2015年06月23日

らくわ健康教室「正常圧水頭症 〜小刻み歩行・物忘れ・尿もれの原因?〜」

4月8日開催のらくわ健康教室では、「正常圧水頭症 〜小刻み歩行・物忘れ・尿もれの原因?〜」と題して、洛和会音羽病院 正常圧水頭症センター 所長で医師の石川 正恒(いしかわ まさつね)が講演しました。

概要は以下のとおりです。

ブログ用IMG_4245.jpgはじめに

高齢者の脳の病気には、脳卒中(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血)やアルツハイマー病、脳血管性認知症、パーキンソン病などがありますが、特発性正常圧水頭症(iNPH)も、その一つです。


正常圧水頭症(NPH)とは

水頭症は小児に多いですが、成人にも見られます。正常圧水頭症は、脳や脊髄にある脳脊髄液(髄液)の吸収が悪くなって脳室に髄液が過剰にたまり、脳を圧迫して歩行障害や認知障害、尿失禁などを引き起こしますが、髄液シャント手術で症状改善が得られる疾患です。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

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正常圧水頭症のなかには、ほかの病気で手術などの治療を受けた後に起こる二次性正常圧水頭症(sNPH)と、原因不明の特発性正常圧水頭症があります。原因不明の特発性正常圧水頭症は、近年、ようやく認知されてきました。

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転倒の原因に特発性正常圧水頭症も

高齢者が転倒する原因には、加齢や運動不足、膝痛など、さまざまなものがありますが、特発性正常圧水頭症も関わっています。特発性正常圧水頭症の患者さまのなかで転倒したことがある人は9割近くに達し、骨折した人も4分の1にのぼったとの学会報告があります。また、転倒して救急搬送された患者さまの4分の1に特発性正常圧水頭症があったとの報告もあります。高齢者の転倒原因として、特発性正常圧水頭症が見過ごされている可能性があり、注意が必要です。
特発性正常圧水頭症の患者さまの歩行は、「小刻み」「すり足」「開脚」が特徴です。立ち上がりにくい、第1歩が出にくい、方向転換が困難といった点も共通しています。小刻み歩行やすり足はパーキンソン病の患者さまにも見られますが、パーキンソンの場合は両足の左右の間隔が狭くなった歩き方になります。

認知障害の原因にも

特発性正常圧水頭症は、認知症の原因の一つです。認知障害は、アルツハイマー型が一番多く、以下、脳血管型、レビー小体型と続きますが、特発性正常圧水頭症も5%(20人に1人)を占めています。頻度としてはそれほど高くありませんが、「治療により認知障害が改善できる」点で、特発性正常圧水頭症は重要です。特発性正常圧水頭症患者さまの80%に認知障害が見られます。

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排尿障害の原因にも

特発性正常圧水頭症患者さまの60%に排尿障害が起こります。症状は、頻尿、尿意切迫や尿失禁で、尿意を感じたら急にこらえきれなくなり、漏らしてしまう点が特徴です。
ただ、年をとれば誰でもおしっこは近くなりますし、男性の場合は前立腺肥大の影響、女性の場合は腹圧性尿失禁も考えられます。これらの疾患との鑑別が難しいため、特発性正常圧水頭症による排尿障害の多くが見過ごされてきた可能性があります。

タップテスト

タップテストとは、特発性正常圧水頭症の診断や治療効果を見分けるテストです。腰から髄液を30ml抜き、症状が改善するかどうかを見ます。歩行はもっとも改善が見られやすいです。髄液排除は、1回目はよく効いても、2回、3回となると効きが悪くなり、手術が必要となります。

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画像診断(MRI)

MRIによる画像でアルツハイマー型認知症と特発性正常圧水頭症の違いを探すと、脳の天辺のあたりで、アルツハイマー型は隙間が大きいのに比べ、特発性正常圧水頭症は詰まっています。これは髄液の貯留で脳室が押し上げられているためではないかと考えられ、特発性正常圧水頭症の診断に有用とされています。ただ、同様のMRI画像で異常がない人がいることも明らかとなっており、画像所見と症状の一致が大切です。

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特発性正常圧水頭症の治療

特発性正常圧水頭症の手術治療は、頭の中に溜まった髄液を、脳室や腰椎からシリコン製の管を通じて体内に流してやる「髄液シャント術」です。脳外科の手術のなかでは簡単な部類で、約1時間の手術に、麻酔を加えても2時間〜2時間半程度で終わります。
髄液シャント術には、以下の3通りの方法があります。日本では、「脳室―腹腔シャント」と「腰椎―腹腔シャント」が半々の割合ですが、腰の手術の割合が増えています。しかし、腰はよく動かすためか、腰椎からのシャントの方が詰まりやすい印象があります。

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シャント手術の効果には個人差があります。手術1年後の調査で、歩行障害はおおむね70%の改善率、認知障害では60%、排尿障害では60%の改善率が見込まれており、良くなる確率が高いです。長期でみると、術後1〜2年は順調ですが、加齢も加わり、次第に有効例が少なくなっていきます。それでも患者さまの自立度が上がり、介護負担が減る期間が延びるのですから、治療の効果は大きいと考えられます。

退院後の注意

  • 太らない:
    体重増加による腹圧上昇でシャント機能が不全になるのを予防します。
  • 転ばない:
    見守りとともに、周囲環境の改善や自宅でのリハビリテーションを続けましょう。
  • 閉じこもらない:
    低活動による廃用症候群を予防しましょう。

自宅での体操

体力に応じた運動を続けましょう。見守りも忘れずに。運動は筋肉を落とさないためのストレッチが効果的です。足踏み(2〜3分)や、以下のような運動をしましょう。

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結び

  • 特発性正常圧水頭症(iNPH)は、高齢者の病気です。
  • 小刻み歩行・物忘れ・尿失禁が主な症状です。
  • MRIで特徴的な所見を示す例が多いです。
  • タップテストで症状が改善すれば、手術効果が期待できます。
  • 髄液シャント術でもっとも改善が見られるのは歩行障害です。
  • 退院後は太らない・転ばない・閉じこもらないを目標にしましょう。

ほかのらくわ健康教室の記事はこちら⇒らくわ健康教室 講演録3

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