2016年4月21日開催のらくわ健康教室では、「乳腺科とのコラボレーション 乳がん術後乳房再建について 〜手術後の人生をより豊かに〜」と題して、洛和会音羽病院 形成外科 医員で、医師の土岐 博之(とき ひろゆき)が講演しました
概要は以下の通りです。
◆はじめに
本日は、乳がん手術後の乳房再建について、手術時期や再建方法、入院期間や術後ケア、仕事復帰などについてお話しします。
◆乳房再建って何?
乳がんの手術で乳腺を摘出し、命は救われても、胸のふくらみが失われると、乳房喪失感があったり、左右のバランスが崩れて肩がこったり、大衆浴場や温泉に足を運びにくくなる患者さまは少なくありません。このような患者さまのために、乳房再建が行われるようになってきました。
実際に無くなった乳房をどう補うかは、乳腺摘出手術の範囲に応じて、
自分の他の部位から脂肪や筋肉などを移動させて乳房をつくる、
シリコンなどの人工物で乳房をつくるなど、再建の方法が違ってきます。
◆再建の時期
乳房再建には、一次再建と二次再建があります。一次再建は、乳がん摘出日に同時に乳房再建を行います。二次再建は、乳腺摘出手術後に、いったん落ち着いてから、別の日にあらためて再建手術を行います。それぞれ、利点と欠点があります。乳がんの手術は乳腺科が行い、術後の再建手術を形成外科が行います。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

◆再建の方法
再建には、自家組織(自分の体のほかの部位)を用いて再建する方法と、異物(組織拡張器+インプラント)を用いて再建する方法があります。
<自家組織を用いた再建>
おなかや背中など、ほかの組織をそのまま胸に入れても生着せず、組織に血流がなければ、腐ってしまいます。そのため、多くの場合、筋皮弁、遊離皮弁の形で血流を確保し、再建を行います。皮弁術とは、皮膚と脂肪と、場合によっては筋肉をほかの部位から移動させ、欠損部を覆う術式のことです。皮弁は植皮と違って、皮膚に加えて厚みのある皮下組織(脂肪や筋肉)も含めて移植するため、植皮の平面的再建に対して、皮弁は立体的な再建に用いられます。
皮弁は、皮膚や脂肪、筋肉への栄養血管が含まれているため、立体的で大きな組織でも栄養が行き渡り、新しい部位で生着します。植皮は、皮膚のみを切り離されたあと、血管が再度新しく伸びてくるのを待つため、薄くないと生着しません。植皮は傷を閉じるうえでは有効な手段ですが、立体の再建を行うには皮弁が有効です。
◆再建でよく使われる組織の種類
再建でよく使われる組織の種類は、大きく分けて2つあります。背中の広背筋からとる「広背筋皮弁」と、おなかからとる「腹部皮弁」です。使用する皮弁は、乳がんの切除範囲や乳房の大きさなどによって選択されますが、それぞれに利点と欠点があります。
広背筋皮弁は、血流の安定や筋脱落症状が少ない利点がありますが、大きな胸には不向きで、しばらくは手が上げられないことと、背部に傷跡が残るのが欠点です。腹直筋皮弁は、大きな組織が採取できる・おなか周りがすっきりする・術中体位変換が必要ないという利点がありますが、術後しばらくは前かがみ歩行となる・腹壁ヘルニアになる可能性がある・腹部に傷跡が残る・妊娠を希望する際には選択できないという欠点があります。
◆再建の方法
上に述べたような自家組織を用いる再建と、シリコン製のインプラント(人工乳腺)を用いた再建があります。インプラントには、おわん型のほか、しずく型があります。切除後の胸の筋肉を3〜6カ月かけて伸ばし、間にシリコンを入れて再建します。
インプラントにも利点と欠点があります。利点は、日常に早期復帰できることや、体のほかの組織を犠牲にしないで済むこと、それなりにきれいな乳房ができること、大きな乳房をつくることが可能なことです。欠点は、既製品でサイズが決まっていることや、ごくまれに異物アレルギーが現れること、破損のおそれがあること、加齢による自然な変化が生じにくいこと、下垂乳房を再現しにくいこと、10年に1回の交換が必要なことです。
このほか、乳頭や乳輪の再建も可能です。
◆入院期間
入院期間は、以下の通りです。

退院後の生活では、家事や仕事(事務の場合)の復帰は、術後3週間で可能となります。運動や体を使う仕事は、術後4週間で可能となります。
◆乳がん手術後も豊かな人生を
洛和会音羽病院では、2016年4月から、乳房再建の専門外来(担当医:形成外科 土岐 博之)を開始しました。乳腺科との協働作業で、患者さまの健康と術後の人生を豊かにするお手伝いをいたします。乳がん手術を今後受けられる方や術後で悩んでおられる方は、ご相談ください。
概要は以下の通りです。

