2017年04月05日

らくわ健康教室「認知症の話 〜『もの忘れ外来』の紹介を含め〜」

2016年6月29日開催のらくわ健康教室は、「認知症の話 〜『もの忘れ外来』の紹介を含め〜」と題して、洛和会音羽リハビリテーション病院 院長(メモリークリニック 神経内科)の木村 透(きむら とおる)が講演しました。 

概要は以下の通りです。

lecture.jpgはじめに
本日は、認知症について、質問に答える形で、なぜ今この問題が重要か、認知症とは何か、予防は可能か…など、さまざまな側面についてお話しします。

なぜ今、「認知症」の問題が重要か?
超高齢社会に伴う認知症人口の急増が、日本だけではなく世界中で問題となっているからです。官民共に早急な対策が必要です。
予防、早期診断、早期対応によって得られるメリットが極めて大きい点も知っていただきたいです。
日本の認知症人口は、介護保険利用者の数から従来、200万人程度といわれていましたが、実際は460万人もおり、予備軍(MCI=軽度認知機能障害)まで合わせると850万人に達すると推測されます。
団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年には、認知症高齢者は700万人に達すると予想されています。

認知症とは何なんだろう?
認知症とは、いったん正常に発達した知的機能が器質的な原因によって持続的に低下し、そのため、「社会生活に支障をきたすようになった状態」をいいます。原因の多くは加齢に伴った病気と考えられています。いずれにしても、普通に生活できていた人が、脳の衰えや病気により、一人で生活するのが難しくなった状態です。

認知症はどうして起こるのだろう?
認知症を起こす代表的な病気には、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症があり、これらを4大認知症といいます。
一方、全体の1割以下ですが、認知症の中には治療効果が期待できる病気があります。甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、ビタミン欠乏症がこれにあたります。これらの多くは、早期発見できれば、治療が可能です。
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多くの認知症では、無症状のまま、脳に異常タンパク(アルツハイマー病では、アミロイドβやタウタンパク)が溜まり続け、長い期間を経て発症します。特徴的症状として、アルツハイマー病では物忘れや時間・場所が分からないことが起こり、レビー小体型認知症では幻視や歩行障害、意識変動が、前頭側頭葉変性症では行動異常や無為が目立ちます。血管性認知症は、脳血管が痛み、結果として神経細胞が死滅していく疾患です。障害を受ける血管によって症状が異なりますが、歩行障害や意欲低下などを伴うことが多いです。
認知症と紛らわしい病態に、せん妄やうつがあります。せん妄は高齢者が入院した際によく出る症状で、急に「ぼけ」が出現した場合はこれを疑います。感染症や脱水、薬物の影響が考えられ、多くは治療可能です。うつは、認知症の初期と区別がつきにくいですが、薬の効果が期待できる疾患です。
急に「ぼけ」が進んだときは、むしろ本当の認知症ではないことも多いです。治療可能な原因のことがしばしばあり、ちゃんと検査、診察してもらうことが大事です。

アルツハイマー病について
認知症の半分以上を占める代表的疾患です。「物忘れ」で気付くことが始まりですが、実は症状の出る20年前から病気が始まっていることが分かってきました。さらに、研究の発展により、早期診断や根本治療が期待される段階になってきました。
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出典)中京新聞 web+改変
今考えられている対策は、無症状のうちに少しでも早く診断し、発症の予防や治癒を行うというものです。予防、早期診断、早期治療が現在の認知症治療・研究の最大関心事となっています。

認知症はどんな現れ方をするのか?
先述したように、認知症の症状にはそれぞれのタイプによって特徴的なものがありますが、現れ方にはかなり幅があります。また、始まりは正常(年齢相応)との区別がつきにくいです。物忘れという観点から言えば、どこにしまったか忘れて探し物が増えたり、同じことを何回も尋ねるという症状で、家族に気付かれる事が多いです。「さっき言うたやろ」と怒ると、怒り返してきたりするのはよく見られる光景です。また、昔のことはよく憶えているのに、新しいことがなかなか覚えられなくなります。これらはアルツハイマー病の始まりの可能性がありますが、軽度認知機能障害(MIC)のまま、比較的良性の経過をたどる場合もあります。

軽度認知機能障害(MCI)は、
  1. 記憶障害の訴えが本人、または家族から認められている
  2. 日常生活動作は正常
  3. 全般的認知機能は正常
  4. 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
  5. 認知症ではない
といった特徴があります。このMCIの人の一部が、将来認知症になると考えられます。
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出典)アルツハイマー病研究会

