概要は以下のとおりです。
◆はじめに
「がん」は不治の病だと思っている人はまだ多いようです。しかし、そうではありません。治る人も多いのです。がんは、早期に局所だけを治療すれば治る病気です。本日は「がんは決して怖くない」というお話をします。
◆主要死因別に見た死亡率
死因別に日本人の主な死亡率を見ると、戦後の1947(昭和22)年ごろは、圧倒的に多かったのが結核による死亡者でした。その後、食生活の変化など、時代によって推移があり、現在は結核による死亡率はほとんど0%に近づき、
- がん
- 心疾患
- 肺炎
- 脳血管疾患
◆部位別のがん死亡率
がんによる死亡者のがんの部位にも、時代ごとに変遷があります。戦後は圧倒的に胃がんが多かったのですが、現在は大腸がんが急増しています。脂肪分が多く、繊維質の少ない食事が増えたことなどが影響していると考えられます。2012(平成24)年の統計では、男女とも、がんによる死亡のうち50%余りが消化器系のがん(食道、胃、大腸など)です。
現在、日本人の2人に1人ががんになりますが、がんで死亡するのは3.5人に1人という割合です。つまり、がんになっても治る人も多いわけです。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。
◆がんのイメージと消化器がん
がんと聞くと、「治らない」「痛い」「痩せる」 ⇒ 「がんは怖い」というイメージをお持ちの方もまだ多いと思います。
しかし、消化器がんは「治る」「痛くない」「内視鏡で早期発見できる」 ⇒ 「だからがんは怖くない」のです。痛くない理由は、胃や大腸には神経がほとんどないためです。
◆消化器がんの発生と進展
がんは粘膜から発生します。進行するに従って、粘膜下層、筋層、漿膜(しょうまく)に深く入っていきます。同時にリンパ管、血管を介して全身に広がります。
◆胃がんと大腸がんの進展と生存率
胃がんは、がんが粘膜の中にとどまっているステージ1の段階では、手術後の5年生存率が90%に近く、本来の寿命も計算に入れた相対生存率では97%以上です。ということは、ステージ1の段階のほとんどの人が治っているということです。大腸がんについては、さらに生存率が高いです。しかし、それらの高い生存率も、がんの進行につれて下がってしまいます。2つのがんの進展と5年生存率は以下のとおりです。
◆早期発見のために
下記は、早期胃がんを内視鏡(左)とエックス線(右)で見た画像です。内視鏡と比べ、エックス線ではほとんど分かりません。
胃透視(バリウム)検査は、
- 粘膜の変化をとらえ難いこと
- 細胞の検査(生検)ができないこと
が欠点です。
内視鏡検査は、粘膜側からの観察なので、早期発見に適しています。
◆内視鏡的がんの治療
内視鏡は、診断だけでなく、がんの根治治療も可能にしました。内視鏡治療は、最も侵襲(しんしゅう)がなく、また機能温存できる術式です。食べ物も、手術前と同様か、それ以上においしく食べられます。
いずれも、内視鏡でがんを確認した後、電気メスで粘膜だけをはぎ取ることで根治しました。
◆PET-CT検査で早期消化器がんは見つかる?
PET-CT検査は、がんがある程度の体積を持たないと映らないことが弱点です。ポリープのような形状のものや、ある程度進行したがんは映るのですが、粘膜に薄く広がったような早期の消化器がんだと、発見は難しいです。やはり早期発見には、内視鏡検査が一番です。
◆内視鏡検査の重要性
「内視鏡検査で早期発見できることは良く分かっているけれど、内視鏡検査はしんどい、つらい検査だ」と思っておられる方も多いことでしょう。でもそれは、これまでの内視鏡検査です。今、内視鏡では「痛くない、安全で安心な検査」が可能です。少量の睡眠導入剤を使用して、寝ている間に内視鏡検査が終わる方法があります。ご相談ください。
◆おわりに
本来、がんは組織(局所粘膜)の病気であって、全身の病気ではありません。初期に発見できれば、全然怖くありません。勇気をもって、内視鏡検査を受けてください。「怖くないがん」のうちに発見し、治療しましょう。
質疑応答から
Q:痛くない内視鏡検査に、保険は適用できますか?
A :はい、できます。痛くない検査を多くの方が求めておられると思います。
Q:食道がん検査にヨードを使用すると見つけやすいのですか?
A :食道がんが強く疑われる場合に、ヨードで染色して内視鏡検査をする方法ですが、全ての検査に用いる必要はないと思います。それよりも、食道がんはアルコールとタバコが大敵です。お酒を飲んで顔が赤くなる人は要注意で、6倍ほどリスクが高まります。そういう方は内視鏡検査のときに、医師に伝えてくだされば、特に気を付けて観察します。大腸がんは、便検査で見つけることができます。内視鏡より簡単ですので、年に一度は便の検査をされることをお勧めします。