本日は、乳がん手術後の乳房再建について、手術時期や再建方法、入院期間や術後ケア、仕事復帰などについてお話しします。
◆乳房再建って何?
乳がんの手術で乳腺を摘出し、命は救われても、胸のふくらみが失われると、乳房喪失感があったり、左右のバランスが崩れて肩がこったり、大衆浴場や温泉に足を運びにくくなる患者さまは少なくありません。このような患者さまのために、乳房再建が行われるようになってきました。
実際に無くなった乳房をどう補うかは、乳腺摘出手術の範囲に応じて、


◆再建の時期
乳房再建には、一次再建と二次再建があります。一次再建は、乳がん摘出日に同時に乳房再建を行います。二次再建は、乳腺摘出手術後に、いったん落ち着いてから、別の日にあらためて再建手術を行います。それぞれ、利点と欠点があります。乳がんの手術は乳腺科が行い、術後の再建手術を形成外科が行います。
※以下の画像は全てクリックすると大きいサイズで見ることができます。

◆再建の方法
再建には、自家組織(自分の体のほかの部位)を用いて再建する方法と、異物(組織拡張器+インプラント)を用いて再建する方法があります。
<自家組織を用いた再建>
おなかや背中など、ほかの組織をそのまま胸に入れても生着せず、組織に血流がなければ、腐ってしまいます。そのため、多くの場合、筋皮弁、遊離皮弁の形で血流を確保し、再建を行います。皮弁術とは、皮膚と脂肪と、場合によっては筋肉をほかの部位から移動させ、欠損部を覆う術式のことです。皮弁は植皮と違って、皮膚に加えて厚みのある皮下組織(脂肪や筋肉)も含めて移植するため、植皮の平面的再建に対して、皮弁は立体的な再建に用いられます。
皮弁は、皮膚や脂肪、筋肉への栄養血管が含まれているため、立体的で大きな組織でも栄養が行き渡り、新しい部位で生着します。植皮は、皮膚のみを切り離されたあと、血管が再度新しく伸びてくるのを待つため、薄くないと生着しません。植皮は傷を閉じるうえでは有効な手段ですが、立体の再建を行うには皮弁が有効です。
◆再建でよく使われる組織の種類
再建でよく使われる組織の種類は、大きく分けて2つあります。背中の広背筋からとる「広背筋皮弁」と、おなかからとる「腹部皮弁」です。使用する皮弁は、乳がんの切除範囲や乳房の大きさなどによって選択されますが、それぞれに利点と欠点があります。
広背筋皮弁は、血流の安定や筋脱落症状が少ない利点がありますが、大きな胸には不向きで、しばらくは手が上げられないことと、背部に傷跡が残るのが欠点です。腹直筋皮弁は、大きな組織が採取できる・おなか周りがすっきりする・術中体位変換が必要ないという利点がありますが、術後しばらくは前かがみ歩行となる・腹壁ヘルニアになる可能性がある・腹部に傷跡が残る・妊娠を希望する際には選択できないという欠点があります。
◆再建の方法
上に述べたような自家組織を用いる再建と、シリコン製のインプラント(人工乳腺)を用いた再建があります。インプラントには、おわん型のほか、しずく型があります。切除後の胸の筋肉を3〜6カ月かけて伸ばし、間にシリコンを入れて再建します。
インプラントにも利点と欠点があります。利点は、日常に早期復帰できることや、体のほかの組織を犠牲にしないで済むこと、それなりにきれいな乳房ができること、大きな乳房をつくることが可能なことです。欠点は、既製品でサイズが決まっていることや、ごくまれに異物アレルギーが現れること、破損のおそれがあること、加齢による自然な変化が生じにくいこと、下垂乳房を再現しにくいこと、10年に1回の交換が必要なことです。
このほか、乳頭や乳輪の再建も可能です。
◆入院期間
入院期間は、以下の通りです。

退院後の生活では、家事や仕事(事務の場合)の復帰は、術後3週間で可能となります。運動や体を使う仕事は、術後4週間で可能となります。
◆乳がん手術後も豊かな人生を
洛和会音羽病院では、2016年4月から、乳房再建の専門外来(担当医:形成外科 土岐 博之)を開始しました。乳腺科との協働作業で、患者さまの健康と術後の人生を豊かにするお手伝いをいたします。乳がん手術を今後受けられる方や術後で悩んでおられる方は、ご相談ください。