2015年04月14日

第193回らくわ健康教室「糖尿病性壊疽で足を失う人が増えています」

2014年5月20日開催のらくわ健康教室は、「糖尿病性壊疽(えそ)で足を失う人が増えています」と題して、洛和会音羽病院 創傷ケアセンター センター長 兼 洛和会音羽記念病院 皮膚科 部長で医師の松原 邦彦(まつばら くにひこ)が講演しました。

概要は以下のとおりです。

はじめにブログ用IMG_1120.jpg

世界の糖尿病人口は3億7千万人を超えました。(2014年5月現在) 国情を問わず、全ての国・地域において、患者さまが増加しています。もはや先進国における飽食の病ではなく、人類共通の脅威と認識すべきでしょう。
糖尿病にはさまざまな合併症がありますが、今回は「足の壊疽」についてお話しします。糖尿病による神経障害、血管障害、免疫力低下などが複合的に作用して、靴擦れなどのわずかな傷が、極めて治りにくい潰瘍へと進行してしまうのです。

壊疽とは

辞書には、「壊死(えし)の一種。壊死に陥った部分が腐敗、融解を来した状態。脱疽(だっそ)」(広辞苑)、「局所的に壊死した組織の表面が黒変した状態。脱疽」(大辞林)と書かれています。
近年、圧倒的に多いのは、動脈硬化症と糖尿病による壊疽です。足の親指が壊死してしまったり、踵が壊死したり、ひどくなると足全体が壊死してしまい、切断しなければならない状態にもなります。

衝撃的な報告

2005(平成17)年、世界的な医学雑誌「Lancet(ランセット)」に衝撃的な報告が掲載されました。「世界のどこかで、30秒に1人の割合で糖尿病のために足が失われている」というのです。1年間に換算すれば、100万人を超える数です。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

140520らくわ健康教室 松原先生レジュメデータ1_Part4.jpg
国名を見れば分かるとおり、先進国・途上国ということでなく、人口の多さに比例するように糖尿病患者が出ています。

糖尿病になると

  • 神経が鈍くなる(神経障害)
  • 血管が細くなる(動脈硬化症)
  • ばい菌に弱くなる(免疫低下)

これらが絡み合ったとき、壊疽が起こりやすくなります。

糖尿病性神経障害

神経障害は、知覚神経、運動神経、自律神経の全てに起きます。感覚が鈍いためにけがに気付かない、腱の動きが悪くなり足が変形してしまう、汗や血の流れをうまく制御できないなどの現象が起きます。足趾(そくし)が曲がったまま変形してしまう状態(ハンマー・トゥ、またはクロー・トゥと呼ばれます)や、土踏まずがつぶれてしまう状態(シャルコー足)が有名です。

140520らくわ健康教室 松原先生レジュメデータ1_Part6.jpg

糖尿病性血管障害

血管障害は、いわゆる動脈硬化症です。特に糖尿病性腎症の患者さまから、透析を受けている患者さまに顕著に現れます。通常の動脈硬化症と比べ、もともと膝から下の細い血管に障害が起きやすいので、検査や治療が非常に難しいのです。

140520らくわ健康教室 松原先生レジュメデータ1_Part7.jpg

足の壊疽の治療

糖尿病性の神経障害や血管障害を背景に、重症の感染症を併発し、足を切断しないと命に関わる状態となって私たちのもとを訪れる患者さまが増えています。このような複雑な病態を治療するためには、多くの専門科の協力が必要です。
例えば、足の傷を治すには外科や形成外科が、血の流れを良くするには循環器系の内科が、全身状態の改善には糖尿病内科などが…というように、各科との連携が必要ですが、壊疽の治療で肝心な点は治療の順番です。その時点ですべき治療の順番を間違えると、治療が成功しないのです。そのためには、連携を取り仕切るセンターが必要です。当会では、全体の力を結集して治療を行うために、「創傷ケアセンター」を設立しました。外来は洛和会音羽病院で行っており、必要な治療の内容によって、当会のどの病院で治療を受けていただくかを決定します。こうしたセンター機能のある病院は、全国でもまだ数少ないのが実情です。

マゴット療法とは

糖尿病壊疽の治療のうち、近年、「マゴット療法」が注目されています。マゴットとは、ハエの幼虫であるウジのことです。ウジは死んでしまった組織だけを食べるという性質があり、壊疽の病変の上に載せておくと傷がきれいになります。また、ウジの出す分泌物には抗菌物質や血流を良くする物質など、傷を治す薬になる成分が含まれており、さまざまな効果が期待されています。特に抗生剤が効きにくい菌による感染症などに力を発揮すると言われています。自費診療であるために制約はありますが、私たちも少しずつこの治療を始めています。

靴選び、間違っていませんか?

靴を選ぶとき、「幅の広い靴が良い、柔らかな靴が良い、ひもを緩めたほうが良い、家では健康サンダル」などと考えていませんか? これらは全て間違いです。

140520らくわ健康教室 松原先生レジュメデータ1_Part16.jpg

糖尿病性壊疽を頑張って治療しても、3分の2ぐらいの方は再発しています。足を守るための履き物が必要なのですが、まだまだそのような取り組みは遅れているのが現状です。足を保護するというだけでなく、現状以上の変形を防ぐためにも、正しい履き物が必要です。創傷ケアセンターには義肢装具士が定期的に来訪し、患者さまの足の相談にのっています。

おわりに

足の異変は、「いかに早く発見するか」が大事です。これまで述べたように、糖尿病性壊疽になると、患者さま本人では気付きにくいため、ご家族が気を付けるようにしてください。異変を発見したら、かかりつけ医を通じて創傷ケアセンターを受診してください。早期発見で、足の切断を防ぎましょう。


ほかのらくわ健康教室の記事はこちら⇒らくわ健康教室 講演録3



カテゴリー:らくわ健康教室 | 更新情報をチェックする