリ」とか「パリパリ」した音が混じります。

エックス線検査で何を見ているの?

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向かって左側(右胸)の下に白いもやもやが映っています。黒く写っている反対側は健康な肺です。
正面だけでなく、側面のエックス線写真も撮り、病変が前(おなか側)にあるか、後ろ(背中側)にあるかを確認します。

CTも撮ります

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上のエックス線写真と同じ肺です。エックス線写真のもやもやがCTでは網目状に映っています。肺炎と比べ網目が粗いので、COPDもあることが分かります。COPDの患者さまは、肺が膨らみすぎた状態で、伸び縮みしにくいため、「ハー、ハー」と苦しい息づかいになります。

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肺機能検査を行う理由

肺活量を測ることで、ゼーゼー言わないぜんそくが隠れていることが分かります。COPDでは、肺年齢により、肺の痛み具合がどの程度かが分かります。これらの疾患は、いずれも治りにくい咳の代表です。

咳がひどい場合

夜間に咳で目が覚めるのは、ぜんそくであることを示す大事な症状です。前の晩も眠れなかったというときには、点滴が必要です。(ステロイド+ネオフィリン)
気管支炎は風邪をひいた数日後に発症することが多いです。痰が黄色ければほぼ確定です。息を吸ったときに胸が痛ければ、肺炎の可能性もありそうです。
たばこによってCOPDになると、風邪をひくたびに、ひどいぜんそく症状に悩まされます。治療でいったんは良くなりますが、禁煙しないと徐々に悪化し、症状が長引きます。
ペットによるぜんそくは、先に述べたように猫によるものが多いですが、ハムスターやウサギも治りにくいぜんそくの原因となることがあります。犬の場合は、コントロールしやすいことが多いです。最近は猫によるぜんそくにも良い薬が増え、症状が改善されるケースも増えました。

危ない咳とは

2週間以上続く咳や、大量の痰を伴う咳、血痰を伴う咳です。

<2週間以上続く咳>

風邪をひいた数日後に発症する気管支炎による咳は、2週間ぐらいで止まることが多いです。それ以上続けば、肺炎クラミジア、マイコプラズマ、百日咳の感染などを疑います。
たばこを吸っている方の場合は、痰の検査やCT撮影をして、肺がんなどの心配がないか調べます。
もともと細身の方で、体重が減った方は結核を疑います。肺がんも心配です。少ないですが、女性でたばこを吸ったことがない方でも、肺がんになるケースがあるので、痰の検査をします。

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<大量の痰を伴う咳>

気管支拡張症では、若いころから痰が多い方がたくさんいます。普段は痰がないのに、たまに血痰が出る方もいます。非結核性抗酸菌症の合併も多いので、痰の検査で確認します。
少しの痰が何週間以上も止まらなくなった場合は、結核、肺がんが心配です。胸部エックス線検査やCT、痰の検査で確認します。結核は、やせていて睡眠時間が短い方に多く、がんはもちろん喫煙に関係します。
痰の検査やエックス線検査で原因をはっきりさせましょう。水分を多めにとると痰が切れやすくなります。尿の色がほとんどなくなるぐらい飲むのが目安です。ただ、心臓の悪い方は水分を控えめにしましょう。

<血痰を伴う咳>

肺がんや結核が心配です。実際には、急性気管支炎や肺炎、気管支拡張症など、比較的治療しやすい病気であることが多いのです。胸部エックス線検査やCT、痰の検査で確認しましょう。

まとめ

  • 困った咳は日常生活に支障がある咳です。数日で改善傾向がなければ診察を受けましょう。
  • 危ない咳は、2週間以上続く咳です。血痰が出たり、痰の量が多いときはすぐに診察が必要です。
  • 病院ではいろいろ検査をしますが、それぞれに大事な意味があります。
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