2015年03月03日

第208回らくわ健康教室「お薬とながーく付き合うために 〜もっと知ろう、あなたの大切な薬〜」

2014年9月11日開催のらくわ健康教室では、「お薬とながーく付き合うために 〜もっと知ろう、あなたの大切な薬〜」と題して、洛和会音羽病院 薬剤部 主席課長で薬剤師の三浦 誠(みうら まこと)が講演しました。


概要は以下のとおりです。
9665.jpgはじめに
本日は、そもそもお薬とはどういうものかというご説明から、薬剤師の仕事や、お薬にまつわる危ない事例などをお話しします。

ご存じですか? あなたのお薬
あなたはご自分が飲んでいるお薬について、どれだけ知っていますか? お薬の名前は? いつ飲みますか? 飲んでいるお薬の効果を知っていますか? 飲み忘れたときはどうしますか? どんな副作用があるか知っていますか? 下記のような調査があります。
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薬の働き
体には、自律神経系、免疫系、内分泌系(ホルモン系)の3つの大切な機能が備わっています。これらの機能がうまく働いて、人の健康(恒常性の維持)が保たれています。薬は、それ自体で病気を治すのは難しいですが、体に備わる自然治癒力を助ける働きをします。また、病原菌を殺したり(抗生物質)、病気にならないように予防する(ワクチン)薬もあります。
「クスリ」は反対から読むと「リスク」(危険)となります。薬には効果(主作用)とそれ以外の作用(副作用)があり、使い方を誤ると、ただの危険物にしかなりません。

薬=化学物質+情報
薬についての主な情報をまとめると、

  • どんな病気に使うのか?(適応症)
  • どのように効くのか?(効果)
  • 病気を治す以外の作用(副作用)
  • どんな場合に薬を使用してはいけないか?(禁忌)
  • どのように保存するのか?(保存)
  • どうやって使用するのか?(使用方法)
  • 薬の飲み合わせ(相互作用)
などが挙げられます。
薬(医薬品)には、処方せんが必ず必要な「医療用医薬品」と、処方せんなしで薬局や薬店などで買える「一般用医薬品」があります。一般用医薬品には、市販薬(大衆薬やOTC薬とも呼ばれている)と、消毒剤などの公衆衛生薬が含まれます。

薬剤師という職業
薬剤師は、医薬品の有効性と安全性を管理する職種です。
1240年、神聖ローマ帝国の皇帝フリードリッヒ2世が、薬事に関する2つの法律「医薬分業」と「薬事監視」を定めたことから始まりました。暗殺を恐れた皇帝が、処方せんを医師に書かせ、薬は医師の知らない薬剤師に調剤させて毒薬が紛れ込んでいないかを確認させたそうです。薬剤師は、処方せんに基づき調剤し、薬の量や、別の薬との飲み合わせの確認などを行います。
薬剤師法では、薬剤師の任務について「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上および増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする」と定めています。(第1条)

まさかこんなことが起こるとは!
ここからのお話は、あくまで過去に生じた事例を紹介しているだけであり、薬を飲んでいる全ての方に同じようなことが起こるわけではありませんので、くれぐれも誤解のないようにお願いいたします。

<事例1漢方薬は絶対に安全か?
こむら返りをよく起こしていた洛和花子さん。友達から漢方薬「芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ」をもらった。飲み始めた数週間後に、具合が悪くなり、朝目が覚めると手足がだるく、起き上がることもできなかった。花子さんは、普段からよく甘草入りののど飴を食べていた。
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甘草による偽アルドステロン症でした。
多くの漢方薬には、甘草(カンゾウ)という成分が含まれており、その主成分はグリチルリチンです。偽アルドステロン症の主な症状は、手足のだるさや痺れ、つっぱり感、こわばり、筋肉痛などです。甘草やグリチルリチンは、風邪薬、胃腸薬などに含まれています。

<事例2湿布薬(貼り薬)とはいえ・・・
日頃から痛み止めの湿布(ケトプロフェン)をよく貼っていた洛和太郎さん。地域の運動会で二人三脚の競技に参加。雲ひとつない晴天で楽しいひとときを過ごした。翌日、湿布を貼っていたところに湿疹が生じた。
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ケトプロフェンによる光線過敏症でした。
湿布を貼っていた場所に紫外線が当たると、皮膚炎を起こす場合があります。薬の説明書には「湿布薬の使用中・使用後は、戸外活動を避けるとともに、日常の外出時も使用後2〜4週間は湿布薬を貼った部分を衣服やサポーターなどで覆い、紫外線にあてないように心掛ける」と書いてあります。発生報告では、テープによる湿疹が一番多く、パップやゲル、ローション、クリーム軟膏による皮膚炎もあります。湿布薬以外にも、一部の抗菌薬などで発生報告があります。

<事例3誰もがよく飲む痛み止め
腰痛もちの洛和みさきさんは、病院から痛み止めの薬をもらい、1日2回、1錠ずつ飲んでいる。ある日、虫歯の痛みが治まらず、自宅にあった旦那さんの歯痛止めのお薬を1錠飲んだ。服用して、1時間後くらいから胃に激痛が走った。
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痛み止めによる胃腸障害でした。
腰痛、歯痛などの使われる痛み止めは、痛む部分は異なるものの、その効果を発揮するメカニズムは同じものが多いです(非ステロイド性抗炎症薬)。今回は、同じような効果をもつお薬を2倍飲んだのと同じ状況となり、胃障害が生じました。胃から出血する場合もあります。主な非ステロイド性抗炎症薬には、ジクロフェナク、ロキソプロフェンなどがあります。
座薬でも、胃腸障害はゼロにはなりません。胃腸障害の報告は、薬の剤型や使い方による影響は少ないと考えられます。ちなみにボルタレン錠では6.63%、ボルタレンSRカプセルでは2.58%、ボルタレンサポ(座薬)では0.83%の人に、胃腸障害が生じています。