最近注目のレビー小体型認知症では
  • ありありとした幻視(人や動物が多い)
  • 良い時と悪い時の差が激しい(日内変動)
  • パーキンソン症状がある
  • 寝言や睡眠中に叫ぶことが多い
  • 妻が2人いる、天井がゆがんで見える、人の気配を感じる…などと言う
物忘れは大したことがないのに、上記のような、特徴的な、かつ不思議な症状がしばしば現れます。また、従来老人性うつ病と思われてきた疾患のかなりの部分がレビー小体型認知症に該当するとも言われています。

認知症の中核症状と周辺症状は?
認知症には、病気本来の症状(認知機能障害)である中核症状と、認知症に伴って引き起こされる周辺症状(BPSD=行動および心理症状)があります。中核症状には、記憶障害や見当識障害、判断力の低下などがあり、BPSDには徘徊や幻覚などがあります。このBPSDをいかに少なくするかが課題です。
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出典)アルツハイマー病研究会
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出典)アルツハイマー病研究会

認知症をどうやって診断するのだろう?
物忘れの鑑別・診断は、生活能力の程度と、認知能力の水準、神経画像検査の3つを主に調べて行います。
生活能力では、以前と比べ、できなくなったことは何かなどを調べます。認知能力は、神経心理テストを行って、見当識や記憶などの評価をします。画像検査は、脳の形の変化や脳の働きの程度をMRIやSPECTなどで調べます。このほかに、身体状態を調べる血液検査も行います。

忘れ外来(メモリークリニック)の目的と役割は?
  • 「物忘れ」の原因の診断と評価、鑑別
  • 病状に応じた治療、薬物療法の導入と調整
  • 進行予防・遅延のための日常生活の指導・生活調整、非薬物療法など
  • BPSDがある場合には評価と薬物療法、他施設の紹介。そして家族への対応の仕方の指導
  • 家庭の介護力に応じての介護サービス利用の紹介、助言(介護保険申請など)
  • 介護福祉ネットワークとの連携
  • 成年後見利用の診察
洛和会ヘルスケアシステムの認知症関連部門は以下のとおりです。
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われわれのメモリークリニックでは
洛和会音羽リハビリテーション病院では週2〜3回、メモリー専門外来を行っています。2回の受診で、診断、治療導入、コンサルトまでほぼ可能です。初回(30分〜1時間)は、問診や診察、認知テスト(簡易)、必要な身体的検査(採血、心電図など)を行い、本人やご家族からじっくりお話を聞くことから始めます。
2回目は、神経画像(MRI/SPECT)検査、認知テスト(詳細)を行い、結果を説明した上で、今後の方針や対策などを相談します。薬物治療の導入や、介護に関わる問題や新薬治験のご紹介なども行います。診断したきりということはしません。
認知症が心配になったら、まずはかかりつけ医に相談の上、必要なら専門医や物忘れクリニックを紹介してもらってください。専門といっても、脳の写真だけを撮って…というところは信用できません。CTやMRIだけでは早期診断はできません。

治療はどこまでできるのだろう?
治療は、薬物療法と、非薬物療法、そして介護(ケア)を組み合わせる形で行います。
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出典)アルツハイマー病研究会

現在可能な薬物治療には、記憶物質(アセチルコリン)を増やしたり、神経を保護する薬があり、認知症の進行を抑える一定の効果があります。アリセプトやレミニール、リバスタッチ(エクセロン)、メマリーなどの薬で、患者さまの状態に合わせ、バランスを考えながら処方します。また、周辺症状の改善には、向精神薬や漢方薬(抑肝散)などを用います。患者さまによっては、かなりの改善効果があります。
現在開発中の薬物療法も多数の試みが進んでいます。脳内の蓄積物質(アミロイド)を除去する薬では、動物実験はすでに成功し、現在は人に向けた治験が進んでいます。「早期発見・介入」がキーワードで、早くから始めることで効果が高まることが期待されています。当院でも、積極的に新しい治療へのチャレンジ(臨床治験)を行っています。

