2019年08月05日

第30回洛和会ヘルスケア学会 看護分科会・介護分科会リポート

看護・介護の現場から意欲的な研究成果や提言
地域包括ケアシステムや認知症ケア向上に向けた取り組みなどを発表

第30回洛和会ヘルスケア学会の看護分科会・介護分科会が7月28日(日)、京都市左京区のみやこめっせで行われました。洛和会ヘルスケアシステムの各医療機関、介護施設の看護師、介護福祉士ら職員たちが取り組んでいるさまざまな研究成果を発表しました。
口演での発表が40件、展示での発表が44件。現場での取り組みを基にした意欲的な発表や提言が続き、訪れた関係者や同僚たちが熱心に耳を傾けていました。

今年の特徴は、地域包括ケアシステムの構築に向けて現場で取り組まれている在宅復帰・退院支援や在宅看護・介護との連携強化に関する発表が多かったことです。増加する認知症の人のケアに関する研究も目立ちました。地域包括ケアシステムは、国が2025(令和7)年をめどに構築を目指しています。その年には団塊の世代が75歳以上になり、国民のほぼ5人に1人を75歳以上が占めると予測されており、医療・介護の需要が大きく膨らみます。超高齢社会を支える医療・介護の構築と地域の人々の健康で幸せな人生を実現するため、洛和ヘルスケアシステムのさまざまな現場で取り組まれている研究や模索の成果が報告されました。
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■地域包括ケアシステム構築へ、在宅復帰・退院支援の取り組み

洛和会丸太町病院洛和会音羽リハビリテーション病院の看護師たちは、地域包括ケアシステムの構築に向けてそれぞれに取り組んでいる退院支援や継続看護について研究成果を発表しました。

洛和会丸太町病院 看護部 4病棟の看護師たちは「看看連携を意識した退院支援の現状」と題して、2017年12月から導入された病棟看護師による退院後訪問の現状を報告しました。患者の中には「老老介護」や「認認介護」の高齢者も多く、一人一人の実情を踏まえた継続的な看護が必要だとして、病棟看護師と訪問看護師との連携の重要さを強調していました。

洛和会音羽リハビリテーション病院 看護部 2A病棟の看護師たちは、2016年6月に「地域包括ケア病床」が導入されて以降の現状を報告しました。看護師らで話し合った結果、患者の入院時から退院に向けた計画を作成することや、その情報共有、看護師のマネジメント・スキルの向上などが今後の課題にあがったと話しました。
同病院・看護部3A病棟の看護師たちは、患者が再び住み慣れた地域で生活できるように2018年11月から実施している入院時の患者宅への訪問について発表しました。対象患者の選定などで手間取り、まだ実施件数は少ないものの、入院時から家族の状況を知り、それを多職種で共有する必要性を指摘していました。

また、在宅強化型老人保健施設 洛和ヴィラアエル(京都市山科区)の職員たちは、誤嚥性肺炎を起こした入所者を本人や配偶者の願いに沿って、多職種が連携し在宅復帰を実現させた事例を報告しました。

■認知症の人のケア向上の取り組み

認知症の人のケア向上についても、各病院やグループホーム、介護老人福祉施設などから多くの発表がありました。

洛和グループホーム桂川(南区)の職員たちは、入浴を嫌がるようになった入所者のために、嫌がる理由を全職員で考え夜間の入浴などを試みた結果、時々だが、自ら入浴するようになり、その後は職員たちとも打ち解けて個別の外出も可能になった事例を報告しました。同施設は「笑顔で寄り添い、ありのままともに過ごす」を目標にしており、この経験を基に「その人本来の姿で生きてもらうのが大切だ」と提言しました。

洛和ヴィラ大山崎(乙訓群大山崎町)の職員たちも、脳梗塞を発症してから怒りっぽくなった90歳代の入所者について、リビングのレイアウトを変更するなどして怒りを招く原因をこまめに取り除き、多職種が連携し落ち着ける環境づくりに取り組んだ事例を発表しました。