<事例4花粉症の薬でおしっこが出ない!
前立腺肥大症の治療を受けている音羽次郎さん。3月ごろ、鼻水やくしゃみの症状がひどくなり、花粉症の薬を購入した。約1週間後、症状は治まったものの、尿が出なくなってしまった。薬を購入するときに、病気のことを聞かれたが薬剤師に伝えなかった。
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抗コリン作用にご注意!
主な抗コリン作用には、口の渇きや便秘、排尿困難、目の霞(かすみ)などがあります。市販薬を購入する際は、必ず自身の病気やお薬について、医師や薬剤師に相談しましょう。
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<事例5風邪薬でうとうと…
風邪気味だった会社員の音羽四朗さん。仕事が多忙で、病院にいく暇もなかったので、ドラッグストアで風邪薬を購入した。すぐに薬を服用し、取引先の会社に自動車で向かったが、運転中に眠気に襲われ、気がついたときには電柱に衝突していた…
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抗ヒスタミン薬の副作用でした。
多くの風邪薬には、くしゃみや鼻水などの症状を抑えるため、抗ヒスタミン薬が含まれています。抗ヒスタミン薬の副作用として、眠気が生じる場合があり、薬の説明書には、「服用後、乗物または機械類の運転操作をしないでください」と記載されています。
抗ヒスタミン薬であるマレイン酸クロルフェニラミン(2mg)は、ウイスキー3杯分の作用に相当します。風邪薬が必要な場合は、自動車を運転しないか、抗ヒスタミン薬を含まない風邪薬を選ぶことが重要です。

<事例6さしたのは目薬ではなかった…
白内障で入院中の丸太三郎さん。面会に来た友人と談笑中であったが、目薬の時間なので友人にテレビ台にある目薬を取ってもらった。三郎さんが目薬をさしたとき、目に激痛がはしった。友人が手渡したのは、目薬の横に置いてあった水虫の薬だった。
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水虫薬には、目薬と外観がよく似たお薬があるので要注意です。
水虫の薬を誤って点眼した事故報告は、1992年〜2001年の間に23件あります。(国民生活センター)

お薬を服用するときの7つの法則
  1. 毎日決まった時間に服用します。
  2. 服用量を守ります。
  3. 病気が治ったと思っても決められた日まで服用し続けます。
  4. 他の人からもらって服用したりしません。
  5. 他の人に自分のお薬をあげたりしません。
  6. 前の病気のときにもらったお薬は使いません。
  7. お薬はいつもきちんと整理して保管します。
(出典:福島県立医大付属病院 斎藤百枝美先生、編集:薬の適正使用協議会)

副作用が起きる主な原因
  • 薬の成分がもつ、もともとの性質
  • 薬を正しく使用しなかった
  • 自分の体調や体質
  • 薬と飲食物との飲み合わせ(相互作用)
  • 薬と薬の相互作用
高齢になると副作用が生じやすい
加齢に伴い、からだの機能が変化し、症状の現れ方も治療に対する反応も、若年者とは異なります。複数の慢性疾患があるため、服用する薬剤数が増え、相互作用や有害事象が起こりやすくなります。(日本老年医学会「高齢者に対する適切な医療提供の指針」を一部改変)

薬をたくさん飲むことの何が問題か?
薬の量が多いと、飲むこと自体が面倒になったり、ついつい飲み忘れてしまうといったことが起きて、病気が良くならないという結果を招きかねません。有害事象も増えますし、医療費が増える点でも問題です。
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「たかが紙切れ」と思っていませんか?
病院や調剤薬局からもらう薬の説明書や市販薬の説明書には、大切なことがたくさん書かれています。最低限見ていただきたいのは「やってはいけないこと」が書いてある部分です。書いてあることが難しい場合は、薬剤師に相談してみましょう。

「お薬手帳」をご存じですか?
お薬手帳をつけるメリットは、以下の点です。
  • 病院では、受診するときに今までの病歴、医薬品歴が理解され、治療方針を決めるのに役立ちます。
  • 薬局では、お薬の名前、服薬する時間、回数、用法・用量の注意を確認し、内容を記載しています。
  • ご自分でも、市販薬やサプリメント(健康食品)のことを記載し、気になることを書き留めることができます。
病院薬剤師が、入院中の薬物治療について調剤薬局の薬剤師へ情報提供し、地域の患者さまの治療のために連携をとっています。ぜひ「かかりつけ薬局」をもってください。
かかりつけ薬局があると、あなたの薬歴を保管・活用し(どんな薬を飲んでいたか、どんな薬でアレルギーが出たのかなど)、薬の飲み合わせや重複を確認してもらえます。同じ薬局(薬剤師)に相談することで、自分の体質を知ってもらえるようになり、市販薬の選択をしてもらえたり、健康管理をしてもらえます。

まとめ
  • 薬は病気を治す手助けをするものです。
  • 薬剤師はお薬の効き目と安全性を管理する職業です。
  • 薬のことを良く知るためにも、「薬の説明書」や「お薬手帳」を有効に活用しましょう。
  • あなたのことを良く理解してくれる「かかりつけ薬局(薬剤師)」を見つけましょう。

メモほかのらくわ健康教室の記事はこちら⇒らくわ健康教室 講演録3



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