認知症の人に対してはどう対応したらいいのか?
認知症ケアの基本は、以下のような認知症の人の心理や体験している世界を理解することです。
  • 「分からない」ことの連続⇒不安と混乱
    思い出せない、何かがおかしい、考えても考えても分からない…と不安が増します。
  • 家事や仕事の失敗⇒自尊心の喪失
    自信がなくなったり、孤独感や諦めからうつになる場合もあります。
  • 現実の世界についていけない⇒焦燥・恐怖
    周囲とのずれに戸惑いや焦り、いら立ちを覚え、気にしていることを指摘されると立腹します。
  • 自分自身が壊れていく⇒強い恐怖
不安や恐怖の中で、懸命に自分らしくありたいと願っているのが認知症の人です。それを分かった上で、本人理解に努めましょう。異常と思える行動にも、本人にとっては何か目的があったのだろうと捉える姿勢が必要です。
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出典)アルツハイマー病研究会
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出典)アルツハイマー病研究会

周辺症状への対応:
BPSDによる問題行動は、徘徊や抑うつ状態などのほかにも、怒ったり、暴力をふるったり、物を隠す行動などが見られ、家族が振り回されるケースが多々見られます。ただ、それらの問題行動にも、「その人なりの理由があるはず」「何かきっかけがあるはず」です。それが分かれば、対応策が見えてくるでしょう。

認知症の予防はできるのだろうか?
今までのデータや現在進行中の試みを基に考えてみましょう。さまざまなデータや研究により、「認知症の発症の予防、進行の抑制はかなり可能である」と考えられるようになってきました。動物実験では、アルツハイマーの遺伝子をもったネズミが、楽しい快適な環境下では発症が遅く、悪い環境下では早く発症するデータが出ています。米国の「ナン・スタディー」(修道女を対象にした研究)では、脳がアルツハイマー病になりながら、認知症状を発症していない人が見つかっています。発症はアルツハイマー病に何らかの環境因子が加わることで起きると仮定すれば、人間も環境次第で、アルツハイマーの発症を遅らせることが可能と推測できます。

認知症予防をまとめると
  1. 生活環境の調整:楽しく、頭・体を使う
  2. 生活習慣(病)の予防・治療:高血圧、糖尿病、喫煙
  3. 合併症を予防・治療:脳卒中、心臓病
そして、早期発見で新たな治療(根本的治療)をという流れになっています。

さて、これから皆さんはどうしますか?
私たち、それぞれが今できることは何でしょうか。健康寿命と平均寿命をできる限り近づけることです。健康寿命とは、要介護にならずに生活できる水準を維持する状態です。寿命=健康寿命+要介護期間でもあります。この要介護期間は現在、女性で平均13年間、男性で9年間で、この時期は認知症対策が必要な時期とも重なります。介護者の年齢も高くなる一方で、老老介護や認認介護もひとごとではありません。
要介護となった原因を調べると、日本人の死因の1、2位を占めるがん、心疾患はほとんどなく、脳血管障害や認知症、転倒骨折などにいたる運動器障害の割合が高いことが分かります。これらは生活習慣の改善で予防が可能です。これからの私たちの健康は、自助努力+互助が必要になるでしょう。

私たちがすべきこと(自助)
好ましい生活習慣(運動や食事、睡眠など)を保ち、社会とのつながりを持って、楽しく暮らすことです。週3回以上の有酸素運動はとても効果的で、これだけで認知症を半分ぐらいに減らせるのではともいわれています。糖尿病や高血圧、メタボなどを避けるためには、食生活も大事ですし、禁煙も大切です。認知症は生活習慣病の成れの果ての姿ともいえます。そこまでくる前に、予防や対策をすることが大事です。
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出典)厚労省ホームページ

最近の朗報として、欧米では以前の予想より認知症の発症率が減少してきたとの複数の報告(英、オランダ、スウェーデン、米)がなされています。これは、心臓病や高血圧などの管理や教育が進んできた影響とも考えられます。日本でも今後、同様に認知症の発症カーブを和らげる可能性があると思えます。

まとめ
認知症には、さまざまな原因があります。アルツハイマー病は、その代表疾患です。
認知症と紛らわしい症状があります。適切な対応を。特に薬、感染、脱水に気を付けましょう。
認知症の始まりかなと思ったらなるべく早く(できれば専門家の)評価を受けましょう。(物忘れ外来やメモリークリニックがあります)
認知症の研究は素晴らしく進歩しており、将来の根本的な治療も夢ではありません。
認知症を予防するために、生活習慣を改善しましょう(食事、運動…)。
特に生活習慣病(糖尿病、高血圧、脳梗塞など)の治療・コントロールは認知症予防に必須です。
認知症の人には、居心地の良い対応・環境・適切な薬剤を。
これが結果的にBPSDを減らし、周りの人の苦労を軽減することにつながります。
認知症の介護をする人は、愛情とともに、いかに手抜きをするか、工夫しましょう(社会資源の活用を)。



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