2015年12月28日

らくわ健康教室「乳がんの治療 手術療法の変遷と今後」

8月28日開催のらくわ健康教室では「乳がんの治療 手術療法の変遷と今後」と題して、洛和会音羽病院 乳腺外科 副部長で医師の坂田 晋吾(さかた しんご)が講演しました。

概要は以下のとおりです。

6486.jpgはじめに
乳がんは、年間7万人ほどが罹患し、比較的若年から発症する病気です。罹患率がもっとも高いのは45歳前後で、一家を支えている年代に多く発症するため、早期発見・早期治療が大切です。本日は、手術療法を中心にお話しします。

乳がんの特徴と治療
乳がんの患者のほとんどは、がんと診断された時点でつらい症状を伴っていることはありません。では、なぜ治療をするのでしょう。一つは、放っておくと乳房の中で増殖し、皮膚を破って生活がしにくくなるからです。二つ目が、「転移」です。乳がんの細胞が全身に流れて行って、肝臓や肺に生着することを「転移」といいます。転移が数年後に目に見える形となったときに「再発」と呼ばれます。再発が起こると命を失うことになります。
治療は、局所治療と全身治療に大別されます。局所治療には手術療法と放射線療法があり、全身治療には抗がん剤や分子標的薬投与、ホルモン療法があります。
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乳がんの手術の目的
  • 原発巣を取り除く
    …乳房温存手術や乳房切除術を行い、乳房の中にできたがん細胞を全て取り除くことが根治に必要。
  • リンパ節の郭清
    …がんが広がってリンパ節まで転移している場合に、そのリンパ節を切除すること。
   
腋(わき)のリンパ節に転移があると、そこから全身に再発することが心配されます。また、腋のリンパ節転移の個数が治療方針に影響しますので、転移があればリンパ節の切除(郭清)が必要になります。しかし裏を返せば、転移がないことが証明できれば切除する必要はありません。定型的な郭清を行うとリンパ浮腫により腕が腫れる可能性がありますので、不必要な郭清は避けたいところです。リンパ節の一部をサンプリングして転移がないことを証明する「センチネル生検」を行うことで、不要な郭清を避けることができます。

乳がんの進展と手術
<非浸潤がんと浸潤がん>
乳がんは乳房の中の乳管に発生します。全体の10〜15%の乳がんは、がんが乳管の中にとどまっている非浸潤がんです。
がんが乳管の基底膜を破って外に出てくると浸潤がんとなり、しこりを感じるようになります。
非浸潤がんでは局所治療(手術±放射線)が、浸潤がんではさらに全身治療が加わります。
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上の図は、乳がんのマンモグラフィの画像です。乳がんが乳腺組織の膜を超えて、脂肪織に浸潤しているのが観察できます。背面では乳腺の後隙の脂肪織まで浸潤している可能性があります。放射線を併用しない乳房切除術では腫瘤の前面の皮膚、後面の大胸筋筋膜を合併切除する必要があります。(大胸筋そのものは切除しません)
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乳がん手術の歴史
乳がん治療の歴史は、麻酔の開発に伴う手術の歴史でもあります。世界で初めて全身麻酔下の乳がん手術を行ったのは、江戸時代の外科医 華岡青洲で、1804年、曼荼羅華(チョウセンアサガオ)などから合成した通仙散という麻酔薬を用いて乳がん手術を行いました。(通仙散の開発の実験の副作用で奥さんは失明しています)
その後、1845年にウェルズが笑気麻酔を開発、1846年にはモートンがエーテル麻酔を開発、1847年にはシンプソンがクロロホルム麻酔を開発します。
手術の歴史は、部分切除から始まりました。しかし、進行した病気が多かったこともあり、約9割以上の方に再発が起こっていました。麻酔の進歩と共に手術は拡大し、大胸筋・小胸筋でがんを包むように切除することで、逆に9割以上の方が再発をしない術式をハルステッドが開発しました。その後も拡大手術が勧められますが、弊害が増えるばかりで成績の向上がなく、ハルステッドの術式が標準となりました。
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近年になると、画像診断の進歩で小さな乳がんも見つけられるようになったことや、全身治療(化学療法、ホルモン療法など)の進歩、放射線療法の進歩、整容性への期待から、切除部分を小さくする乳房温存術の開発が進みました。日本で温存手術が始まったのは1980年です。1999年に乳がん学会が乳房温存ガイドラインを出し、温存術が増えていきます。2002年には温存術が乳房切除を上回り、2008年には温存術が約6割となりました。
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しかし、温存術の広まりとともに、整容性や安全性の観点から、さらなる見直しも進みました。整容性を優先することで根治性が犠牲になるようなことは許されませんし、乳房を温存しても、変形したり左右のバランスの崩れて整容性が損なわれることがあるからです。このため近年は、乳房切除+再建(インプラント)のほうが有利と考える人も増えています。
乳房再建を前提とするなら、乳房切除によって乳腺組織が全切除されるため、遺残が起きず、リンパ節転移などがなければ放射線照射が回避できる利点があります。また、以前は自費治療でしたが、2013年には乳房再建(インプラント)が保険適用となり、現在はラウンド型(おわん型)とアナトミカル型(しずく型)の2タイプが保険適用となっています。これらのことから、現在では、温存術が4割、乳房切除術が6割と、再度逆転をした状態となっています。

