2015年08月08日

らくわ健康教室「認知症を知ろう」

6月10日開催のらくわ健康教室では、「認知症を知ろう」と題して、洛和会音羽リハビリテーション病院 認知症医療サポートセンター 部長で医師の木原 武士(きはら たけし)が講演しました。

概要は以下のとおりです。

ブログ用IMG_7787.jpgはじめに

認知症の高齢者が増え続けています。厚生労働省によれば、2012(平成24)年時点で約462万人の高齢者が認知症を患い、認知症予備軍にあたる軽度認知障害(MCI)の高齢者も約400万人と推計されています。さらに2025年には、認知症の人が約700万人と、高齢者の5人に1人に達する見込みです。そのようななかで、認知症の予防や治療だけでなく、みんなで認知症の人や家族を支えていくことが大切な課題となっています。

認知症の人の思い

「認知症の人と家族の会」によれば、認知症の人は以下のような思いをもっています。

<私の困りごと>
  • 毎日することがなく、生活に張りがない
  • 方向や場所が分からなくなる
  • 記憶の障害
<現在でもできること>
  • パソコンや携帯電話を使いこなすことができる
  • 1人で外出できるところもある
  • サポートしてくれる人と外出や旅行ができる
  • できないことは、断ることができる など
<生き生きと生きていくためには>
  • 社会の一員として、何かの役割をもちたい
  • 社会の一員と認められたい、仕事がしたい
  • 少しでもいいから賃金をもらい、できることがまだあると自信をもちたい
  • 重度の人の介護だけでなく、軽度の認知症の人がいかに楽しく生活できるか、どのように生活支援をしていくかが、今後の課題である など
<介護職に伝えたいこと、望むこと>
  • 何も分からない人と考えないでほしい
  • すべての認知症の人にBPSD(周辺症状)が現れるのではない
  • 残された機能も多い
  • 認知症のある人を特別な人と考えず、プライドを持っている1人の人として接してほしい
  • 認知症になっても人間的に劣ると考えない など

認知症の人の家族の思うこと

「北海道若年認知症の人と家族の会」の平野代表のご講演から。

  • 診断からケアまでの医療の充実、薬や対処法について説明してほしい。
  • 認知症の人の能力維持などのためのリハビリを行ってほしい。
  • 社会的役割を発揮できる場、社会参加できる場がほしい。
  • 利用できるサービス、制度の情報がほしい。

認知症って?

認知症と診断するには、一定の条件があります。CTやMRIで「脳が痩せている」ことが分かったからでもないし、認知症診断テストの点数が低いことでもありません。
認知症と診断するのは、以下のような場合です。
  • 以前に比べて、認知機能の低下がある。
  • 毎日の活動において、自立が阻害される。請求書の支払い手続きをしたり、内服薬を管理するなどの複雑な日常生活動作が1人ではできず、援助を必要とする。
社会生活や仕事に不自由がなければ、認知症とは診断されません。
軽度の認知症は「手段的日常生活動作の困難」(家事や金銭管理ができなくなるなど)、中等度の認知症は「基本的な日常生活動作の困難」(箸が使えない、着替えができないなど)、重度の認知症は「完全依存」の状態に分類されます。

認知症の原因疾患

アルツハイマー病が有名ですが、それ以外にも前頭側頭葉変性症、レビー小体病、血管性疾患、外傷性脳損傷、物質・医薬品の使用、HIV感染、プリオン病、パーキンソン病、ハンチントン病など、さまざまな原因疾患があります。特定が不能なこともあります。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

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アルツハイマー型認知症(AD)

以下、代表的な認知症であるアルツハイマー型認知症について説明します。

  • 記憶障害:
    記憶には、以下の3種類があります。
    • 即時記憶(60秒前までの記憶)
    • 近時記憶(数分後まで覚えている記憶)
    • 遠隔記憶(昔のこと)
    ADの初期は、近時記憶が衰えてきて、最近のことが覚えられなくなります。同じことを何度も聞いたり、火の不始末や、物の置き忘れなどが起こります。
  • 実行機能障害や失認:
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  • 失語:
    言葉が出ない。話を聞いてもうまく理解できない。思ったことを話せないなど。会話がかみ合わなくなります。
  • 失行:
    物の使い方がわからない。洋服をうまく着ることができない。お手本どおりに積み木を積めないなど。使えていた電化製品が使えなくなったりします。

