2015年08月20日

らくわ健康教室「歯科治療あきらめていませんか?」

5月27日開催のらくわ健康教室では、「歯科治療あきらめていませんか?」と題して、洛和会音羽病院 歯科麻酔科 副部長で歯科医師の中尾 晶子(なかお あきこ)が講演しました。

概要は以下のとおりです。

はじめに

歯科治療時に、「痛い」「つらい」「怖い」「不快」「気分が悪くなる」などの体験をしたことはありませんか? 「歯科治療は痛い・怖い・なんとなく不安だから歯科へ行きたくない」と、今、思っていませんか? 「心臓が悪い」「血圧が高い」「心身に障がいがある」「高齢で寝たきり」など体のことが気掛かりで、歯科へ行くのをためらっていませんか? 「聞き分けがなく、暴れて歯科治療をしてもらえない」などで困っていませんか? 歯科治療をあきらめていませんか?
私たち歯科麻酔科医は、患者さまが痛くなく、怖くなく、不安を感じず、快適で、そして安全な歯科治療や手術を受けられるよう支援・活動をしています。

京都口腔健康センター

私が勤務する洛和会音羽病院の京都口腔健康センターは、2002(平成14)年に開設されました。総合歯科、口腔外科、歯科麻酔科の3科があり、地域の二次医療機関として、基礎疾患がある方の歯科治療や口腔外科疾患の治療をしています。

※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

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2015年5月27日時点

歯科麻酔科業務

歯科麻酔科の業務は、以下のとおりです。

  1. 基礎疾患がある患者さまの歯科治療と全身管理
  2. 口腔外科手術の全身管理
  3. 入院患者さまの歯科治療と口腔ケア

<歯科での全身管理の目的>
歯科治療時は、痛みや緊張、不安などのストレスにより、気分が悪くなったり、血圧が上がったりすることがあります。また、基礎疾患があるとストレスにより持病が悪化するなど、体に大きな負担をかけてしまうことがあります。歯科での全身管理の目的は、歯科治療中にトラブル(偶発症)を起こさないようにすることです。
開業歯科診療所における全身的偶発症1,243例を分析したところ、脳貧血発作が61%と最も多く、血圧上昇が4%、薬物アレルギーが4%、過換気症候群が3%、局所麻酔中毒が3%、その他が25%でした。偶発症は、痛みなどのストレスに対する生体反応が体に備わる予備力を超えた時に起こります。

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歯科麻酔科では全身管理により、このような合併症予防に努めています。

歯科診療時の全身管理

全身管理には、モニター管理と精神鎮静法、全身麻酔があります。
モニター管理の対象となる疾患には、循環器系疾患(高血圧症、心筋梗塞、狭心症、不整脈、心臓弁膜疾患)や、脳血管障害(脳梗塞、脳出血)、呼吸器系疾患(気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患)、そのほかに甲状腺機能亢進症、慢性腎臓病、透析などが挙げられます。
当院でモニター管理を行った患者さまの約45%に循環器系疾患を認めました。そのなかで最も多かったのが高血圧症でした。

高血圧症の患者さまが来院されたら…

高血圧症の患者さまが来院されたら、歯科治療時にどんな注意が必要でしょうか?
1つ目は、歯科治療時は痛みや緊張などのストレスにより血圧が上昇しやすいことです。2つ目が、高血圧症の患者さまには狭心症、心筋梗塞、脳出血、脳梗塞などの合併症がある場合があり、その合併症が悪化しないようにすることです。3つ目が、降圧薬のなかには局所麻酔薬と相互作用を示すものがあることです。したがって、治療開始前に患者さまの状態を評価することが大切です。そのために問診を行います。

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血圧がどのぐらいまでなら歯科治療は可能?

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精神鎮静法

精神鎮静法とは、薬剤により患者さまが意識を失わない程度に中枢神経を抑制し、適度の鎮静状態を得る方法です。歯科治療に対する不安・ストレスを軽減することで、より安全で快適な治療を行います。精神鎮静法は以下のような場合に適応となります。

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精神鎮静法の流れは、以下のとおりです。

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全身麻酔

精神鎮静法では、意識は完全にはなくなりません。痛みをとるために局所麻酔が必要です。動くことができます。それに対して全身麻酔は、麻酔薬により中枢神経を抑制し、意識や痛み、動きを取る方法です。全身麻酔は以下のような場合に適応となります。

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障がいがある方の日帰り全身麻酔歯科治療

対象は、一般的な歯科医療施設で治療を受けることが困難な患者さまです。主な疾患には、精神発達遅滞や自閉症、脳性まひ、ダウン症候群があります。
全身麻酔を行う場合は、精神鎮静法と同様に術前検査を行います。検査項目は、血液検査・心電図検査・胸部レントゲン撮影・呼吸機能検査です。また、かかりつけ医院に全身状態についての問い合わせを行います。術前検査時には、歯科麻酔科医、歯科衛生士、看護師が、患者さまの状態、癖や嗜好を把握し、患者さまが過ごしやすい環境づくりに取り組んでいます。また、ご家族へ問診を行い、十分な相互理解のもと治療を進めるよう努めています。

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視覚的な情報が理解しやすい患者さまには、絵カードで視覚支援を行っています。

全身麻酔当日の流れ

当日の流れは、以下のとおりです。

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全身麻酔当日も視覚支援の絵カードを使用しています。
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日帰り全身麻酔治療を安全に行うために、手術前日と当日帰宅後に電話連絡し、患者さまの状態を確認しています。

おわりに

私たち歯科麻酔科医は、より多くの患者さまが快適で安全な歯科治療や手術を受けられるよう活動しています。お問い合わせは、洛和会音羽病院 京都口腔健康センター TEL:075(593)1329の歯科麻酔科まで。


ほかのらくわ健康教室の記事はこちら⇒らくわ健康教室 講演録3



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