温存乳房の変形に対する形成外科の対応
  • 温存乳房にはほぼ全例、放射線照射が施行されています。
  • 放射線照射を受けた皮膚は、進展性が極端に低下し、治癒能力も非常に低い皮膚となっています。
  • 以前は、形成外科的な手術をすると、合併症が多いことが予測されるため、形成外科医は対応してくれませんでした。
    現在は、脂肪注入や、皮弁形成を利用した乳房形成術など、技術的には難しい部分がありますが、可能な範囲で形成を行ってくれるようになっています。
乳房再建手術
再建手術には、一次再建と二次再建があります。一次再建は、乳がんの手術と乳房再建術を同時に行う方法、二次再建は乳がんの手術とは別に再建を行う方法で、それぞれさらに二つの方法に分かれます。
  • 一次一期再建:
    1回の手術で再建を完成させる方法。乳がんの手術と同時に、インプラント(シリコン)を入れる方法と、自家組織を移植する方法があります
  • 一次二期再建:
    乳がんの手術と同時にティッシュ・エキスパンダー(皮膚拡張器)を挿入し、2回目の手術でインプラントまたは自家組織を入れて乳房を再建します。
  • 二次一期再建:
    皮島(皮膚と脂肪)を付けた自家組織による乳房再建です。
  • 二次二期再建:
    1回目の手術でティッシュ・エキスパンダーを挿入し、2回目の手術でインプラントまたは自家組織を入れて乳房を再建します。

各方式のメリットやデメリットは以下のとおりです。
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きれいなおっぱいを残す
再建手術で乳房を切除してしまった場合は、乳輪や乳頭の形成も行います。切除しない側の乳房の乳頭や陰部の皮膚を用いて乳輪乳頭を作成します。
また、比較的早期の乳がんで脂肪織への進展がなければ、皮膚をできるだけ残す術式も採用できます。がんが乳頭から離れていれば乳頭乳輪も残せますし、放射線治療が回避できる可能性も高いです。皮膚を広く残すことができれば、見た目のキズも小さく、エキスパンダーで皮膚を拡張する範囲が少なくて済むなど、さまざまな利点があります。

まとめ
  • 手術の歴史から最近の動向までをご説明しました。
  • 根治性を保持しながら整容性を求めることは、本来は困難なことですが、きれいなおっぱいを残すことに努力しています。
  • 進行した病変に関しては、従来と大きな変化はありませんが、放射線照射後でも形成外科が何らかの方法を講じてくれるように変わってきました。
  • 比較的早期の乳がんに関して、放射線治療を回避することで、整容性を保つ幅広い方法を提供していければと思っています。


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