2014年9月25日開催のらくわ健康教室は、「いろいろな鼻炎 〜かぜ、アレルギー、その他のケアから手術まで〜」と題して、洛和会音羽病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長で医師の荒木 倫利(あらき みちとし)が講演しました。
概要は以下のとおりです。
◆はじめに
鼻炎とは、鼻腔全般に起こる組織炎症の総称です。本日は、鼻炎のなかでも比較的多い症状を中心に、症状や治療法についてお話しします。
◆鼻の構造
鼻の中は、柔らかい軟骨が大半を占めています。真ん中にある鼻中隔の外側に、表面が薄い粘膜で覆われた甲介(こうかい)(上鼻、中鼻、下鼻の三層のヒダになっています)があり、空気が隙間を通って気道に流れます。鼻炎では、下鼻甲介が大事な役割を果たしています。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
◆鼻のはたらき鼻には、呼吸器としての働きと感覚器としての働きがあります。このうち、呼吸器の働きには、ろ過機能と、加温・加湿機能、抵抗器としての機能があります。感覚器としては、嗅覚の役割があります。
- ろ過機能:
呼吸する空気の量は、1日に1万から2万リットル。ホコリを粘液層で吸着し、吸い込む空気をきれいにします。ホコリは線毛運動で胃に運ばれます。直径3〜5マイクロメートル(※)の粒子の80%を、直径2マイクロメートルの粒子の50%を除去でき、肺に入る粒子は1マイクロメートル以下の粒子のみとなります。
(※1マイクロメートル=0.001ミリメートル。花粉は20〜40マイクロメートル、細菌は0.3〜5マイクロメートルです) - 加温・加湿機能:
空気は、鼻を通り過ぎる間に、温度が37℃、湿度100%に調整されます。複数の鼻甲介のおかげで、大きな表面積で加温・加湿することができます。(鼻粘膜の表面積は150平方センチメートルあります) - 抵抗器としての機能:
粘膜下に静脈が発達し、これらが膨らんだり縮んだりして通過する空気の量を調整します。呼吸する際、ある程度抵抗がある方が肺の働きを助けます。
◆鼻炎とは
鼻炎とは、さまざまな刺激に対して鼻の粘膜に生じる病的変化全体を指します。鼻炎が起こる原因には、微生物(ウイルスなど)やアレルゲン、非特異的刺激(例えば喫煙)、内因性の要因などがあります。
◆鼻の病気の診察手順
- 問診:
症状の程度、一日の変化、鼻炎の期間や、起こる環境(外出時に起きるなど)、季節との関係、そのほかの症状などについて伺います。 - 診察:
鼻鏡や内視鏡を用いて行います。 - 検査:
血液検査や画像検査、生理機能検査、アレルギー検査を行います。
◆急性鼻炎
いわゆる鼻風邪で、粘膜へのウイルス感染が原因です。数日で自然に軽快することが多いですが、初期には水様性の鼻水が出て、その後粘液性に変化します。鼻水には好中球が多く含まれます。治療は対症療法で、保湿、鼻漏には抗ヒスタミン薬、鼻閉には血管収縮薬の点鼻などを行います。
◆アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎の原因は、I型アレルギーです。症状は、くしゃみや水様性鼻漏、鼻閉などです。季節性のもの(花粉症)と通年性のもの(ダニ、ハウスダストなどが原因)に分類されます。
治療は、対症療法として抗アレルギー薬や点鼻ステロイド薬が、手術療法ではレーザーや下鼻甲介手術があります。減感作療法(※)もあります。
※アレルギーの原因となる物質をごく微量ずつ与えて体を慣らすことで、アレルギー反応が起こらないようにする療法。
<アレルギー性鼻炎の治療>
治療には、
- 抗原の除去と回避
- 薬物療法
- 手術療法
- 免疫療法
鼻噴霧用ステロイド薬は、1日1回の噴霧を約1週間続けると効果が現れます。効果は強いですが副作用が少なく、くしゃみ・鼻水・鼻づまりの三症状に等しく効果があり、投与部位にのみ効果が現れる点が特徴です。きちんと使うと安全性も高く、花粉症にも有効です。
免疫療法は、薄めた抗原(アレルゲン)を皮下注射します。アレルゲンの特定が必要で、効果が出るまで2年近くかかりますが、長期寛解(かんかい:一時的に症状が軽減している状態)、治癒が期待できます。2年間続けて、60〜70%の人に効果が出ます。まれではありますが、重篤な副作用(アナフィラキシーショック)の危険があり、定期的な注射、診察が必要です。最近は注射ではなく、舌下に投与する方法も保険でできるようになりました。
◆血管運動性鼻炎
血管運動性鼻炎では、アレルギー検査では陰性(アレルギーではない)で風邪でもないですが、水様性鼻漏やくしゃみ、鼻閉などが起きます。鼻粘膜の自律神経異常と考えられます。発症者は高齢者に多いです。治療薬が少ないのが難点ですが、鼻噴霧用ステロイド薬が効くこともあります。
◆薬剤性鼻炎
薬剤性鼻炎は、市販の点鼻血管収縮薬の多用が原因です。何度も使ううちに鼻粘膜が収縮しにくくなり、鼻閉が苦しくて点鼻してしまう悪循環が起きてしまいます。治療は、鼻内噴霧ステロイド薬を併用して徐々に血管収縮薬を減量していきますが、長期にわたって薬剤性鼻炎を起こした人は、手術せざるを得なくなります。
◆鼻炎の手術
手術は、反復する発作の結果、粘膜が不可逆的に肥厚してしまった人や、薬物治療に抵抗する症状(鼻閉、くしゃみ、鼻漏)が現れる人を対象に行います。ただ、鼻の機能を失わないために、注意が必要です。
<レーザー手術の特徴>
局所麻酔を行い、内視鏡下に炭酸ガスレーザーで下鼻甲介内側面、下面の粘膜を焼きます。手技が容易で短時間で可能であることや、外来で手術が可能であること、1回の手術で数年は楽に過ごせることなどが長所です。短所は再発することです。
<後鼻神経切断術の特徴>
手術で、粘膜直下にあるアレルギーに反応する自律神経を焼き、アレルゲンがきても反応しなくなることで、くしゃみなど過敏反応を抑えます。全身麻酔で数日間の入院が必要です。過敏反応は70%ほど減らせますが、それでも効かない人もいます。
◆アレルゲンを避ける工夫
薬や手術による治療だけでなく、薬を使わない方法も有効です。日常生活でアレルゲンを避ける工夫をすることで、かなりの効果が上がります。外出から帰ったとき、家の中にアレルゲンを持ち込まないようにすることや、室内のダニの除去に努めてください。これだけで、ずいぶん楽になります。
温熱療法や鼻洗も有効です。それぞれ専用の器具が市販されています。温熱療法は、1日に2〜3回、43℃で10分間、鼻を暖める方法で、鼻粘膜の過敏性が低下します。妊婦さんにはこの方法を勧めています。鼻洗は1日に1〜2回、人肌に温めた生理食塩水を鼻に通した後、軽く鼻をかみます。