洛和グループホーム北花山(山科区)は、職員が入所者の行動にストップを掛ける「ちょっと待って」という言葉の削減に取り組んだ報告をしました。危ないからといって自発的な行動を止めるのではなく、周囲から危険な要素を取り除くように工夫したそうです。

また、洛和会音羽記念病院 看護部 2病棟の看護師たちは、認知症の患者が約半数を占めていることから、経験の浅い看護師の認知症ケアの理解を深めるため、認知症患者の状態を把握するチェックリストを作成し認知症への対応能力を上げた取り組みを報告しました。
入所者のADL(日常生活動作)の改善を図るため、工夫した体操に取り組んだ事例を報告する施設がいくつもありました。

介護付有料老人ホーム 洛和ホームライフみささぎ(山科区)の職員たちは、「みささぎ体操」という集団体操を導入した結果、入所者の握力を維持できるようになったほか「入居者の健康に対する意識が向上した」と成果を話しました。
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■看取りの取り組み

看取りの経験を伝える発表もありました。施設での看取りが増えているほか、今後は在宅での看取りの増加も見込まれます。

洛和会訪問看護ステーション壬生(中京区)の職員たちは、終末期の肺がん患者を自宅で看取った家族を支援した事例を報告しました。看取りについて家族にパンフレットを使って丁寧に説明し、患者が亡くなった後、家族から感謝の言葉を受けたそうです。

洛和グループホーム山科小山(山科区)は、2018年度に4人の入居者を看取った経験を報告。本人が少しでも気持ちよく最期を迎えられるよう、加えて家族も後悔の気持ちを抱くことないよう看取りをケアしました。「本人と家族から看取りについての願いを聞いておくことが重要です」と提言していました。

■災害・事故への備え

大規模な自然災害や事故が増えています。その際の対応に関する研究もありました。

地域災害拠点病院に指定されている洛和会音羽病院 看護部 救命救急センター・京都ERの看護師たちは、災害トリアージの実技テストを2度実施したところ、ストレスや緊張がテスト結果に影響していたことを報告し、普段からの意識付けの大切さを提言していました。

洛和会医療介護サービスセンター東大路店(左京区)は、昨年、左京区の豪雨災害で地域に避難勧告が出たため、寝たきりの利用者がいる家族から「災害時に避難する方法が分からない」という相談が相次いだことを報告し、ケアマネジャーが避難方法などを学び平常時から準備する必要性を話しました。
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■まとめ

経験したことのない超高齢社会を迎えています。2025年には65歳以上の高齢者が人口の30%を占め、認知症の高齢者も急増すると予測されています。そういう社会を支える医療・介護の仕組みとして、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最期まで続ける地域包括ケアシステムの構築が、2014年の法施行から始まっています。
でも、そのシステムを実現する医療・介護を支えるのは現場の職員たちの力です。分科会での発表の中には、まだ模索中という印象を受ける報告もありましたが、現実を直視して問題提起する中から重要な課題が見つかり、進歩が生まれるのだろうと感じさせられました。今後につながる新しい取り組みの報告もありました。現場で職員たちが模索を重ねる中で、良い知恵も生まれ担い手も育っていくのだと思います。多忙な現場で研究をまとめたチームプレーも今後、いろいろなことに挑戦する際の力になるはずです。
認知症の人のケアに関する報告は、日進月歩の介護の現場を感じさせました。医療やリハビリの進歩に合わせ介護の世界も着実に進歩しています。それを支えているのは、現場の人たちの創意工夫です。発表では「笑顔で寄り添う」「入所者の気持ちを大切に」という原点を強調する施設がいくつもありました。介護の原点は変わらないのだと思います。介護は、小さく見えることにも持続して取り組む大きなエネルギーが求められる現場なのだと感じさせられました。職員たちがそういうエネルギーを持って、入所者たちに希望や喜びを与えたり、生き生きとした毎日を送れるように知恵を絞ったりした施設の報告には、心から拍手を送りたい気持ちになりました。

(洛和会企画広報部門 顧問 森田信明)

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