2014年8月9日開催のらくわ健康教室では、「かかわり方が決め手!『認知症ケア』」と題して、介護事業部 グループホーム事業 課長で介護福祉士・介護支援専門員の遠藤 英三子(えんどう えみこ)が講演しました。
概要は以下のとおりです。◆はじめに
認知症を取り巻くケアの環境は、以前の「認知症を中心としたケア」から、「その人を中心としたケア」へ変わりました。認知症を問題視するのではなく、人として接すること(自由を保障する・物語に参加する・共感的に受け入れる)、できないことではなく、できることを見て支援する(寄り添って平等な関係を築く・本人のもっている力や本人の思いに気付く)ことが重要です。
◆認知症とは
認知症は、脳の後天的な病気です。年齢のせいや、自然な老化ではありません。物忘れは誰にでも起きますが、“健常な物忘れ”は体験の一部だけを忘れるのに対し、“認知症の物忘れ”は、体験の全てが抜け落ちます。このため、“健常な物忘れ”の場合は、体験のほかの記憶から物忘れした部分を思い出すことができるのに対し、認知症では体験全てを忘れているため、思い出すことが困難になり、物忘れを自覚できないことになります。
認知症には、以下の4つのタイプがあります。
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◆認知症に伴うこころとからだの変化
認知症は、もの忘れなどの中核症状があり、適切なケアが受けられないと妄想や徘徊といった行動・心理症状(BPSD)を引き起こします。
<中核症状:記憶障害>
人間の記憶には、以下の3つの力があります。
- 記銘力(新しいことを覚えこむ力)
- 保持力(覚えたことを記憶のなかにとどめておく力)
- 想起力(あらためて過去の記憶を呼び起こす力)
認知症の人は、最近のこと・直前のことを記憶するのが難しい半面、昔のことはよく覚えていることが多いです。
直前のことを記憶することが難しいため、何度も同じことを聞くのも特徴です。「今何時?」「お金はどこ?」「食事はまだ?」「ここはどこ?」…といった具合です。
<中核症状:見当識障害>
見当識障害は、時間→場所→人の順番でわからなくなります。
<中核症状:理解・判断力の低下>
- 考えるスピードが遅くなる
⇒時間をかければ自分なりの結論に至ることができる。 - 2つ以上のことが重なるとうまく処理できない
⇒一度に処理できる情報量が減る。必要な話はシンプルに表現することが大事。 - 些細(ささい)な変化、いつもと違う出来事で混乱を来しやすくなる
⇒お葬式での不自然な行動や夫の入院で混乱してしまっていたことをきっかけに認知症が発覚する場合がある。予想外のことが起こったとき、補い守ってくれる人がいれば日常生活が継続できる。 - 観念的な事柄と、現実的・具体的な事柄が結びつかない
(例:高価な羽布団を何個も購入、ATMなどの前でまごつく、全自動洗濯機が使用できないなど)
<中核症状:実行機能障害>
- 計画を立て案配することができなくなる
(例:冷蔵庫に入っている油揚げを忘れて、また購入→夕方台所に立つと購入した油揚げを忘れて違う材料でみそ汁を作る。ご飯を炊き、同時進行でおかずを作ることができないなど) - 保たれている能力を活用する支援
⇒誰かが全体に目を配りつつ案配すれば、一つひとつの調理作業は上手にできる。「今日のおみそ汁は、大根と油揚げだよね」と一言手助けする人がいれば、その先は自分でできることがたくさんある。

(例:周囲の人が予測しない、思いがけない感情の反応を示す。認知症による記憶障害や見当識障害、理解・判断障害のため、周囲からの刺激や情報に対して正しい解釈ができなくなる。技術の進歩により日常使う電話やテレビなどの機器が昔とは様変わりしていることに対応できないことも)

◆行動・心理症状
不安や焦燥(イライラ)にかられ、次のような症状を呈します。
- うつ状態
- 幻覚・妄想(周囲の人には見えていないものが見える。物を盗られたと思い込む)
- 徘徊(家がわからなくなり動き回る)
- 興奮・暴力(急に怒り出す)
- せん妄(一時的に混乱して、そわそわしたり興奮して動き回る)
- 介護拒否
- 帰宅願望(自宅にいるのにも関わらず)
- 脅迫症状
- 睡眠障害(睡眠リズムの乱れ)
- 昼夜逆転(昼間はウトウトし、夕方以降活発になる)
- 不潔行為(排便の処理などがわからなくなることがある)
- 収集癖(物を持ち帰る)
◆認知症と生活環境
認知症の人をケアするには、環境面の配慮が大切です。
◆認知症の人と接するために
認知症になったとしても、何もわからないわけでも、何もできないわけでもありません。その人を尊重し、理解しましょう。理解してくれる人、安心できる居場所が大切です。認知症になっても快(喜び)・不快(嫌なこと)の感情は残ります。
◆認知症の人への対応
以下のようなことが大切です。
◆スタッフが心掛けていること
認知症の人への対応は、「相手を尊重する」「相手を敬う」「相手に感謝する」「認知症よりもその人自身を理解する」といった「人としての関わり」が大切です。そのためにスタッフが心掛けていることは、「ゆっくり」「一緒に」「楽しく」です。
スタッフが穏やかに優しい対応で、じっくり相手のペースに合わせること、一人ひとりのできることを理解すること、その人に合った活躍の場面を暮らしのなかでつくり、一緒に行うことを心掛けています。
◆認知症の相談先
下記のような場所で、相談を受け付けています。