アルツハイマー型認知症(AD)の治療

アルツハイマー型認知症の治療は、薬物療法と非薬物療法に大別されます。

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  • 薬物療法:
    BPSD(周辺症状)の薬物療法は、症状の違いによって、処方する薬も違います。(チアプリド、セロトニン再取り込み阻害薬、パロペリドールなど)。
    治療では、薬の効果を調べるために質問票などを用いたテストも行います。薬の効果がでないときなどは、処方する薬を変えてみる方法もあります。
  • 非薬物療法:
    認知症の人が落ち着く、さまざまな非薬物療法があります。行動を介した療法では、徘徊など行動異常の原因となる状況や環境を整備して行います。感情・感覚を介した療法では、回想法や確認療法で思い出す力を訓練します。刺激を介した療法では、グループ活動やレクリエーション、動物療法、音楽療法などがあります。洛和会音羽リハビリテーション病院で行っている音楽療法で、医師や看護師のケアには否定的なAD患者さまが、歌を聞いて涙を流す場面もありました。

国や京都市の取り組み

国が掲げる「新オレンジプラン」の概要は、以下のとおりです。

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出典:厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12304500-Roukenkyoku-Ninchishougyakutaiboushitaisakusuishinshitsu/01_1.pdf

京都でも、「京都式オレンジプラン」や「認知症ガイドブック」などを整備しています。ネットで検索できますので、活用してください。
京都式オレンジプランは3つの視点を掲げています。このうち1.と3.は、一般の方に参加していただきたいことです。

  1. 全ての人が認知症のことを正しく理解する:
    認知症の人の尊厳と暮らしを支える地域づくり。
  2. 予防・初期〜ターミナル期までとぎれない認知症の医療・介護の仕組みづくり:
    気付き、つながり、支えあう。
  3. 認知症の人、家族と地域を支える人材の育成:
    みんな(多職種)で、みんな(本人・家族・地域)を支える。

認知症の人とどう接する?

次のような変化がありませんか?
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認知症の人と接するときに気を付けたいのは、以下の点です。

  • 気持ちを理解して接する
  • 慣れた環境を継続する
  • できることを尊重し、できないことを支援する

こんな例をご参考に

あるところに、物忘れが始まったおじいちゃんが家族と暮らしていました。
1時間ほど前に、自分の部屋から万年筆を持ち出して、客間で手紙を書き、そのまま置きっぱなしにしてきたのですが、それを忘れて、自分の部屋の万年筆がないと怒って、探しています。
仕事から帰ってきた息子さんとお孫さんは、いつもの物忘れと思いましたが、以下のような対応をしました。おじいちゃんの心に何が残るか、というと…。

  • 「一緒に探そう」と優しい言葉をかけて1分ほど探してあげる

    おじいちゃんは、万年筆を探していたことを忘れてしまいましたが、心のなかには「困ったときには助けてくれる人たちだ。嬉しいな」といった温かい感情が残ります。

    こんな暮らしが続いて半年後、おじいちゃんの物忘れは少し進みましたが、みんなと楽しく暮らしています。

  • 「何言ってんだ。昨日もおとといもそう言って、自分の部屋にあったじゃないか…」と怒る

    おじいちゃんは、何を言われたかは忘れたけれど、心のなかには「ワシが困って助けを求めても、怒って返す怖い人」という不快な感情が残ります

    このようなケアを繰り返した半年後、おじいちゃんは息子を見ると「この人は怖い人」という感情が心に残り、介護への抵抗や暴力、徘徊などの異常行動をとるようになってしまいました。

どこに相談する? どこに受診する?

先に述べた認知症ガイドブックに、詳しく載っています。相談機関は、高齢サポート(地域包括支援センター)や、介護支援専門員(ケアマネジャー)、区役所の福祉部や福祉事務所、家族会(認知症の人と家族の会)など。受診は、かかりつけ医や認知症専門医へ。家族が受診に同行する際、本人と一緒だと言いづらいことも多いので、どんな状態なのかメモしたものを用意して、あらかじめ医師に渡すのも良いと思います。

地域で見守る

民生委員や社会福祉協議会のほか、「認知症あんしんサポーター」(認知症に対する正しい知識や接し方などをサポーター養成講座で学んだ、認知症の人とその家族を温かく見守る応援者)を増やす取り組みも大事です。
認知症の人と介護者の間に起こる悪循環を回避するためにも、ご近所さんの力で見守ってください。もしかすると…という方を、医療機関受診や福祉サービスにつないでほしいです。

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予防はできるのか?

認知症の促進因子としては、加齢や高血圧、ライフスタイル、うつ病や頭部外傷、社会経済的要因や遺伝などが上げられます。健診や治療を行うことで、認知症の促進を抑えることができます。  
逆に認知症の防御因子には、知的活動や運動、適切な食事やアルコール、降圧剤服用、高等教育などがあげられます。

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認知症にならない方法は、現在では確立されていませんが、運動することや社会との関わりを保つこと(いろんな人とおしゃべりすること、自身の役割をもつこと)で、進行を遅らせることはできます。
誰でも認知症にはなり得ます。たとえ認知症であっても、安心して過ごせる社会づくりのほうが大事だと思います。

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ほかのらくわ健康教室の記事はこちら⇒らくわ健康教室 講演録3

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